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 ■老後レス時代

 年を取っても働き続ける――日本はそんな社会に近づいています。一方で、産業構造の変化などから、企業でベテラン社員が築いてきたスキルと業務がかみ合わず、やる気を失っている現実もあります。こうした「働かない」中高年を「妖精さん」と名付けた若手社員の記事を掲載したところ、様々な反響を呼びました。この現象をどう考えたらいいのでしょうか。

 ■上の世代へ不満抱く若手―― 働き方制度、見えた限界

 賛否ともに、今回の記事への感想が様々な世代から記者(35)の元に届きました。建設的な議論のために、問題をより多角的に理解しようと思います。立教大の中原淳教授(経営学)に聞きました。(真海喬生)

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 この問題は、単なる世代間の対立ではなく、日本の人事制度、労働政策、少子高齢化、教育・子育て、社会保障などとつながっています。単純な話ではありません。

 若手が上の世代に不満を抱くのには、複数の理由が考えられます。まず生産性と賃金が不釣り合いなこと。「過去に会社に貢献した分を今もらっている」と言われても、将来、そういう状況が期待できない若手は納得できません。

 次に会社や自分の将来への不安。30代を過ぎれば、割と50代は近い存在です。例えば会社が希望退職を募ったら? 「あぁ、うちの会社は50代をそういう風に扱うのか」と感じるわけです。リストラは若手・中堅にとってもショックなのです。このままこの会社にいて良いのか、と悩みます。50代をリストラするつもりの施策が、30~40代の退職につながった事例はよく耳にします。

 そして、政策への不信感が大きい。日本にはつい20~30年ほど前にバブル崩壊や就職氷河期があり、非正規社員を激増させてきました。単純に言えば、上の世代の既得権益を守り、若年層の雇用を犠牲にした。若い世代はこうした日本の歩みをよく見ています。「上の世代はいいよな」という不満が鬱屈(うっくつ)しています。

 もちろん、「働かないおじさん」は、おじさんだけではありません。長期雇用を守るために起こる「生産性と賃金が見合わない状況」なので、年代や性別を問わず誰にでも起こりえます。でも、大きな会社で正社員として働く人の年齢構成をみれば、やっぱり50代の男性が多い。どうしても目立ってしまうのです。

 では、どうすれば良いのか。

 もっと多様な働き方ができるように、人事や労働政策、子育て制度を整えることはもちろん重要です。どうお金を稼ぐかをしっかり学べる教育も必要でしょう。年金など社会保障制度の改革も急がれます。

 個人レベルでは、新しい技能を身につける努力が50代にも、若い世代にも望まれます。これまで培った能力は強みです。年齢と共に記憶力は落ちるが、経験に基づく応用力はむしろ上がる、という研究もあります。会社が適切な仕事を与えるべきだ、との意見もわかりますが、そもそも人に仕事を用意するのではなく、仕事に対して人を用意するのが健全な状態です。スキルを磨いて気持ちよく働ければみんな幸せです。また、今の仕事や勤め先でどういう分野が伸びているのかに注目するのも、学びの一つかもしれません。

 昭和の高度成長を支えた働き方制度は限界を迎えつつあります。この問題が、将来の日本をどうするかを考える出発点になればと思います。

 ■年功賃金制度に不公平感―― 見直すなら社会保障も

 記者は53歳。年功賃金制度の下で約30年勤めてきましたが、「働かないおじさん」に対する若者世代の冷たい視線におびえてしまいます。どう受け止めればいいのか、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)研究所長の濱口桂一郎さんに聞きました。(浜田陽太郎)

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 確かに年功賃金によって、貢献度に比べて報酬が高過ぎる中高年社員が生まれやすい状況はある。でも「既得権にしがみつき、けしからん」と、世代間の対立をあおるのは非生産的です。

 中高年の中には、そうして高い処遇を受ける「得な人」も、リストラされ再就職もままならない「損な人」もいる。若者の間にも新卒で正社員になれた「得な人」もいれば、非正規の仕事しかない「損な人」もいる。日本は「得」と「損」の差が大きいことが問題なのです。

