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 ■早稲田大×朝日新聞

 ビッグデータの解析などデータサイエンスが注目されている。社会に応用できる形にし、新たな価値を生み出す科学にするには、どのような人材育成が必要になるか。朝日新聞社と早稲田大学は共催で「データサイエンスをいかに社会実装すべきか」と題して教育会議を企画し、大学の役割や企業での実践を議論した。【東京都中央区の時事通信ホールで、10月14日に開催】

 ■基調講演 AIの発達、新たな理論導く可能性 早稲田大学総長・田中愛治さん

 人類はいまたくさんの、正解のない課題に直面している。課題に対して「自分はこう考える」という仮説を様々な人・グループが提示している。仮説の根拠を検証し、妥当性を確認することがより重要になってゆく。この作業に欠かせないのがデータ科学だ。

 人工知能(AI)とスーパーコンピューターの発達で、大量のデータ解析ができるようになった。人間が思いもよらない新しい因果関係のパターンを抽出できる。

 たとえば景気の悪化について、経済の専門家が思いつかない原因・理由を導き出せるかもしれない。ほかにも様々な分野で新しい理論の導き方ができるだろう。現在のデータ科学はこうしたことが可能な段階まで進歩している。

 とはいえ、データ科学は理系人材のみが身につけるべき能力ではない。他の学問分野との連携も必要で、一部のデータ科学者任せにせず、誰もがある程度知っておいた方が良いものだ。次世代の共通言語と言ってよいだろう。

 早稲田大学は、一部の学生が学ぶデータサイエンス学部ではなく、あらゆる学問分野で誰もが学べる「データ科学総合研究教育センター」という組織をつくった。

 1・2年では全学共通の教育として基礎を学び、3・4年ではもう少し高いレベルを学ぶ。大学院生や教授、ビジネスパーソンまでこのセンターで学べる。多様な学問分野の専門性とデータ科学の融合が役割だ。

 一方でデータ科学の落とし穴に気をつけなければならない。偏ったデータを使えば虚偽の世界を作り出せる。現実をきちんと反映しないデータの用い方は誤りだ。データ解析を通して導き出された新しい理論が、どんな論理で動いているのかを理解しないまま活用することも危険だ。

 落とし穴にはまると、人類が3千年かけて積み上げてきた学問の体系を崩しかねない。学問とデータ科学との相互の対話が必要で、これも大学が果たすべき使命だと思う。

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 たなか・あいじ 1975年早稲田大学政治経済学部卒業。85年米オハイオ州立大学大学院修了、政治学博士(Ph.D.)。東洋英和女学院大学、青山学院大学、早稲田大学政治経済学術院教授等を経て2018年から現職。早稲田大教務部長、理事、および世界政治学会(IPSA)会長などを歴任。

 ■プレゼンテーション 課題解決へ、他業種ともつながる みずほ銀行頭取・藤原弘治さん

 業界全体で銀行口座数は数億に及び、みずほ銀行だけでも2400万口座に達する。今後キャッシュレス化が進みデジタル通貨も普及する中、加盟店や買い物を含む取引データの蓄積も飛躍的に進む。データは活用法次第で世の中を大きく変える。金融だけでなく非金融データとの融合で、社会課題の解決に一役買うことも金融機関の重要な使命になる。

 その際、発想の転換が必要だ。銀行は従来、自分たち自身でやりきろうとする、いわば自己完結的思考が強かった。これを改め、他の企業やスタートアップ企業と一緒に物事を解決するオープン&コネクトの発想に変えていく。みずほ銀行では、人工知能(AI)によるデータ解析を活用した金融会社を発足している。例えば若者が自己啓発のためにお金を借りたいとき、その人の将来をAIで解析して予測する。資格取得や留学などの借り入れを希望する人の環境を変え、お客さまのライフプランの実現に貢献する取り組みだ。

 データの活用でストレスが軽減され、世の中がより便利になる一方で、失ってしまうものもあるのではないかという危惧がある。人と人との接点や思いやりなど、人間社会で大事な部分を置き去りにしてはならない。データ活用における倫理や道徳は重要なテーマだ。この点を胸に刻んで、データ活用社会の健全な発展に貢献していきたい。

