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 ■東京工芸大×朝日新聞

 ゲームやバーチャルリアリティー(VR)が社会的課題を解決する道はどこにあるか。朝日新聞社が14の大学・法人と協力して展開する大型教育フォーラム「朝日教育会議2019」。今回は東京工芸大学。芸術学部ゲーム学科を擁し、「ゼビウス」「パックマン」など人気ゲームの開発者たちが教壇に立つ。クリエーターの卵たちがゲームを「学問」する同大学で、ゲームの可能性について論じ合った。【東京都千代田区のイイノホールで9月21日に開催】

 ■基調講演 多様性いかす、日本ならではの楽しみ方 東京工芸大教授・遠藤雅伸さん

 大ヒット作「ゼビウス」の開発者でもある遠藤雅伸・東京工芸大学教授が基調講演し、日本におけるゲーム文化の独自性を説いた。

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 日本は多様性に寛容な国です。明確な四季があり、風土が多神教的なので「何事にも様々な側面がある」ことが理解されやすい。

 この多様性が、日本のゲームの原点でもあります。細身の女性キャラが重たい武器を片手で振り回したり、魔女がなぜか眼鏡をかけて銃を持ったり。レースゲームでは、現実の世界では実現が不可能なのに、逆方向に回転しながら曲がる「逆ドリフト走行」が人気を集めたりする。あり得ないことが許されるのが日本の良さです。

 いま世界では、あたかも自分が戦場にいるかのような「FPS」(First Person Shooting)というジャンルのゲームが人気を集めています。効率良く敵を撃ち、全て倒すことを目指します。しかし、日本では同じFPSでも、ルールを変え、逃げ回っても勝てるようにしてしまいます。

 ロジェ・カイヨワというフランスの知識人がかつて、「競技」と「遊戯」というゲームの二面性を提唱しました。ゲームをする人も「勝つことこそ正義」という競技志向と「面白ければいい」という遊戯志向に分かれます。

 多くの国は競技志向が強いのですが、日本は半数以上が遊戯志向です。

 単に楽しむだけではありません。ロールプレイングゲームで(武器などを調達する)店に一切寄らずにクリアを目指すような、ルールを超えた遊び方を自分で考えて楽しむのです。「なんでこんなことしてるの?」とも思えるユニークな遊び方は、自分の芸術性を表現していく芸道に通じるところもあります。

 一方、競技志向の日本人も「勝てば何をやってもいい」わけではない。相手に勝つために練習するのではなく、「修行」で自分を高めた結果が勝利につながることをうれしいと感じる。武道のストイックさを重んじている気がします。

 これらを総合すると、日本人のゲームに対する姿勢は「ゲーム道」という言葉で表現できるでしょう。

 この夏の国際学会で「ゲーム道」の話をしました。その際、北欧の研究者からこんな質問を受けました。「北欧のビーガン(完全菜食主義者)は、ロールプレイングゲームで敵を倒さずにプレーする。なぜそんな遊び方をするのか、今まで全く説明できなかった。ひょっとしてこれはゲーム道か」。私が「ゲーム道ですね」と言ったら、ちゃんと説明がつきました。

 日本も北欧も、経済的に余裕がある国です。世界から争いや貧困がなくなれば、ゲーム道のような楽しみ方はどんどん世の中に広まるはずです。全てのゲームが自己鍛錬的な面白さを持ち、自己を高めるものになっていくのではないか。そんな期待をしています。

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 えんどう・まさのぶ 2014年、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授に着任。1980年代からアーケードゲーム、家庭用ゲーム機向けゲームなどを幅広く作り続けてきた現役のゲーム作家でもある。大ヒット作「ゼビウス」「ドルアーガの塔」などを手がけ、「ゲームの神様」とも評される。

 ■パネルディスカッション

 廣瀬通孝さん 東京大教授VR教育研究センター機構長

 藤本徹さん 東京大大学総合教育研究センター講師

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 パネルディスカッションでは、ゲーム・VRの専門家が登壇。社会的課題の解決に取り組むゲーム・VRの可能性を探った。(コーディネーターは山田亜紀子・朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサー)

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 ――まずは社会課題解決を目指すゲームについて藤本先生に。教育や医療に関するゲーム開発の最前線について教えて欲しい。

