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 ■拓殖大×朝日新聞

 日本で学び、働く外国人は年々増えている。拓殖大学は朝日新聞社と朝日教育会議を共催。多文化が共存するために必要なことは何か、議論した。基調講演では、雅楽師の東儀秀樹さんが日本文化に学ぶことの大切さを語った。【東京都文京区の同大学で、昨年12月21日開催】

 ■基調講演 比べる材料あるほど見極められる 雅楽師・東儀秀樹さん

 雅楽は、日本のどの伝統芸能よりも古くて長い歴史を持っています。それなのに、日本人に身近ではありません。実は小学校の音楽の教科書には、雅楽の説明がちゃんと載っています。しかし、楽器を見たことも聞いたこともない先生が大半ですから、教える側に感情や情熱は生まれません。

 文章や文字で伝えても、物事の本質をつかむことは難しい。見聞きし、触れることで、そこに好き嫌いが生まれます。好きにならなくてもいい。触れてみようと思う気持ちが大切です。

 文化だけで収まらないのが、文化です。みなさんにやって欲しいのは「文化を学ぶ」のではなく、「文化に学ぶ」こと。日本の文化を考えるには、日本の個性を語らなければなりません。日本の国籍がなくても、日本の歴史を誰よりも詳しく語れる人がいたら、その人は日本人より日本人らしい。だから、国籍だけで胸を張ることは、あまり意味をなしません。それが、文化と人間の関係です。

 夏には東京五輪が開かれます。だからこそ、日本人は英語を話せるようにならなければいけない、と言う人がいます。しかし、日本を訪れる外国人が求めているのは、実際に何かに触れ、体験すること。日本人の語学力ではありません。

 例えば、こたつに入ってみたい外国人にとっては、英語で説明するよりも、こたつがある所を紹介してくれる方がずっとありがたい。ですから、日本という国の内側を知り、そこに誇りや責任感をもっている人こそが、国際的に活躍できる日本人だと思います。

 雅楽をやる人の大半は小さいころに始めますが、僕が始めたのは18歳でした。子どものときから音楽が大好きで、雅楽をやる前に、歌謡曲や、ロック、ジャズ、クラシックなど、雅楽以外の音楽を楽しむだけ楽しんできました。

 周りからは「遠回りをしたね」と言われましたが、スタートが遅かったことは私にはプラスのことばかりでした。物事は比べる材料があるほど、見極めやすくなります。例えば、このステージのスクリーンは白いですが、白い紙をあてがうと、グレーやブルーがかったように見える。音楽もそうなんですね。雅楽と他の音楽との違いに気付き、疑問が生まれる。すると魅力を感じやすくなり、探究心も育ちます。雅楽をやった平安時代の人々の美意識や精神性にも興味がわいてきます。

 世界を均一にする必要はありません。それぞれの国には譲れない個性があって当たり前。そういう個性が「お互いさま」として守られるのが、本当の国際社会だと思うのです。文化で大事なのは、イエスかノーかではなく、グレーゾーンを設けること。相手が否定する余地を与えながら、こちらの考え方を示すことが、一番温厚な文化の交流じゃないかと考えています。

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 とうぎ・ひでき 1959年生まれ。東儀家は1300年以上の間、雅楽を世襲。宮内庁楽部在籍中は、宮中儀式での雅楽演奏をはじめ、海外公演にも参加。雅楽の持ち味を生かした曲の創作にも力を入れる。

 ■パネルディスカッション

 長尾素子さん 拓殖大商学部教授

 近藤真宣さん 拓殖大国際学部教授

 有元伸一さん 株式会社ローソン

 川名明夫さん 拓殖大学長

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 拓殖大学は、留学生の受け入れや日本語教育に力を入れている。多くの外国人が働くローソンの有元伸一さんを招き、「国際社会との共存」をテーマに議論した。(進行は一色清・朝日新聞社教育コーディネーター)