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 ふじわら・こうじ 早稲田大学商学部卒。米ニューヨーク大学経営大学院、米マサチューセッツ工科大学経営大学院修了。みずほフィナンシャルグループのIR部長、取締役兼執行役常務企画グループ長などを歴任。

 ■プレゼンテーション 活用には、顧客からの信頼不可欠 NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション社長、塚本良江さん

 デジタルデータを駆使して、企業の新しい活動を支援する事業に取り組んでいる。

 デジタルマーケティングで、企業の売り上げ増、顧客数増を図る活動をしている。データを収集・管理・分析し、企業が満足できるアクションを起こす。

 スマホアプリを活用したマーケティング戦略や、SNS上で企業側から顧客に対話を試みるサポートを行い、顧客満足度の向上に成功した。

 近年は個人情報の保護・管理のシステム導入の支援も多い。企業がデータを活用するにあたっては、顧客との信頼関係が大事で、そのための支援も重要だ。

 もう一方でデジタルトランスフォーメーションという分野がある。企業の生産性向上やコスト削減を図る。人ではなくIoTなど「モノ」からデータを集める。提携する米企業と組んで、データ解析から機器の故障を予測することで保守コストを大幅に減らしたり、半導体製造における品質改善や生産性向上を支援したりしている。

 データサイエンスができることは、事実把握・原因究明・予測・対応策の四つ。データ科学者だけではなく、ビジネスや法律など各分野のプロのチームで取り組み、継続性のある運用をすることが重要だ。

 そして社長やリーダーが最後までやり遂げるという意識。これがデータ活用の成功の鍵をにぎる。

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 つかもと・よしえ 早稲田大学政治経済学部卒業。米ダートマス大学経営大学院修了、MBA。NTTgooカンパニー長、マイクロソフト取締役MSN事業部長、NTTコミュニケーションズ新規事業開発担当などを歴任。

 ■パネルディスカッション

 データを正しく活用するための大学と企業の取り組みを3人で討論した。(進行は藤えりか・朝日新聞経済部兼GLOBE編集部記者)

     ◇

 ――来場者から質問を募った。関心が高かったのが人材育成だった。たとえば「文系の学生がデータ科学に関わりながら成長するにはどのような学びが必要か」。田中総長にうかがいたい。

 田中 データ科学に興味があるなら、文理関係なしに挑戦して欲しい。日本はOECD諸国の中でほとんど唯一、高校で理系と文系を分ける国だ。他の国では基礎的な教育で理系・文系を区別しない。理系・文系を分け隔てなく学んできた学生こそ、これからの社会でやりたいことができる人材になると思う。

 ◆生かせる仕事増加

 ――企業のパネリストに聞きたい。データサイエンスを学ぶとどんな活躍の場がありそうか。

 藤原 銀行にとってデータサイエンスの必要性は極めて高い。就職活動の面接で「データサイエンスを勉強していた」という学生がいたら、すぐに内定を出したいくらいだ。日本は(少子高齢化などの)課題先進国。データやテクノロジーを活用して世の中に役立てるという仕事はますます増えていくと思う。

 塚本 グローバル競争の中で、労働力の流動化が起きている。私たちが育てたデータサイエンティストが、1・5倍、2倍という賃金の外資系企業に転職していく。そのためNTTグループには、若手でも2千万、3千万という年収を出してデータサイエンティストに残ってもらう新しい給与制度を導入する例もある。

 田中 「物理や応用科学の学生は数学やコンピューターに強いので、データ科学者を勧めた方がいい」という意見もある。就職しやすく年収も高いからだ。しかし私は、本人がやりたいならやればいいが、就職や年収のためだけでは続かないだろうと懸念する。先ほどの意見の根底には「理系にしかデータ科学はできない」という固定観念もあるのではないか。データ科学の利用にはデータ解析とその解釈という役割もある。統計解析が理解できてユーザーとしてデータ科学を利用できれば良いと思う。

 ◆ルールがない中で

 ――データ活用における倫理の問題も問われる。

 藤原 ビジネスを実践するうえで忘れてならないのは使命と目的意識だ。目標と目的は違う。我々は銀行業務を行う前提として、組織や個人の目標を超え、「何のために銀行に入り、誰のために仕事をしているのか」という目的を明確化させ、お客様起点の意識を育むため、時間をかけて社員教育をしている。データ活用においても同じ意識が必要だ。

