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 混乱を収拾するよりも、逆にこじらせる恐れが強い。香港の自治を自ら崩壊させかねない危うい措置を撤回すべきだ。

 香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官がきのう、「緊急状況規則条例(緊急法)」を発動した。自らに権限を集中させ、立法機関の審議を経ずに法律を定めることができる。

 これをもとに、マスクなどで顔を覆うことを禁じる「覆面禁止法」が制定された。「暴力行為の抑制」を目的とし、きょうから施行されるという。

 4カ月以上に及ぶ市民デモの本質を、長官はいまだに理解していないのではないか。市民の怒りは、こうした強権による自由の制限に向けられており、反発を増幅する可能性が強い。

 香港で法律をつくるのは立法会の役割だ。その手続きを省略する緊急法の発動は、「公共の安全に危害が及ぶ状態」などに限定されている。

 前回の発動は、英国の統治に市民が反対した1967年の暴動の際だった。当時は爆弾の使用などで51人の死者が出た。今の香港がそこまでの状況であるとは言いがたい。

 緊張を高めているのはむしろ香港政府側の強硬姿勢である。

 中華人民共和国の成立70周年にあたる1日には、高校生が警察官から銃で撃たれ、一時重体に陥った。市民に実弾を発射するのは明らかに行き過ぎである。長官は警察の実力行使を抑える措置にこそ動くべきだ。

 今回の緊急法の発動に続き、香港政府が今後さらに「緊急状態」の認定をすれば、中国政府による香港への直接介入が可能となる。そうなれば「一国二制度」そのものの土台が崩れてしまう。

 覆面を禁じる法律も異様だ。市民がデモで顔を隠すのは、当局の監視と拘束を恐れるからであり、そこには中国的な自由の制限がある。私的な服装までもを取り締まる法律は、適用の対象すらはっきりしない。

 香港の今日の繁栄を築いてきたのは、高いレベルの「自由」が保障され、「法の下の平等」を約束する法治システムが機能してきたからだ。それを中国共産党政権は骨抜きにし、香港政府も追従する流れを、香港の人びとは不安視している。

 デモの要求は、警察の暴力の検証や、行政長官を選ぶ普通選挙の導入などに広がっている。香港政府が急ぐべきは、デモを封じる強権行使ではない。警察の逸脱行為をやめさせ、市民の要求に謙虚に耳を傾ける対話の場を設けることだ。

 自治強化のための改革は時間がかかるだろうが、そこに踏み出す覚悟を示さなければ、事態収束の道は見えないだろう。

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