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 日韓関係の冷え込みが、地域交流や観光に悪影響を及ぼしています。近年の日本旅行ブームで韓国人観光客は、大都市だけでなく地方にも訪れていました。しかし今夏以降、急に客足が遠のき、空や海の便は運休が相次いでいます。温泉や観光地からは悲痛な声が聞こえてきます。死活問題となっている地域の今を考えます。

 ■釜山からの客足、9割減の対馬 「30年の努力が蒸発」

 週末の夜にもかかわらず、フロントに灯がともらないホテルや旅館があり、通りもひっそりしています。閉店を告げる貼り紙をし、シャッターを下ろした店もありました。

 長崎県対馬市南部の厳原(いづはら)地区。日本が韓国への輸出規制強化を打ち出した7月以降、韓国人観光客は急減しました。2社が運航していた厳原―釜山間の定期船が8月から運休し、拍車をかけました。

 厳原で旅館を経営する熊本裕臣さん(68)は「8月からずっと宿泊客はゼロ」と言います。3年ほど前から韓国の旅行会社と全館貸し切りの契約をし、観光バス1台分約40人を毎日のように泊めてきました。食事だけの客も受け入れ、昼食・夕食を100人分ずつ提供してきました。その売り上げが一気になくなり、従業員6人と話し合い、解雇せざるを得なくなりました。

 対馬は、釜山から最も近い場所で約50キロ。市によると、昨年は約41万人が釜山から来島、今年1~6月も22万人と前年比1割増でした。ところが、7月は前年比4割減の約1万9800人、8月は同8割減の約7600人、9月は同9割減の約3千人までに減りました。韓国人客の島内消費額は昨年1年間で91億円と試算されますが、7~9月で計約16億円の損失があったとみられます。

 市北部の比田勝地区は釜山から高速船で約1時間10分。5社が連日1~2便ずつを定期運航していましたが、今は1日2便。「民間主導で30年かけ、やっとここまで来たのが政治によって一瞬で蒸発した」。山田幸弘さん(56)は悔しさをにじませます。

 1989年に設立され、山田さんの父も関わった第三セクター「対馬国際ライン」は、比田勝―釜山航路を切り開きました。試行錯誤を経て、海運会社を次々に呼び込みました。韓国人客の増加に対応し、食堂や観光バスへと事業を拡大。今年は夏に向けてレンタカーを70台から100台に増やしたところでした。

 90年に4万6千人だった島民が3万人まで落ち込む中、働く場を求めて島を出る若者に就職や起業を勧められる――。そんな未来を描けるようになった矢先のことでした。

 県や市は国内旅行の拡大をめざし、東京や大阪でのPR活動や宿泊費の割引キャンペーンを打ち出しました。しかし、釜山と比べて時間も交通費もかかる本土からどれだけの客が見込めるのか、という声も根強くあります。対馬が韓国人客の人気を集めたのは「近くて安く行ける外国」という側面があったからとみる山田さんは「やはり韓国人客に戻ってもらうしか、対馬には考えられない」と話していました。(佐々木亮)

 ■韓国便運休が響く温泉地・大分 地道な情報発信続ける

 紅葉シーズンを迎えた大分県由布市湯布院町の観光名所・金鱗湖(きんりんこ)。錦のような木々の彩りを目にした女性たちから「ワァーッ」と感嘆の声があがりました。続く会話は中国語。日本語のほかタイ語も交じります。でも、これまで多数を占めていた韓国語の会話はまばらでした。

 湯布院や別府などの温泉地を抱え、「おんせん県おおいた」をキャッチフレーズにする大分。県が主な宿泊施設を対象にした調査によると、9月の韓国からの宿泊客は6026人、前年同月の3万7490人から83.9%も減りました。関係が悪化する前は外国人客の6割以上を占めていたため影響は大きく、海外客全体の数字も43.1%減になりました。

