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 安倍首相の「ウィンウィン」という説明は、にわかに受け入れがたい。

 1年前に交渉開始を決めた日米貿易協定が最終合意した。米国産の牛肉や豚肉の関税は、環太平洋経済連携協定(TPP)の水準に下げる。この米国側の要求をのんだのに、日本製の乗用車や自動車部品に米国がかける関税削減は先送りされた。

 来年の大統領選を前に、トランプ氏が支持基盤の農家向けの成果を急ぎ、日本側を押し切ったのだろう。首脳会談の会場に米国の農家を招いたのは、政治的な演出そのものだ。

 自動車関連については「さらなる交渉による関税撤廃」との表現が、関税率をまとめた米国側の表に入る。しかし時期は示されない。対日貿易赤字の多くを占める自動車の関税撤廃に、トランプ氏が本当に動くのか、見通せない。

 世界貿易機関(WTO)のルールでは、二国間で貿易協定を結ぶ際には貿易額の9割程度の関税撤廃が求められる。対米輸出額の約35%を占める自動車関連の関税撤廃時期を示さないのでは、自由・公正という貿易の原則をゆがめかねない。

 米国はこの交渉とは別に、安全保障を理由に、輸入車に追加関税をかけることを検討している。両首脳が今回署名した共同声明には「協定が誠実に履行されている間、共同声明の精神に反する行動を取らない」という文言が入った。これをもとに、首相は追加関税をかけない意向を、大統領から「明確に確認した」と強調する。

 ほぼ同じ表現は、1年前の共同声明にも盛り込まれた。しかしその後の交渉中、米政府は、日本などからの輸入車が安全保障上の脅威であると結論づけたうえで、追加関税発動の判断は11月中旬に先送りしている。声明の文言では安心できない。

 この交渉はTPPから離脱した米国の求めで始まった。日本側は当初、モノの関税に特化した「物品貿易協定(TAG)」と説明していたが、今回はデジタル貿易協定にも合意した。8月の首脳会談では、トランプ氏から「米国で余っているトウモロコシをすべて日本が買う」といった発言が飛び出した。

 両国間で何を話し、日本側の譲歩も色濃い今回の結論にどう至ったのか。説明が尽くされぬままの「最終合意」だ。

 貿易協定は年度内にも発効させ、その後4カ月以内に、この先どの分野で交渉を続けるかの協議を終えるという。本当に自動車分野の関税撤廃はできるのか、他に何を協議するのか。

 来月召集の臨時国会でこそ、首相は避けてきた国民への説明責任を果たさねばならない。

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