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 米国の政治がいっそう波乱含みになってきた。政争の激化で内政も外交も大きく揺れる事態を心配せざるをえない。

 トランプ大統領に対し、議会下院が弾劾(だんがい)裁判に向けた調査を始める。下院の多数を占める野党民主党が、大統領の疑惑を本格追及する構えを固めた。

 疑惑は、旧ソ連のウクライナ首脳とトランプ氏との電話でのやりとりをめぐるもの。トランプ氏が今年夏、バイデン前副大統領についての疑惑を調べるよう、ウクライナ当局に圧力をかけた疑いがもたれている。

 バイデン氏は来年秋の米大統領選で野党候補になるかもしれない有力者だ。そのライバルを追い落とす材料探しのために、外国首脳に協力を強いたとすれば、明らかな権力の乱用だ。

 トランプ氏は3年前の大統領選の前にも、クリントン候補への攻撃にロシアの協力を仰いだとの疑惑がある。特別検察官が捜査したが、訴追には至らず、灰色の決着に終わった。

 トランプ氏は今回も政治的な陰謀だと反発している。だが、弾劾手続きは憲法に基づく立法府による行政府への正統な権限の行使だ。議会の調査には真摯(しんし)に協力すべきだ。

 米国史上、弾劾調査に入った前例は3件しかない。ニクソン氏は弾劾相当との議決を目前にして自ら辞めた。そのほかは、ビル・クリントン氏の不品行をめぐる弾劾と、19世紀にあった初の事例で、ともに上院での裁判は無罪で終わっている。

 今回も、上院は与党共和党が多数を占めるため、トランプ氏が辞職に追い込まれる可能性は低いとの見方が強い。だが調査の過程でトランプ政権の新たな問題や、隠蔽(いんぺい)工作などが浮上する事態も否定できない。

 政権・与党と野党との対立は深刻だ。すでに米政治の分断は社会と経済に深い影を落としてきた。年内にも予算論議が紛糾し、再び政府機関の閉鎖に陥る恐れもある。与野党には分別ある議会運営を望みたい。

 国際社会から見れば、対外政策への波及を警戒せざるをえない。90年代後半、クリントン政権が海外で踏み切った軍事行動の背景に、弾劾の疑惑から国民の目をそらす動機があるのではないかと取りざたされた。

 それでなくとも米国第一主義のトランプ氏は、国際秩序を安定させる責任を嫌う。大統領選に向け、さらに場当たり的な外交に出る不安は拭えない。

 米国の威信が退潮するなか、紛争や摩擦の解決に向けては、他の主要国の役割が求められる度合いが強まるだろう。欧州や日本など主要国は、米国の独断的な姿勢をいさめつつ、国際協調を守る道を探るほかない。

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