 大分空港と韓国との定期便は「利用が見込めない」との理由で、8月から運休したままです。それまで、ティーウェイ航空は大分とソウル(仁川)を結ぶ便を1日1往復、釜山便、務安便を週3往復ずつ運航していました。毎年1~3月に週3往復の定期便を運航していた大韓航空も、この冬の運航を見送りました。大分空港は国際線ターミナルを5月に拡張したばかり。韓国以外に国際路線はありません。県交通政策課の担当者は「韓国便とともに、今後は中国や台湾便の誘致にも努めなければなりません」と話します。

 ただ、海外客の9倍の規模がある国内客の宿泊客数は堅調です。国内外計33万8774人で、減少幅も5.6%。そのため県観光誘致促進室の工藤哲史(のりふみ)室長(54)は「トータルでみると一喜一憂する必要はない。韓国の訪日自粛ムードに一自治体で対応するのも難しいので」と話します。

 とはいえ、人口減が進むなか、距離や旅費面での「身近さ」でも、韓国が欠かせぬお客さんであることに変わりありません。8月下旬に職員が韓国へ出向き、旅行会社と冬の温泉シーズンに向けた商談会を開催。「旅行会社も困っている感じでした。どこかの時点からはしっかりと日本に送客したい、という意欲は感じました」と工藤室長は言います。

 県が委嘱した観光アドバイザーも頻繁に韓国と往復して韓国内の空気を読んでいます。無料通信アプリ「LINE」で送られてくる報告では、一時期、「えー、大分(日本)に行ってきたの?」と旅行者に向けられていた冷ややかな視線も、今は改善の兆しが見られているそうです。県はこうした報告をみながら、インターネットサイトでの観光情報発信などを地道に続けています。(寿柳聡)

 ■波風立つときこそ地域交流 韓国・江原道と友好25周年、平井伸治・鳥取県知事

 鳥取県と韓国の江原道は日本海を挟んだ、お隣どうしです。1994年に友好提携関係を結び、今年は25周年です。江原道で9月3日、崔文洵(チェムンスン)知事と会い、交流の継続を確認しました。道庁では職員の方が総出で迎えてくださりました。

 日韓の外交関係が悪化するなか自治体交流ができるのは、積み重ねてきた信頼があるからです。スポーツや社会福祉、文化芸術などの分野で江原道と長年、交流し、人のつながりができています。

 ただ、代表団は私を含め6人だけで、文化公演など行事はありませんでした。両国民には、「なぜこんなときに交流するのか」という声があるのも事実です。慎重に進める必要があります。

 鳥取県も江原道も互いに首都から離れた「いなか」です。首都にばかり目を向けていては、展望が開けません。海をまたいだ隣人と、観光や経済交流などで人とモノの往来を盛んにしたい。それは共通の思いです。

 米子と韓国・仁川を結ぶ航空便が10月から運休したのは残念です。外国人宿泊者のうち韓国人は最多で、昨年は約5万1千人、約34%を占めました。しかし7月は前年同月比約6割減りました。

 政府同士では譲れない立場があり、波風が立つこともあります。だからこそ地域交流で互いの理解を進め、対立を和らげる。それこそが自治体外交の醍醐(だいご)味であり、未来への遺産。そのためには中央の政治を持ち込まないことです。(聞き手・桜井泉)

 ■福岡と釜山のフォーラム延期

 韓国の地方自治体と姉妹友好関係を結んでいる日本の自治体は、都道府県がのべ19、市区町村は143あります。国別では米国、中国に次ぐ多さです(自治体国際化協会調べ)。韓国では1995年に本格的な地方自治制度が始まりました。各自治体は観光や産業振興につながる国際交流に力を入れ日本へのアプローチも積極的になりました。

 しかし、日韓関係が悪化している現状で地域間交流を進めるのは、たやすくはありません。

 島根県の場合、89年に韓国・慶尚北道と姉妹提携を結びました。しかし、日韓が領有権を争う竹島(韓国名、独島)をめぐって島根県が2005年に竹島の日条例を制定すると、慶尚北道側が交流破棄を通告、公的な交流は途絶えています。

