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 河川の氾濫(はんらん)などで水害が広範囲に及んだ場合、自治体の境界を越えた避難が必要になる。海抜ゼロメートル地帯に人口が密集する東京の下町は代表例だ。

 だが先月の台風19号で、この広域避難が想定をはるかに上回って難しいことが浮き彫りになった。教訓をもとに構想を練り直さなければならない。

 江戸川、江東などの東部5区は、荒川や江戸川があふれると、場所によっては2週間以上水がひかないと見込まれる。昨年この5区は共同で、人口の9割超にあたる約250万人が区外に逃げる計画を策定した。

 19号が襲った当日、雨量予測が計画発動の目安に近づいた。踏みきるべきだとの声も出たが、結局見送りとなった。既に風雨が激しく、鉄道の計画運休も迫っていたため、実施すれば大きな混乱を招くと判断した。

 課題のひとつは、この移動手段の確保だ。災害時の計画運休が定着しつつある。それ自体は評価されるべきだが、鉄道が止まれば大量輸送は困難になる。それを見越して、いつ避難を呼びかけるか。臨時列車を走らせたり、バスを手配したりすることはどこまで可能か。

 もうひとつは避難場所だ。親類や知人を頼るのが基本だが、つてのない人も多く、公的機関の関与を求める声は強い。他の自治体や民間施設の協力をどう取りつけるか。内閣府や都などで検討しているが、簡単に答えが出せる話ではない。

 今回の経験を踏まえ、江東区長は会見で、250万人が避難するのは「現状では無理だ」と述べ、近隣の高い建物への避難など、多様な方策を用意しておく必要性に言及した。

 そうした「垂直避難」に適したビルやマンションが、どこにいくつあり、どれだけの人を収容できるか。住民と協力して地域の実態を洗い出し、所有者の同意を得て、食料などを備蓄しておくことが求められる。

 もちろん浸水域外に避難できればそれが望ましい。どの程度の規模であれば現実的か。改めて検討・試算し、計画をブラッシュアップしてもらいたい。

 広域避難については、中央防災会議が昨年、東京、大阪、名古屋の3大都市圏での洪水や高潮を念頭に、受け入れ自治体を探し、協定を結ぶよう促す報告をまとめている。先行して取り組んできた5区だからこそ、課題が見えたといえよう。

 都市部だけの問題ではない。

 茨城県境町は台風19号の際、事前の協定にもとづいて、高齢者らをバスで隣の市に避難させた。こうした例も参考にしながら、各自治体でそれぞれの事情に応じた避難のあり方を、しっかり定めておきたい。

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