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 ――異文化コミュニケーションで大切なのは、どんなことなのか。

 長尾 日本人に限らないが、私たちは慣れ親しんだ自分の行動パターンや考え方が正しいと思いがちだ。しかし、日本で暮らす外国人が増えれば増えるほど、違う基準が存在することになる。普通はこうするべきだ、と考えると自分自身が苦しくなってしまう。実は、コミュニケーションの語源は「共通の」を意味するラテン語の「COMMUNIS」。ぜひ、相手との共通項探しをしてほしい。

 近藤 言葉の上手、下手という以前に、外国人とのコミュニケーションのスタイルが違うことを知らなければいけない。例えば飲み会に誘われたとき、「今日はバイトだから行きません」と言うのと、「うーん、今日はね」と言うのでは受け取り方が違う。多くの日本人は後者をより良い返答だと思うだろうが、事実を説明することが丁寧な対応だと考える文化は、世界に多く存在する。

 ――長尾さんは東京・お台場の英語体験学習施設「TOKYO GLOBAL GATEWAY」(TGG)にも携わっている。

 長尾 TGGは2018年、東京都と民間企業が協働して開業した。子どもたちが飛行機内やクリニックなどで、外国人と英語でやりとりできる。小中高の先生から「TGGで4技能のどの部分が伸びますか」と聞かれることもあるが、目的はそこではない。自分の知っている単語が限られていてもいい。外国人とコミュニケーションをとることを体験し、ワクワク感を得ることが大切だ。今の日本の英語教育はあまりに知識偏重だ。英語はあくまでコミュニケーションのツールであることを強調したい。

 川名 私はエンジニア出身で国際会議にも出たが、英語が十分に話せなくても、特に理工系は論理的にはっきりしていれば、発表の内容は相手に通じる。人間の脳がとらえる情報の大半は視覚情報だと言われている。ジェスチャーをまぜてもいい。言葉ができないからと引っ込まず、伝える方法を一生懸命考えることが大切だと感じている。

 ――拓殖大学は4月、外国語学部に国際日本語学科を新設する。その背景は何か。

 近藤 日本国内の日本語学習者はここ6年ほどで倍増し、日本語学校などでは教師が不足している。19年には、外国人労働者の受け入れを広げる改正出入国管理法も施行され、これから日本語教育の需要はますます高まっていくだろう。地域の共同体の中で異文化交流ができ、日本人と外国人との間に立てる人材を育てたい。

 有元 ローソンで働く外国人のアルバイトは全国に約1万3千人。全体の6%ほどで、人数は今も増えている。国別ではネパールが最多で、中国、ベトナムと続く。課題は、約3割が採用後1~2カ月で辞めてしまうこと。コンビニの仕事はとても煩雑なうえ、言葉の問題もあり、お客様からのご指摘で辞めてしまう人も多い。ただ、最初の苦労を乗り越えれば、長い間、頑張って働いてくれる。店舗のオーナー向けの研修やレジの多言語対応化といった様々な取り組みで、楽しく働ける環境づくりを進めている。オーナーには、外国人のアルバイトに愛情を持って欲しいと考えている。愛情の反対は、憎悪ではなくて無関心。関心を持てば、コミュニケーションの質も頻度も変わる。

 ――19年には建設や介護、農業など14業種を対象にした在留資格「特定技能」が創設された。一方で、日本政府は今も外国人の単純労働者を認めない立場をとっている。

 有元 コンビニを含むサービス業は、いまだに単純作業と見なされている。留学生らがアルバイトとして働くことはできるが、就職できないのが現状だ。国に接客やサービス業の評価を見直してもらい、最終的には、外国人が高度人材として働けるところまで持っていきたい。

 ――日本で暮らす外国人をどうサポートすればいいか。

 近藤 国や自治体には、外国人が分かりやすいように「やさしい日本語」を取り入れる動きがある。出入国在留管理庁はこの秋、生活や仕事に関するガイドブックの「やさしい日本語」版を作った。日本人にもとても分かりやすい。共生社会は外国人だけではなく、日本人にとっても生きやすい社会ということだ。

