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 情熱をはき違えて暴言や暴力に走ることも、それを容認することも、あってはならない。

 サッカーJリーグのJ1湘南がチョウ貴裁(チョウキジェ)監督の退任を発表した。悪質なパワーハラスメント行為が明らかになったのを受けたものだ。クラブを去るのは当然で、むしろ遅きに失した。事後対応のまずさも加わり、サッカー界が失った信頼の大きさ、傷の深さは計り知れない。

 7月に日本サッカー協会に匿名通報があり、Jリーグが依頼した弁護士チームが調査していた。約60人からの聞き取りなどを経て今月4日に公表された報告書は、驚く内容だった。

 無能、使えねえなどの暴言をスタッフに浴びせ、深夜早朝を問わず電話する。暴力行為にも及び、出勤不能や退団を余儀なくされた者も少なくない。

 選手への対応も同様だ。言葉で追い込むのは茶飯事で、練習中に足の不調を訴えた選手に医療スタッフが近づくのを許さなかったこともある。結局、選手は8カ月の重傷を負った。

 一連の振る舞いを、報告書は「相手の人格・尊厳を傷つけ、周囲にも精神的苦痛を与えて職場環境を悪化させる行為」と認定し、クラブとリーグに厳正な措置と再発防止を求めた。

 問題は、指摘を受けたこの両者の対応である。

 あきれたことに、クラブは当初、監督を続投させる方針を示した。それで現場のモラールが保てると考えたのだろうか。監督の横暴を容認したとして、報告書は経営側の責任も厳しく批判している。クラブの会長ら幹部はこれを精読したのか。認識のずれには驚くばかりだ。

 リーグの処分にも疑問がある。監督に公式戦5試合の出場停止、クラブに制裁金200万円を科したが、いかにも生ぬるい。プロバスケットのBリーグはこの夏、同じような暴力的指導を繰り返したコーチを、1年間の職務停止としている。

 暴力や差別の根絶を掲げ、指導者資格の認証や研修体制の整備・充実で、国内スポーツ界の先頭を走ってきたのがサッカーではないのか。全体を統括する日本サッカー協会は、しっかりかじ取りに当たる必要がある。広いすそ野をもち、ファンに支えられる競技団体として、重責を自覚してもらいたい。

 今回の調査の過程では「厳しい指導のおかげで成長した」と話す選手もいたという。いっときの成功体験にとらわれ、自分が教える側になった際に、同じ誤った手法に頼る。それがスポーツをいかにゆがめてきたか。

 事件を奇貨として、パワハラ指導と絶縁する覚悟を、競技や立場を超えて、いま一度固め直さなければならない。

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