 日本は年功序列や終身雇用を前提とした「メンバーシップ型社会」として発展してきました。1922年、呉海軍工廠(こうしょう)の技術将校が、年齢と家族数で賃金を決める生活給を提唱したのが出発点とされています。これが戦後、「電産型賃金体系」として確立しました。

 一方、欧米は「ジョブ型社会」。まず職務があり、それをこなせる人をその都度採用する。仕事がなくなれば整理解雇されます。

 私が提案するのは「ジョブ型正社員」。これまでの正社員のようにムチャクチャに働かされることなく、職務や職場、労働時間が「限定」された「無期雇用」の労働者です。欧米の普通の労働者と同じです。職務がある限りは解雇されません。非正規社員のように、たとえ職務があっても雇用契約の更新が保証されず、常に雇い止めのプレッシャーにさらされることはなくなります。更新拒否を恐れてパワハラ、セクハラ被害に泣き寝入りすることもありません。ただし、仕事がなくなれば整理解雇されるという点で、これまでの「正社員」とは違います。

 「60歳定年で非正規化し、70歳まで継続雇用」という、これまでの延長線上の対応では難しい。60歳の前後で働き方が途切れないよう一部のエリートを除き、40歳ごろからジョブ型正社員として専門性を高めるキャリア軌道に移しておくのです。

 日本の大卒が「社長を目指せ」とエリートの期待を背負って必死に働かされ、モチベーションを維持できるのは、30代くらいまででしょう。それ以降は出世にしばられない「ホワイトなノンエリートの働き方」を考えた方が幸せでしょう。

 欧州では公的な制度が支えている子育てや教育費、住宅費などは、日本では年功賃金でまかなわれています。ジョブ型正社員の普及を目指すなら、社会保障制度の強化が必要です。雇用の改革に向けて、社会保障を含めた「システム全とっかえ」の議論を、慎重かつ大胆に行うべきでしょう。

 ■存在消し再就職活動・大目に見てあげて

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声を紹介します。

 ●自分が妖精さんです

 まさに自分が妖精さんなので何も言えないですが、会社では出来るだけ存在を消し、再就職のための活動をしています。会社に置いてもらえているだけ、恵まれていると思います。中には社内で若手のサポートをしている人もいますが、元々が特殊な職種であるため、専門性が高過ぎて、効率的ではない業務となっているのが残念です。あと、2年ほどで定年を迎えますが再雇用で更に5年まで在職が可能です。こんな状況が続くことは会社にも自分にも良くないことだと頭では分かっているのですがどうにもならないと思い悩んでいます。(神奈川県・50代男性)

 ●若い頃頑張った方々が……

 大手保険会社に勤務している若手です。職場にいる50代の2人に1人は妖精さんなイメージ。勤怠をつけた後は朝刊をじっくり読んだりニュースサイトを見たり。昼寝姿もしばしば見かけます。当然残業もしませんが、同じペースで飲みに誘われるので、翌朝早く出社して調整するはめに。若い頃は頑張ったものだ、と言われて10倍近い給与をもらっていきますが、本当にそれなら当時支払われるべきでは? 世代間のモヤモヤで転職を考えることもあります。(東京都・20代女性)

 ●最後は半端な仕事に

 おととし暮れに退職しましたけれど、関わっていたプロジェクトが終わってからの約1年、まともに働いていなかった気がします。延長の制度はあったものの辞める選択肢しかないように追い詰められ、半端な仕事ばかりしていました。そのくせ月末の締めは厳しく有給休暇で対応もしました。妖精さんのようにふんわりできるのはこれまでたまった年休消化のようなものだと大目に見てあげて。(東京都・60代男性)

 ●健康面の問題あるかも

 働かない中高年と思われる人物の中には、健康面の問題で自分の思うような活躍ができていないと思われる方が多くいます。若い頃の不摂生が原因のような節もあり、自業自得のようにも思われますが、自分がその世代になったときは大丈夫かは分からないので、「年をとるというのは大変なんだな……」と思いながら見ています。

