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 ■千葉工業大×朝日新聞

 惑星探査からロボット開発まで、大学は社会の進化にいかに貢献してゆくか。千葉工業大学が朝日新聞と朝日教育会議を共催し、「未来の文明をどのように構想するのか」を議論した。【東京都港区のベルサール六本木で、昨年12月8日開催】

 【基調講演】

 ■創造した「知」、社会に還元してこそ 千葉工業大惑星探査研究センター所長・松井孝典さん

 文明の未来を考えようとしても、多くの人は考えられない。どう考えれば良いのかという基盤がないからだ。未来を考える方法として、歴史に法則性があるかという議論がある。私の考えでは、歴史には法則性がある。進化という法則性だ。

 進化はなぜ起こるのかといえば、流れがあるからだ。例えば生きているとは、流れが維持されている状態。逆に死とは流れが止まった状態だ。難しい言葉でいうと、生きるとは「動的構造を維持すること」「開放系が維持されること」「流動系が存在すること」「熱機関として動いていること」だ。

 文明とは、地球システムのなかに「人間圏」というサブシステムをつくる生き方だと私は言ってきた。気候が安定化した1万年前から農耕牧畜というライフスタイルが始まり、生物圏から分化した人間圏という新しい生き方がつくられた。人間圏もすべて動的構造であり流動系。その流れが維持されて今に至っている。

 大学は、この人間圏の中の「知」の流れにかかわる存在だ。知を創造し、知を普及させる役割を担っている。

 知の創造とは何か。例えば自然科学とは、自然とは何かを解明すること。さらに自然科学の研究で分かったことを人間圏にどう還元していくかを考えるのが工学だ。技術は革新して初めて意味をもつ。技術が昔のまま変わらなかったら意味がない。

 一方、知の普及とはどういうことか。知は流れて初めて意味がある。閉じた形ではなく、社会に広がり多くの人に共有されてこそ知である。書物や論文ではなく、学生という人の流れが大学を維持している。

 文明を語るとき、一方で重要なのが富だ。富は、モノの流れを大きく効率的に動かす能力だ。地球システムは太陽からのエネルギーを受けてモノが動き、大気大循環や海洋大循環を起こしている。地球システムのモノ、エネルギーの流れに直接関わっているのが農耕牧畜で、人間圏の営みになった。さらに産業革命によって新しい動力を手にしたことで、モノやエネルギーの流れを駆動させることができるようになった。

 知の流れを最大限に進めていくのが精神的な豊かさで、モノの流れを効率的に動かす能力を持つ富と関係するのが物質的な豊かさで、どちらも流れに関係している。

 私の専門である宇宙についていうと、この宇宙の特徴を一言で言うなら「進化が起こる宇宙である」ということ。ビッグバンという宇宙の最初の爆発のとき、重力がものすごく強かった。そのためエントロピー(乱雑さ)も低かった。この宇宙ではエントロピーが増大するという時間の矢が動いている。この宇宙に存在するあらゆるものは時間の矢を持って進化する。宇宙もまた流れが拡大している。

 最後に、進化を測る尺度としてエネルギー流量密度というものがある。星の世界、惑星の世界、生物の世界。いずれも時間とともにエネルギー流量密度が増えている。だから歴史に法則性はあるのか考えるとき、エネルギー流量密度で測ればいい。同じことは文明についても言え、未来も予測できる。これからも技術革新を伴いながら発展し続けるだろうということだ。

 未来をつくるためには、知の世界の創造と技術革新を続けていかなければいけない。そのために大学が機能してがんばるべきだ。大学が疲弊したら日本国の未来はない、というのが私の考えだ。

     *

 まつい・たかふみ 1946年生まれ。理学博士。地球惑星物理学。東京大学名誉教授。内閣府・宇宙政策委員会委員長代理。米航空宇宙局(NASA)研究員、東京大学大学院教授などを経て、2009年より現職。惑星科学の第一人者。最近は世界の遺跡を物理学的手法で研究。「地球システムの崩壊」「138億年の人生論」など著書多数。

 【パネルディスカッション】

 基調講演に続いてパネルディスカッションを行った。冒頭で古田さんが、千葉工業大学で行われている最新のロボット研究を紹介。引き続いて松井さん、タレントの安めぐみさんを交え3人で討論をした。

 (進行は木之本敬介・朝日新聞社教育総合本部ディレクター)

