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 古文書や日記、絵画、写真。地図に民芸品、農工具……。日本の各地には、地域のなり立ちや人々の暮らしぶり、方言などの変遷を知る手がかりとなる資料が少なくない。

 それらをどう後世に伝えていくか。過疎化や都市の再開発に伴う散逸に加え、一挙に大量の歴史資料を消失させかねないのが自然災害だ。国宝や自治体の指定文化財なら行政による修復作業が期待できるが、個人や事業所など民間が所蔵するものはとかく忘れられがちだ。

 身近な歴史資料を守ることが、被災の体験や教訓を未来にいかす礎になる――。そうした問題意識から、25年前の阪神・淡路大震災の被災地では歴史資料を救い出し、公文書館などで保管した後、家屋の再建後に所有者へ戻す取り組みが行われた。震災の翌月、傷んだ旧家解体への危機感から歴史研究者らが兵庫県で設立した「歴史資料ネットワーク」の活動だ。

 神戸大文学部に事務局を置く同ネットの保全活動はその後、大きな災害の被災地に赴くメンバーを通じて各地に広がった。新たな団体も生まれ、今は二十数団体が名を連ねる。研究者や学芸員、学生、市民らが手弁当で活動している。

 近年相次ぐのが大雨や台風の被災地での活動だ。

 18年7月の西日本豪雨では、愛媛県宇和島市の公民館で保管していた旧立間(たちま)村の江戸時代からの文書が水浸しになった。泥を落とし、漁協の倉庫から愛媛大の冷凍倉庫へ移して保管し、修復作業を続けている。

 昨年10月の台風19号でも民家所蔵の文書を守る試みを各地で支援した。千曲川の堤防決壊などで広範囲に浸水した長野県では、地元の大学や博物館のスタッフによる「信州資料ネット」の発足につながった。

 歴史資料を守るために、まず問われるのはふだんの保管場所だ。台風19号では、自治体の文化施設の地下収蔵庫に置いていたものが水没した事例が報告されている。浸水や倒壊の危険性がないかどうかを点検しておくことは基本だろう。

 保全活動への公費による支援や専門組織の設置も検討課題だ。日本には専門の文化財レスキューチームや修復センターがないが、イタリアでは各地の文書保護局が災害時の対応を担う。研究を深めたい。

 「どんな記録に価値を見いだし、未来につないでいくか。ふだんから地域で議論しておくことが必要だ」。阪神大震災から活動を続ける神戸大大学院人文学研究科長の奥村弘教授はそう指摘する。歴史資料を通じて地域の営みを知ることは、防災・減災への出発点でもある。

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