 (北海道・30代男性)

 ●背後からもっと若手が

 中高年社員を妖精と呼ぶ若い人に言っておく。貴君らの背後にはもっと若い連中が迫っていることを忘れるなよ、と。時代の進歩はますます速くなり、常々研鑽(けんさん)をしておかないと今持っている技能はすぐに陳腐化して、若さと体力だけが頼りの人間は早晩、妖精化する。まったくひとごとではないぜ。(千葉県・80代男性)

 ●その方々の役割があるはず

 前の会社にそんな方がいました。でも会社の経営方針の見直しでリストラされたのです。その後、会社に色々な問題が発生した時、それを解決してくれる経験豊富な方がいなくなり、会社はもっと危機に直面しました。私も20代の時はそんな働き方をする方が理解できなかったし、それが原因で最初の会社を辞めたこともありましたが、年を取るにつれて、自分が間違ってたのかもしれないと思うようになりました。本当に彼らは妖精さんなんでしょうか? その方々にも役割があるのではないでしょうか?(海外・30代女性)

 ●ニーズにあった能力磨きたい

 20年前私が若手だった頃から「妖精さん」はいて、「扶養家族」と呼ばれていた。世代という軸で処遇を決めることには違和感を感じる。年齢に関係なく業務遂行能力と成果をバランス良く、納得度高く評価し給与に反映する仕組みがまずは必要。他人への指導育成もきちんと評価されないといけない。そうしないと職場が助け合いのない殺伐としたものになる。働く側も年齢に関係なく、今の仕事のニーズにあった能力を身につける努力を続けなければいけないと思う。(栃木県・40代男性)

 ●気の毒な中高年正社員

 派遣社員ですが、派遣先で働かないなど陰口を言われている中高年正社員の方がいます。聞こえるようにひどいことを言われている時もあり、本人もつらいだろうに、そんな思いをしながら会社にしがみついて生きていかなければならない正社員の方が気の毒に感じます。(埼玉県・40代女性)

 ●年をとったら自分がそうなった

 昔は妖精じゃなくて妖怪と言った。若い時はああなりたくはないと思ったが、年をとったら自分がそうなってしまった。変なプライドを持たずに、能力の50%でこなせる職に就くのが良いと思う。(京都府・60代男性)

 ■70歳まで働ける社会へ

 政府はすでに、高齢でもできるだけ長く働ける社会の実現に向け、突き進んでいます。社員が希望すれば70歳まで働ける機会を確保する「努力義務」を企業に課す法改正案を通常国会に出す予定で、来年4月のスタートを目指しています。将来は義務化も検討するとしています。

 日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少傾向で、年金など社会保障制度の担い手不足は深刻になっています。このため60歳定年が主流だった企業は、2013年から、65歳まで働きたい人を原則全員、(1)定年廃止(2)定年延長(3)定年後に非正規雇用の契約社員などで継続雇用、のいずれかで雇うことが義務づけられました。

 今回の改正案はこれをさらに70歳まで延長します。ただ、高齢になるほど健康状態などの個人差も大きくなるとして、(1)~(3)のほかに、(4)他社での再就職(5)フリーランスで働くことを支援(6)起業を支援(7)社会貢献活動参加を支援、という選択肢も用意。各企業で労使が話し合い、どれを選ぶか決めるとしています。

 独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の19年の調査で、60~64歳に65歳以降も働く予定を尋ねたところ、「採用してくれる職場があるなら、ぜひ働きたい」「すでに働くことが(ほぼ)決まっている」が合計で約56%を占めました。

 ただ、19年の企業への調査によると、61歳の賃金を60歳直前と比べると、平均で約79%まで下がっていました。定年後の再雇用で待遇が低下することも影響しているとみられ、65歳以降の処遇でも同様の課題があるとされています。(滝沢卓)

 ◇来週26日も「『妖精さん』どう思う?」を掲載します。

 ◇中高年世代の働き方について、asahi_forum@asahi.comメールするまでご意見をお寄せ下さい。

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