 ■「世にない物を」ロボット開発 千葉工業大未来ロボット技術研究センター所長・古田貴之さん

 未来の乗り物「カングーロ」を紹介したい。イタリア語でカンガルーを意味する名前だ。

 人工知能(AI)が入ったロボットで、主人を認識して後をついてくる。主人が望めばライドモードに変形する。世界最新鋭の自動操縦技術が入った3輪の電動バイクだ。

 モーターがついていて、カーブのときには左右方向、斜めに傾く。スキーのような高速スラロームや高速ターンもできる。走りながらまわりの地図を作ってくれる。「ここに行きなさい」ってポチッとボタンを押すと、ロボットモードに変形して、先まわりする。お尻には振動スピーカーがついていて、生き物のような鼓動により、スピードや周囲の障害物状況をつたえることもできる。「おまえスピード出しすぎだよ」って。

 これからはロボットであり、乗り物であり、世の中にない物だろうと考えた。そう考えて開発したら、米経済誌「フォーブス」に紹介され、ニューヨークやロンドンのミュージアムからの依頼で、それぞれの企画展に数カ月にわたる展示の機会もあった。

 私の職場である工業大学の仕事は、技術で世の中に貢献すること。新しい技術を皆さまにお届けしたい。来年、掃除機ロボットを発表する予定だ。

 皆さまに技術を届けない大学も多い。われわれは技術で貢献し、世の中の文化を少しでも動かしたいと考えている。

     *

 ふるた・たかゆき 1968年生まれ。工学博士。科学技術振興機構ロボット開発グループリーダーを経て、2003年より現職。東京電力福島第一原発の最上階まで踏破した災害対応ロボットや、歩行者を認識して衝突を防ぐ車いすなど、社会に役立つ技術を開発。

 ■主人認識し変形、最新ロボにびっくり 安さん/地球温暖化も恋愛も、将来設計が必要 古田さん/幅広い宇宙分野、自分の能力見極めて 松井さん

 ――安さんからあいさつを。

 安 私は以前、NHKで「サイエンスZERO」という科学番組のナビゲーターを務めた。先生の話を楽しみに学ばせていただく。皆さんと一緒に楽しめたら良いと思う。

 ――千葉工業大学を訪れた経験もある?

 安 「サイエンスZERO」で。

 ――見たことのない映像が古田さんから紹介された。

 安 「カングーロ」、すごいと思った。主人を認識して変形するとはびっくり。実現できてしまうのもすごい。

 古田 何かしたいという気持ちを助ける乗り物を作りたかった。高齢化社会とは、高齢者が若者に負けんぞという思いで世の中を動かすことだと思う。それを手伝うのがサイエンスだ。

 松井 そういう意味では、高齢者の方にぜひ大学に来てもらいたい。

 ――松井さんはいま73歳?

 松井 そうだ。これから10年間は、文明の起源を考察しようと思っている。教科書が変わるような内容を。

 ――松井さんのいう「人間圏」でみると、これからの課題である環境問題はどう考えられるのか?

 松井 「環境が大事だから人間の活動を一切やめよう。地球という星の流れの中で生きよう」という生き方をするか。それなら話は簡単だ。その代わり文明は衰退していく。あるいは問題を解決して、もっと地球の上でエネルギーやモノの流れを拡大していくような生き方をするか。地球上の排熱をいかに宇宙空間に効率良く捨てるかという課題に応える技術を開発すれば、解決につながる。

 古田 時計の針を戻すことはできない。技術革新で問題をどう解決するか。これが科学者、研究者、そして大学の重要なミッションだ。地球温暖化の議論は、恋愛道にとても似ていると僕は思う。

 安 どういうこと?

 古田 どちらもちゃんと将来の絵を描いて議論しなければならない。地球温暖化の話も、企業の衰退も、恋愛も同じで、世界設計、グランドデザイン、人生設計が必要だ。

 松井 統合的な知識が必要ということだ。21世紀の学問分野でつくるべきものがある。デザイン科学だ。デザインという言葉があまりにも一般化して使われているためイメージが良くないのだが。

 古田 日本語でデザインというと「見た目」だ。英語では「設計」も含まれる。千葉工業大学では、デザインも機械も電気も情報も全部学べる。

 ――工学系の大学の使命とも関わるテーマだ。

 松井 技術革新をやるのが工学系の大学の一番重要な使命で、そのためにデザインが必要だ。デザインと技術革新を一緒にする大学をつくるのが大事で、おそらく国立大学にはできないだろう。私立大学も規制を受けてはいるが、自由がある。新しい大学像を提示できる可能性がある。

 ――会場に来た参加者から事前に質問をもらっている。まずは松井さんに。地球外生命体はいるか?

