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 「公共」とは何か。「視聴者目線」に立つ報道には、どんな覚悟が必要か。経営トップ自ら考え直すべきではないか。

 かんぽ生命保険の不適切販売を報じた番組をめぐり、NHKで昨年、異様な動きがあった。日本郵政グループが経営委員会に要望書を送り、それを受けて経営委が上田良一会長に「注意」をしたという。

 前後して、番組の続編は放映が見合わされ、視聴者にツイッターで情報提供を呼びかけた動画が削除された。昨年夏、多くのかんぽ生命の契約者が乗り換えで不利益を被る事態が起きていたさなかのことである。

 郵政側は当初、ツイッターの動画について「名誉毀損(きそん)」などと抗議をした。その後、NHKの番組幹部が郵政側への説明の中で「番組制作と経営は分離し、会長は制作に関与していない」と発言したことをめぐり、NHKのガバナンス(統治)体制の検証を会長に、さらには経営委に求めた。

 会長への「注意」はその要請をふまえてなされた。その後、会長は番組幹部による対応について「誠に遺憾」とする文書を郵政側に届けている。

 放送法は、経営委による個別の番組編集への関与を禁じている。NHKの番組編集の自由を担保するための規律である。

 今回の対応について石原進経営委員長は「視聴者目線に立った」とし、編集に関与できないのは認識している、と述べた。公共放送の経営の長としての資質を疑うほかない。

 多くの被害を生んでいる事象について報じ、社会と共有する報道の活動にこそ視聴者目線が意識されるべきであり、問題を指摘された企業の苦情に個別に応じるようでは、公共放送の信頼と公平性を損ねる。

 日本郵政には、放送行政を所管する総務省のOBもいる。NHKとのやりとりには、総務省の元事務次官も関わっていた。経営委の忖度(そんたく)が働いたとの見方があるのもやむをえまい。

 経営委はNHKの最高意思決定機関だ。会長を任命し、経営方針を決定する権限がある。だが今回の件は、議事録さえ存在しない。こうした透明性を欠く運営のあり方も問題だろう。

 次期会長の指名時期が迫っているが、今の経営委にゆだねるには強い不安が残る。

 一方、日本郵政の経営陣も猛省すべきだ。NHKの番組などは、かんぽ生命販売の問題を直視する機会の一つだったのに、逆に抗議に動いたのである。

 長門正貢社長は、今年6月まで重大さを認識しなかったと語っていた。NHKの「ガバナンス」に口を出す前に、自らのガバナンス不全を恥じるべきだ。

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