 また、福岡市と韓国・釜山の経済界、大学などの関係者が参加するフォーラムは、今年9月、福岡での開催が直前になって延期されました。06年からこれまで政府間関係が悪化しても交流を続け、モデルケースと言われていました。しかし、7月、釜山市の呉巨敦(オゴドン)市長が日本との交流を「全面的に見直す」と表明。フォーラムは民間主導とは言え、少なからぬ影響を受けました。

 ■日韓路線4割近く減便

 日韓関係の悪化から、特に韓国で今夏、日本旅行を控える動きが広がり、空も海も両国をつなぐルートが細くなっています。

 日本語通訳を務める韓国・全羅北道の主婦は友人たちと9月の日本旅行を計画していました。しかし仲間から「今、行くのはまずい」という声が出て、急きょ、ロシア・ウラジオストクに変更。「日本の料理も文化も大好きですが、そういう雰囲気ではないので」と残念そうでした。

 昨年、日本を訪れた韓国人は過去最高の約754万人。しかし今年は8月以降、急減し、9月は前年同月比で約58%も減少。1~9月の韓国人訪日客は前年同期比約13%減の約493万人にとどまっています(日本政府観光局調べ)。

 国土交通省によると韓国の航空8社の日韓路線は、6月に週約1200便あったのが、10月の時点で4割近く減便。韓国では近年、格安航空会社(LCC)が次々にでき、両国の地方どうしを結んできましたが、軒並み減便に追い込まれ、経営に悪影響を及ぼしています。

 ■友好関係でなくても/行ってから判断を

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 ●政治と文化一緒にしないで

 韓国のアイドルが好きだからと言って韓国の国自体が好きなわけではない人もいます。政治を文化やエンターテインメントに結びつけないでほしい。(埼玉県・10代女性)

 ●決めつけは思考停止招く

 そもそも、韓国の世論が何に対して怒りや悲しみを感じているのか、私たちはきちんと知ろうとせず、ただ「日本」に対するというだけで、私たち個人に対する怒りと受け止めてしまっているのではと思います。会ったことのないひとりひとりの人たちを、国や、所属や、何かの共通項があるという事実だけでひとくくりにし、「この人たちは○○だから」という決めつけこそが、韓国に対する日本の思考停止を招いていると考えます。(福岡県・20代女性)

 ●何でも言いなりはおかしい

 好悪の対象が国なのか国民かはっきりさせるべきだ。韓国との関係は、あえて友好関係でなくてもいい。あわてず時間をかけてクールな関係を保てばいい。なんでも友好と言って他国の言いなりになるのはおかしい。時間をかけて平等な関係をつくるべきだ。(静岡県・60代男性)

 ●行って好きになった

 韓国が好きだ。コスメは安くて良いものがあるし、BTSがいるし、TWICEがいる。でも本当に好きになったのは、旅行にいったときだった。会社の同期に韓国人の子がいて、つれていってくれた。韓国の文化や習慣について教えてくれたし、自分も体験できた。世代間の考え方のギャップが大きいところが日本と似ていて、共感できた。片言の韓国語を使うと優しく返してくれた。韓国が嫌いだというひとは韓国に行って、知ってから判断したらよいと思う。(神奈川県・20代女性)

 ◇1990年代初め、「韓流」という言葉もなかった頃、ソウルで1年間、下宿をしながら韓国語を学びました。昨年、日韓の人の行き来は1千万人を超えましたが、当時はその5分の1程度。交流も少なく、ステレオタイプでお互いを見ていました。それでも韓国にいて、日本人だからといって嫌な思いをしたことはありませんでした。人々の「先進国」日本への関心は旺盛で、日本語を教えて欲しいとよく頼まれました。

 日本のシンクタンク「言論NPO」の世論調査によると、日韓とも相手国を訪れたことがある人ほど、その国に好印象を持つ割合が高くなっています。アンケートの回答には交流の大切さを訴えるものがたくさんありました。同感です。(桜井泉)

 ◇来週10日は「五輪の『レガシー』って?」を掲載します。

 ◇ご意見や話し合ってみたいテーマをasahi_forum@asahi.comメールするへお寄せください。

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