 松井 ごまんといるだろう。この宇宙は化学の法則が成り立つ。生命は炭素を基盤にした化学法則の上に成り立っている。したがって、この宇宙には星もあるし、地球もあるし、生物もいるんだというふうに考えられる。ただし複雑さのレベルの問題はある。複雑な生物が生まれているかどうかは分からない。

 ――古田さんに。鉄腕アトムは可能か?

 古田 無理だ。特に首から上が難しい。コンピューターはたくさんのスイッチの塊であり、喜怒哀楽はできない。

 ――安さんに。科学番組の経験が生きたことは。

 安 普通の生活では会わないような研究者の方に会い、なかなか入れない場所に入れた。刺激的な4年間だった。知ることが大事だという思いを持って、これからの子育てもしていきたい。

 ――中学生からの質問が二つ。それぞれ宇宙、ロボットに興味がある。どういうことをすれば良いか。

 松井 宇宙、といってもたくさんの分野がある。生命、ロケット、観測。惑星を見る話も、宇宙を見る話もある。何でもありだ。好きこそものの上手なれ。これなら世界一になれるという自分の能力を見極めて伸ばすことだ。

 古田 質問を書いた少年に伝えたい。決して諦めるな。科学者になりたいなら自分の判断を信じろ。磨け。自分で行動できるようになれ。情報を取りに行け。行動あるのみ。興味がある先生の所に自分で行こう。自分で確かめよう。今すぐやろう。

     *

 やす・めぐみ 1981年生まれ。バラエティー番組、CMなどで幅広く活躍。NHK総合「BSコンシェルジュ」司会。

 ■あふれる好奇心 会議を終えて

 全体を貫くキーワードは「好奇心」だったように思う。

 地球システムから、人類の歩み、文明の歴史と未来まで、壮大なテーマを体系的に論じた松井さん。映像を駆使しながら、世の中に役立つロボットの実例で聴衆をひきつけた古田さん。アプローチは対照的だが、知的好奇心を刺激される話が満載だった。

 2人の科学者としての源泉も、好奇心だ。古田さんは「研究者ってドキドキワクワク」と繰り返し、松井さんは今後10年は文明の起源を研究したいと「まだまだ現役」を宣言した。

 来場の中高年層に向けては「学んでいるうちはいつまでも若者」とし、会場に足を運んだ皆さんの好奇心が日本を元気にする、と鼓舞。科学者志望の中学生にも「好きこそものの上手なれ」「行動あるのみ」と後押しした。

 教育論で印象的だったのは「工学系大学は何のためにあるのか」をめぐる考察だ。技術革新で貢献するのが使命だが、古田さんは「高校生がプラモデルを作ってるのと同じ」大学が多いと痛烈に批判。松井さんも文部科学省の高等教育施策を批判し、自由度が高い私大の意義を強調した。

 思考も発言も行動も「自由」な2人の碩学(せきがく)の存在に、私立工学系大学の可能性の大きさを感じた。

 (木之本敬介)

 <千葉工業大学> 1942年創立。千葉県習志野市の二つのキャンパスに工学部をはじめ5学部と大学院。世界文化に技術で貢献するという建学の精神のもとに約1万人が学ぶ私立工業大学。NASAやJAXAと連携する惑星研究や、原発事故等の災害対応ロボット技術で活躍。米国、中国、ドイツ等、海外の有力大学と交流協定を結ぶ。

 ■朝日教育会議

 14の大学・法人と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。これまでに開催されたフォーラムの講演者や模様を伝える記事については、特設サイト(http://manabu.asahi.com/aef2019/別ウインドウで開きます)をご覧ください。

 共催の大学・法人は次の通りです。

 神田外語大学、京都女子大学、共立女子大学、慶応義塾大学、公立大学法人大阪、成蹊大学、拓殖大学、千葉工業大学、東京工芸大学、東北医科薬科大学、東洋英和女学院大学、法政大学、明治大学、早稲田大学(50音順)

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