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 日本に暮らす外国人は270万人を超え、いまの日本は様々な背景を持つ人々からなる社会となっています。少子高齢化が進むなか、地域でともに暮らす一方、課題も生じています。「多民社会」に求められる報道について、10月26日に開いた「あすへの報道審議会」で、読者やパブリックエディター(PE)=キーワード=が本社編集部門と話し合いました。

 <パブリックエディター>

 ◇河野通和(こうのみちかず)さん ほぼ日の学校長、編集者。1953年生まれ。

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 ◇小島慶子(こじまけいこ)さん エッセイスト、タレント。1972年生まれ。

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 ◇湯浅誠(ゆあさまこと)さん 社会活動家、東京大特任教授。1969年生まれ。

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 ◇山之上玲子(やまのうえれいこ) 朝日新聞社員。前・編集担当補佐。1962年生まれ。

 ■誤解・先入観の壁、どうすれば…

 よぎ〈プラニク・ヨゲンドラ〉さん(読者) インド出身で1997年に国費留学で来日した。IT企業などをへて日本国籍を取得し、この春、よぎの名前で東京都江戸川区議になった。日本に対してはありがたい気持ちでいっぱいだが、街中で「お前らは仕事を奪っている」と言われ、電車では隣に誰も座らないこともある。誤解や先入観は、どうしたら減らせるのだろうか。

 桐田明菜さん(読者) 海外からの留学生への日本語教師をしている。留学生が増えるなかで最近は日本語学校が乱立し、必ずしも教育の質が担保できていない。東日本大震災の時に「外国人向けの情報がない」「怖い」と帰国する留学生が相次いだが、今も留学生の暮らしづらさは変わっていない印象を持っている。

 河野通和PE ラグビーW杯の日本代表、選手31人のうち外国出身は6カ国の15人。好成績をおさめ、共生の新しい扉が開いたように言われた。一方で日本人の多くはいまだに「移民恐怖症」的な抵抗感がある。さすがに最近は「外人」という言葉は聞かれなくなったが、30年前も同じような議論をしていた気がする。

 山之上玲子PE 90年代から言われ続けてきたのに、現実が変わっていないのはなぜか。入管法改正を報じた時も、ある読者から「遠い話のように感じる」との声が届いた。「共生は大事」と理屈では分かっていても、私たち一人ひとりが自分の問題として考えてこなかったのではないか。

 嘉賀稜太郎さん(読者) 高校で留学生がクラスの半数いる国際科に通った。来年マレーシアの大学に留学する。交流を深める最良の方法は相互理解だと思う。ただ、言葉の壁や価値観の違いからトラブルもあり、共生の実現は生半可な気持ちではできないと感じる。

 ■多様性、大切さも面倒さも/お互いに交わることから

 桐田さん 共生が進まない背景に、想像力の欠如があると思う。地域の避難訓練や運動会を知らせる回覧板は日本語。せっかく交流する場を用意しても外国から来た方々に伝わらない。

 よぎさん 学校で連絡用に配るプリントも日本語。外国籍の子どもたちの保護者は内容が分からず、本当に困っている。

 嘉賀さん 高校では、母国で日本語を学ばずに来日し、言葉の壁を乗り越えられずに中退する留学生がいた。日本語教育が足りないのではないか。

 湯浅誠PE それに加えて、外国の人々に対する日本人のまなざしには「敬遠」と「遠慮」と「攻撃」があると感じる。コンビニで、向こう側で留学生がレジ打ちしている分には構わないが、隣に座るかというと敬遠する。どう向き合っていいか分からないので遠慮する。一部の人はネット上で攻撃する。自分のコミュニティーの外側で多様性が広がるのはOKだが、内側に来られるとしんどいという本音がある。

 大島隆・政治部次長 私が住んでいるのは埼玉県川口市の芝園団地で、住民約5千人の半分が外国出身者。私は自治会活動や日本語教室に参加し、楽しく暮らしている。ただ、文化や言葉の違いに摩擦があり、「ここは私たちの団地だ」「なんで私たちが配慮しないといけないのか」という人もいる。同じ団地にいるのに、それぞれのコミュニティーでまとまってしまい、普通にしていると交わらない。好きなスポーツ、おいしいもの、お茶会などのきっかけを意識的につくっている。

 小島慶子PE 外国の人たちに親切にしてあげたいが、自分より稼ぐようになるのはどうなのか、と感じてしまう人もいるようだ。

 湯浅PE 共生に必要なのは「ダイバーシティー」(多様性)と「インクルージョン」(社会的包摂)だ。多様性が大切ということは理解されてきたが、多様な人々をつなげる工夫が十分ではない。必要なのは配慮。ゆっくり歩く人とはゆっくり歩き、小さい子と遊ぶときはその子に合わせてルールを調整するといった生活体験は多くの人が持っている。その延長線上にあると考えれば良い。多様性には面倒くささとわずらわしさがある。でもその違いを乗り越えて、初めて共生につながる。無理してでも交わらせることが大切だ。