 藤本 様々な社会活動にゲームを採り入れる研究が進んでいる。例えば紛争地域の難民問題の啓発。難民の生活をゲームで体験し、状況を理解し共感してもらう。これを寄付などのアクションにつなげていく。また医療分野では、手術時の医療チームの意思疎通をバーチャル空間でやったり、子どもに薬がどう効くかをゲームで経験してもらったりしている。精神・神経疾患で、薬の代わりにゲームを処方する研究も進んでいる。専門家だけではなくゲームクリエーターとの協力が重要だ。

 遠藤 研究者が教育ゲームを考えるとき、教えたいことが100あるとするとまるごとコンテンツに取り込もうとする。一方ゲームクリエーターは、100の中から要素を2、3個に絞り込んで「いかに面白く見せるか」を考える。プレーヤーは二つ三つやるうちに、「残りの10を覚えたい」と考え、最終的に100を自力で学ぶ。「やれ」と言われなくてもやる状態を目指す。

 ――VRの研究をしている廣瀬先生に。VRも社会課題の解決に取り組んでいると思うが。

 廣瀬 人間の本質として、子どもは下手でも自分でやりたがる。高齢者も、人に全部委ねるのはイヤだろう。「自分でやる」ことがゲーム・VRの大事な特徴だ。

 ともすると「知識」と「行動」は対立概念と思われがちだ。大学の教育でも、先に座学で「知識」を学び、最後に実習という「行動」に進む。座学の方がコストが安いためで、ゲーム・VRなき時代はそうせざるを得なかった。だが体験が安いコストでできる現代なら、逆でも良いはずだ。ゲームやVRでいきなり体験させ、反省させる。「自分でやる」ことで初めて分かることは多いが、それが最初に分かるのは重要だと思う。

 ――ゲームの特徴に「競争」の部分がある。教育や介護に競争を生かせる部分があるだろうか。

 藤本 リハビリの分野で、ゲームを活用する研究が進んでいる。体操や歌、遊戯を介護施設でやるのは苦手だという人も、参加型リハビリのツールを使うゲームだとがんばる人がいる。リハビリが「やらなければならない」から「もっとやります」という風に変わってきた。

 遠藤 達成してほめられるとまたやる気になる。日本人の場合、「とにかく試してみたい」という人も多い。ゲームでも「こんな考え方ができるのか」という新しいモノが出る。日本の素晴らしさだと思う。

 ――そうした豊富なコンテンツが様々な場面で今後役立ちそうだ。

 遠藤 スマホの普及で、ゲームをする人が世界中で増えた。クリックするだけの簡単なゲーム、日本では20年前に終わったゲームが世界で愛されている。日本のコンテンツが各国でヒットしている。

 廣瀬 日本では、疑似旅行できる「バーチャルトリップ」のコンテンツを航空会社が導入している例もある。飛行機の乗客が減るかもしれず、企業の取り組みとしてはおかしな話にも思える。しかしイノベーションは、ある種のクレージーさがないと起きない。将来の大きな変革につながる。おかしな話ではない。

 ――リアルとバーチャルの境目があいまいになっているのを、良い意味でも悪い意味でも感じる。

 廣瀬 リアルとバーチャルが入り組んできている中、本当の「生」って何?と問いたい。動物園のライオンより、デジタルメディアでサバンナを駆けるライオンを見る方がリアルではないだろうか。実体験も大切だが、「体験を作る技術」も活用されて良い。昔はコストが高くてできなかったことが、できるようになってきたのだから。

 ――様々な魅力を持つゲーム。社会課題を解決していく上でどんな可能性を秘めているだろうか。

 藤本 「ゲーム」と「ゲームじゃないモノ」の境目もなくなってきている。「ゲームは社会に根差したまじめなモノ」との概念が、今後定着していくはずだ。そこにVRを組み合わせることで学びの可能性を引き出す。普段の自分の心理的な制約から解放され、ゲームを通じて気づくことが増える。例えば研修でゲームを使って自己分析して、「意外と積極的にやれるんだ」と気づかされることがある。普段やらないことをVRと組み合わせて行えば、従来の教育では引き出せなかった可能性や創造性が出てくるだろう。

 廣瀬 人工知能(AI)が世の中を変えようとしている。ただしAIは、人間や機械の役割を「代替」する技術だ。ゲームやVRはAIのような代替の技術ではない。我々が楽しみ、意義深く生きていくためにある。「ゲームもVRも、やるのは私」だ。二つの技術がバランスよく育てば社会も良くなるだろう。

