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 準備を進めてきた関係者には反発や戸惑いがあるだろう。だが優先すべきは選手の健康であり、観客の安全だ。

 東京五輪のマラソンと競歩のコースを札幌に変更する案を、国際オリンピック委員会(IOC)が打ち出した。国際陸上競技連盟も了解済みだという。

 酷暑が予想される東京に比べて良好なコンディションが期待でき、国際大会レベルのレースを毎年8月に開いてきた実績もある。東京都と組織委員会は提案を受け入れ、札幌市も交えて準備を急いでもらいたい。

 この夏に行われたテスト大会を通じて、東京の暑さの厳しさが改めて確認された。これを受けて朝日新聞の社説は「大胆な変更や発想の転換をためらうべきではない」と主張した。とりわけ持久力の限界に挑むマラソンと競歩は、生命の危険さえはらむ。スタート時刻の繰り上げや道路舗装の改良などで乗り切ることができるのか、不安はぬぐえなかった。

 さらに中東カタールで開かれた世界選手権大会で、暑さによる混乱を見せつけられた。マラソンと競歩は深夜開催になったにもかかわらず、途中でレースをやめる選手が相次いだのだ。IOC幹部が危機感を抱き、小紙の取材に「東京五輪が棄権者が続出した大会として記憶に残ってほしくない」と述べたのは十分理解できる。

 むしろ感じるのは、こうした思い切った見直しができるのなら、IOCにせよ都・組織委にせよ、なぜもっと早くに方針を転換し、調整に取り組んでこなかったのかという疑問だ。

 陸上競技は第1回大会から行われ、中でも最終日の男子マラソンは花形種目だ。そんな歴史や、会場を集中させる「コンパクト五輪」を掲げて招致したことが妨げになったのだろうか。だが選手・観客の健康や競技環境を気づかう必要があるのは、この2種目に限らないはずだ。見直すべきは見直すという姿勢で、いま一度、広く運営のあり方を検討してほしい。

 変更がもたらす別のメリットもある。マラソン界では近年、暑さを嫌って五輪を避け、秋の賞金レースに備える有力選手が増えている。こうした選手が札幌を走ることになれば、大会は盛り上がりを増すだろう。

 今回の出来事を踏まえて、IOCには改めて注文したい。

 夏季五輪の時期を7、8月とする現在のやり方は限界にきている。欧米の人気スポーツが手薄なときに開催し、テレビ局からの放映権料をより多く得ようとする考えを続ける限り、同様の問題が必ず起きる。東京大会の苦難と混迷を教訓に、持続可能な五輪像を探るべきだ。

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