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 国どうしの貿易紛争を裁いてきた世界貿易機関(WTO)の上級委員会が機能を停止して、まもなく1カ月になる。

 裁判官に相当する委員を米国の反対で補充できず、7人の定員に対し1人となった。手続きに最低限必要な3人に満たなくなり、新たな案件は受理できない。係争中の10件の調査も止まった。1995年のWTOの設立後、初めての危機だ。

 紛争処理は二審制で、上級委は最終審にあたる。一審の小委員会で解決できなかった問題を調べ、WTOルールに照らして判断を下してきた。

 機能不全が長引けば、高い関税を一方的にかけるようなルール無視が、世界中に広がる恐れもある。第2次大戦後に国際社会が築いてきた自由貿易体制を、覆しかねない。

 この事態を招いたのは米国の身勝手なふるまいだ。米国は、上級委がルールで定められた権限を越えた判断を下していると、不満を募らせてきた。任期が切れた委員の後任の任命を次々と拒み、米国の意向をくんだ各国の上級委改革案にも、歩み寄ろうとしなかった。

 WTOは加盟国の全会一致で運営するのが原則で、1カ国でも反対すれば身動きがとれない。米国は各国の提案に耳を傾け、不満なら他国が納得できる代案を示すべきだ。

 確かに、WTOの紛争処理制度には差し戻しのしくみがないなど、課題も抱える。

 たとえば上級委は昨春、韓国による東京電力福島第一原発事故の被災地などからの水産物の禁輸を、容認する報告書をまとめた。韓国に是正を勧告した小委員会の判断を破棄しながら、韓国の措置がルールに沿うものかは言及しなかった。

 こうした問題はあるにせよ、加盟各国がこの制度を利用し、その判断に従うことで、自由貿易が守られてきたのは事実だ。これまでの協議要請は、およそ600件。是正の求めに対応したかを監視するしくみや、対応が不十分な場合の対抗措置も用意されている。

 自国第一を振りかざす米トランプ政権を説得するのは、容易ではない。

 それでも日本が議長国を務めた昨年のG20首脳会議では、紛争処理制度について行動が必要との認識を、米国を含む各国が共有した。欧州などとも協力して、日本は積極的に調整役を担ってほしい。

 多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の挫折で、WTOのルールづくりの機能は損なわれたままだ。自由貿易を支えるもう一つの柱である紛争処理機能の不全まで、長く放置することは許されない。

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