 遠藤 ゲームの世界は、5年後が誰にも予測できない。タッチパネル画面の進歩を生かしてヒットしたゲームのように、新技術を活用してヒットさせ、更なる技術革新が生まれる。ゲーム・VRで日本はトップを走っている。技術、コンテンツ、エンターテインメントの分野で世界をリードしていければと思う。

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 ひろせ・みちたか VRの第一人者で、関連する著書多数。人間とコンピューターを一体化し、高度なインターフェースを構築する技術「サイバネティック・インターフェース」を研究している。

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 ふじもと・とおる ゲームを活用した学習やシリアスゲーム(教育、医療など社会課題をテーマにするゲーム)、ゲーミフィケーションの専門家。日本デジタルゲーム学会理事、研究委員長を務める。

 ■プレゼンテーション ゲームは学問の集合体 東京工芸大教授・岩谷徹さん

 東京工芸大学は2007年、芸術学部にゲームコースをつくり、10年にはゲーム学科を新設した。名作「パックマン」の開発者でもある岩谷徹教授が、学生たちの取り組みを紹介した。

 暗闇に立つ1人の学生の映像が、会場に流れた。胴体や手足が青く光り、黄色いパックマンが動き回っている。身につけているのは、LEDのディスプレーでできた「ゲーミング・スーツ」。岩谷教授と学生たちが3年かけて、実験的に開発した。

 「テレビなどの四角いフレームから外れたゲームをしよう」「身体表現としてのゲームがあったら面白い」。そんな発想で作り始めた。

 学ぶのはデジタルゲームに限らない。高齢者のデイサービス施設に通い、アナログゲームづくりに挑む学生たちもいる。どうすれば脳の活性や計算能力、図形認識の力が向上するのか、試行錯誤する。白内障の人も区別しやすいよう、あえて鮮やかな色ではなく淡い色を使うなど、工夫も重ねる。現場だから得られる気付きがあるという。

 岩谷教授は、ゲームを工学や物理学、文学などの「色々な学問の集合体」と表現。そのうえで、「ストレスを与えずに面白かった、感動したというゲームを作るには、相手の気持ちを先取りすることが大切。つまり、ゲーム学とは、人の心を知ることだと捉えている」と話した。

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 いわたに・とおる 1980年に開発した「パックマン」は、後に「最も成功した業務用ゲーム機」としてギネス・ワールド・レコーズに認定された。プロデュース作品は「ドラゴンバスター」「リッジレーサー」など多数。

 ■高齢社会の課題解決にも 会議を終えて

 デジタルの仕事を20年続けてきたが、ゲームは「遠い存在」だった。最近のVRなどの進化とゲームとの重なりに気づき、ワクワクした。

 「介護にゲームを取り入れると本気を出す人が出る」という藤本先生の話や、「サバンナのVRと動物園とではどちらがリアルか」という廣瀬先生の問いは印象的だった。

 スマホを持ち歩くようになった今、リアルの世界と画面の中のバーチャルの境界はあいまいになった。「現実を拡張する」技術は日々の暮らしに浸透している。

 私自身は、人生100年時代の暮らし方を読者と考える企画を担当し、「長寿ゆえの不安」を感じている。大切なのは、自分や社会が「将来どうなるか」への想像力。ゲームやVRの疑似体験が助けになるだろう。

 一方、技術の進歩は高齢者に不安も与える。だからこそ必要なのが、ごつごつした技術を「思わず使ってしまう」ものにするデザインやコンテンツ。ゲーム開発で培われた知見だろう。高齢社会の課題解決にもゲームの力を生かせると感じた。

 (山田亜紀子)

 <東京工芸大学>

 「小西写真専門学校」を前身とし、写真表現・技術の分野では国内で最も伝統がある高等教育機関。写真学科のほかゲーム学科などがある芸術学部と、工学部を併せ持つ。工学部は今年度、学科制からコース制に改組した。東京都中野区と神奈川県厚木市の2カ所にキャンパスがある。2023年に100周年を迎える。

 ■朝日教育会議

 14の大学・法人と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。申し込みは特設サイト(http://manabu.asahi.com/aef2019/別ウインドウで開きます)から。各会議の日時や会場、講演者などについても特設サイトをご覧下さい。

 共催の大学・法人は次の通りです。

 神田外語大学、京都女子大学、共立女子大学、慶応義塾大学、公立大学法人大阪、成蹊大学、拓殖大学、千葉工業大学、東京工芸大学、東北医科薬科大学、東洋英和女学院大学、法政大学、明治大学、早稲田大学(50音順)

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