 桐田さん 交わっていけば何かプラスになることがある、と感じられるようにした方がいいかもしれない。

 真鍋弘樹・編集委員 多様な人々が共に暮らす社会のあり方を考える「多民社会」のシリーズ記事を昨年から書いている。最近取材した横浜市の小学校では、過半数の児童が日本以外のルーツを持っていた。でも、国や人種を理由にしたいじめはほぼないという。子どもたちは日本に定住し、地域を支え、いずれ納税者となるという前提で、校長は教育を考えていた。広い視野でみると、様々なルーツを持つ人々が社会の担い手になっていく。

 河野PE これまで日本人はきわめて均一性が高かったと思うが、人口減の切迫感、地震、洪水など自然災害の危機感が強まるにつれて、いやが上にも社会意識が変わらざるを得ないだろう。

 ■立場変われば、みな弱者に/自分ごとと伝わる記事を

 小島PE 私は2014年にオーストラリアに家族と移り住んだが、オーストラリアではマイノリティーで自分がどれだけ弱い立場なのか気づいた。受け入れられる側の話を伝えていくことが大事。立場が変わるとだれでも弱者になる。ある日、病気になったり、職を失ったりするのと変わらない。外国の人々への関心が薄い人が、そう想像しやすい記事を出して、橋渡ししていくのが記者の腕の見せどころ。

 山之上PE 国籍の違う人が多く暮らす地域で、人々がどんな経験や思いをしているか。そこが具体的に伝わると、読者が自分ごととして考える手がかりになる。

 大島次長 芝園団地のコミュニティーで何が起きているか、定点観測も含めて別刷り「GLOBE」やウェブメディア「GLOBE+」で書いているが、意識するのは小さな話を通じて大きな話を書くということ。現場の状況を共有することで、自分の暮らしにも関係あることと受け止めてもらい、移民の問題といった全体の構図につないでいく伝え方など工夫していきたい。

 よぎさん 多様な人々を「外国人」とひとくくりにする言葉も気になる。メディアは特徴的な人を見つけてはマスコットのように扱う傾向があり、区議になってから私もその1人となっている。一人ひとりを丁寧に伝えてほしい。

 真鍋編集委員 どう報じるか悩ましさも感じている。アルバイトを目的に留学するケースも確かにある。ひどい雇い主に搾取される人たちもいる。そういう問題点をおかしいと思ってピックアップして報じると、外国の人々をめぐる問題を過度に否定的にみるような、ある種のバイアスが生じかねない。どう等身大に伝えるか、実に難しい。

 小島PE 等身大で伝えるのは大切だと思うが、あわせて全体の状況を理解できるような情報をつけたほうが良い。それは特異なケースか、社会全体に広がる事例か分かるような視点を読者に提供してほしい。

 佐古浩敏・ゼネラルエディター兼東京本社編集局長 外国人観や日本人観は人の数だけある。制度もまだ不十分なところがあるが、より難しいのは心理面の壁をどう崩していくかだろう。メディアは国の政策や制度のあり方を日常的に報じてきたが、当事者の声や日常の微妙な変化のなかにある「気づき」から問題点をすくい取り、伝えていく作業にも力をいれていきたい。朝日新聞は「ともに考え、ともにつくる」という姿勢を掲げており、共存、共生に向けて共感を広げる報道をめざしていく。

 (司会は河野修一パブリックエディター事務局長)

 ■「私の問題にあてはめたら」読者が受け止める切り口に 中村史郎(本社執行役員・編集担当)

 多民社会への考えは、人それぞれの経験や環境、暮らしに左右される。外国の人々が増える背景に人口減や高齢化があり、多様な人たちと社会をつくるうえでは差別、貧困、LGBTなどと共通する問題がある。パーソナルな部分と、大きなテーマが両立し、非常に難しいが刺激的な議論だった。日本はこれからさらに外国人が増え、一方でナショナリズムとの衝突も課題となっていく。朝日新聞では「多民社会」の連載を掲載し、フォーラム面で多様な声をとりあげてきた。大きな問題も小さな問題も「わたしの問題にあてはめると」と受け止められるような切り口をこれからも工夫していきたい。

 ◆キーワード

 <パブリックエディター(PE)制度> 社外からの幅広い声に耳を傾け、朝日新聞の報道の改善に生かす目的で設けられた。識者3人と社員1人が「読者代表」として報道を点検し、本社側に説明と改善を求めている。「あすへの報道審議会」ではテーマを設けて議論する。

 ◇朝日新聞デジタルの特集ページ「あすへの報道審議会」(http://t.asahi.com/jsks別ウインドウで開きます)でもお読みいただけます。

 <訂正して、おわびします>

 ▼19日付オピニオン面「多民社会 共生の道は」の記事で、湯浅誠さんの肩書に「法政大教授」とあるのは「東京大特任教授」の誤りでした。古い略歴を誤って掲載しました。

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