 塚本 データの活用には必ずテクノロジーが伴う。インターネットが「ディスラプティブ」(破壊的)と言われたように、テクノロジーは過去のモデルを破壊して新しい世界をどんどん作ってゆく。新しい世界には残念ながらルールがない。ではどうするか。これは自分で判断しなければいけない。そのとき、「人のため何をすればいいか」という目的と「人間としてどうあるべきか」という倫理観が問われる。

 田中 大量のデータは、地球上でおきているありのままの姿を表すはずだ。データ科学は、常に世界全体、地球全体の縮図を示すべきだ。自分に都合の良いものだけを見せて相手を説得するのは、正しいデータ科学の方法ではない。世界の縮図を示すことがデータ科学の目的だ。

 ◆悪用防ぐには教育

 ――データ科学の今後の課題は何か。

 田中 データを悪用する人はどうしても出てくる。選挙の世界でも、マーケティングの世界でもそうだろう。これを防ぐには、教育と啓蒙(けいもう)が大事だ。「全体の縮図を示す情報なのか」「客観的に見ているか」「恣意(しい)的に偏らせていないか」など、有権者や消費者であるユーザーが見極める必要がある。

 藤原 データ活用はビジネスありきではなく、「データ活用で、いかに社会課題を解決するか」、また「倫理的に正しく使っていけるのか」を考え、社会的信認を得る必要がある。単にアルゴリズムを書く力ではなく、データから読み取る力と全体を俯(ふ)瞰(かん)する「デザイン思考」が重要な要素になると思う。

 塚本 データ活用で大事なのは、解決したい課題を明確にして組織全体で共有することだ。データ解析した後に浮かんだ解決法が、今までのルールを変えることだったり、利権を持つ誰かに損をさせたりと、ややこしい問題を生み出すかもしれない。科学的に割り切れない「ドロドロ」がたくさんある。そうしたことも含めて解決するのだという覚悟が必要。データサイエンスを社会実装していくにあたり日本社会がもっとがんばるべき点だと思う。

 ■便利さの先には何が 会議を終えて

 香港はコンビニや飲食店の支払いにも使える交通系ICカード「オクトパス」が日本よりも早く普及し、私も訪ねるたび便利に使ってきた。それが最近、使用を避ける人が増えているという。さもありなん。反政府デモへの弾圧が激しくなる中、利用記録が当局の追跡に使われるのではないか、と恐れられているのだ。

 私たちは今、買い物も移動もキャッシュレスで済ませられる時代を生きている。そうしてポイントがたまれば次の買い物の割引に使える。自宅でネット接続テレビをつければ、普段の視聴傾向をもとに示されたオススメ映画を楽しめる。交通渋滞の予測の精度も上がった。企業はこうしたデータを商品やサービスの開発に活用。米国では学生の記録から中退や落第のリスク要因をはじき出し、卒業率を上げた大学もある。

 だが、データ提供と引き換えの「便利さ」は、性善説の上に成り立っている。民主主義を掲げるはずの米国で、データサイエンティストが大統領選に影響を及ぼそうとしたとして問題になっているわけだから。

 倫理をめぐる問題意識は、実際にデータ科学やその活用に携わる登壇者こそ切実に持っていると感じた。だからこそ、「防ぐには教育が大事」との田中総長の言葉が響く。交通系ICカードの利用におびえるような社会を作らないためにも。(藤えりか)

 <早稲田大学> 1882年に大隈重信が創設した東京専門学校を前身とする。その歴史は三大教旨「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」や「進取の精神」といった理念によって支えられている。データサイエンスを学ばせるため全学生を対象にした「データ科学総合研究教育センター」を2017年に設置した。

 ■朝日教育会議

 14の大学・法人と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。申し込みは特設サイト(http://manabu.asahi.com/aef2019/別ウインドウで開きます)から。各会議の日時や会場、講演者などについても特設サイトをご覧下さい。

 共催の大学・法人は次の通りです。

 神田外語大学、京都女子大学、共立女子大学、慶応義塾大学、公立大学法人大阪、成蹊大学、拓殖大学、千葉工業大学、東京工芸大学、東北医科薬科大学、東洋英和女学院大学、法政大学、明治大学、早稲田大学(50音順)

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