 有元 ローソンでは、日常生活の行政手続きや病院で困る外国人が非常に多い。子会社のローソンスタッフ社はコールセンターを設け、多言語で対応しているが、コストがかかる。こうしたサポートを国や自治体がもっと担えば、我が社の従業員に限らず、外国人が日本で長く暮らせることにつながる。

 ――多文化共生に向けて、大学の役割は何か。

 川名 拓殖大学は長年、特に留学生の教育に力を入れてきた。かつては留学生が日本語や文化を学び、それぞれの国に帰って活躍してもらうための教育だった。これからは、留学生が日本で一緒に暮らし、働けるための教育が必要になる。イノベーションは、やはり多様性から生まれる。日本が元気になるには、留学生や外国人をたくさん受け入れることが必要だ。

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 ながお・もとこ 異文化コミュニケーションなどが専門。東京の体験型英語学習施設「TOKYO GLOBAL GATEWAY」の取締役COOも務める。

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 こんどう・ますみ 日本台湾交流協会・高雄事務所に日本語専門家として勤務するなど、日本語教育に長年携わる。4月新設の外国語学部国際日本語学科の学科長に就任する予定。

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 ありもと・しんいち ローソン環境社会共生・地域連携推進部長。同社本部や加盟店の研修を担当。外国人アルバイトがコンビニエンスストアで働きやすい環境づくりを図っている。

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 かわな・あきお 工学博士。日本電信電話公社(現NTT)をへて、1999年から拓殖大学工学部教授。工学部長や副学長を務め、2015年から現職。専門は生体情報工学。

 ■プレゼンテーション 留学生と助け合い、学び合い

 拓殖大学で日本人学生と交流を深める留学生と、日本語教育のインターンシップでモンゴルを訪れた大学院生が、自身の取り組みを紹介した。

 ニヘマット・ニジャットさんは中国・新疆ウイグル自治区出身で、商学部経営学科の3年生。入学後に驚いたのが、日本人学生と留学生の距離の近さだった。

 入学して間もない時期に日本人学生から様々な支援を受けた経験を元に、昨年、別科日本語教育課程で学ぶ外国人をサポートするサークルを立ち上げた。留学生の視点を生かし、日本人学生と留学生が勉強だけでなく、共に日本の遊びをしたりイベントを開いたりしている。「日本人学生と留学生の交流を深め、助け合える環境を作っていきたい」と抱負を語った。

 塚原彩佳さんは日本語教師や会社員をへて、現在は大学院言語教育研究科で日本語教育学を専攻。昨夏、モンゴルに1カ月滞在し、小中高一貫学校で高校生たちに日本語を教えた。

 授業では、日本語の力を高めるだけでなく、日本の大学への留学を見すえ、協働学習に慣れてもらうことを重視。自身もモンゴルの文化を吸収することを意識した。日本語教育に携わることの魅力について、「様々な学習者と出会え、自分自身が日本語や日本らしさを見つめ、特徴を捉え直せること」と話した。

 ■共存へ具体的ヒント 会議を終えて

 何となく分かっていることも、具体的な事例があるとはっきり理解できるようになる。パネルディスカッションの登壇者たちは日常的に外国人と関わっているだけに、「なるほど」と思わせるエピソードがたくさん示された。

 例えば、日本で暮らす外国人へのサポートについて、有元伸一さんは「外国人は漢字だけではなく、カタカナも同じくらいに読めない。カタカナにもひらがなのルビを振って欲しい」と言った。

 長尾素子さんは、外国人の知人の話を紹介した。自宅でパーティーを開いたとき、「うるさいから静かにして」と書かれた紙が家の扉に貼られ、知人は「直接言ってくれたらよかったのに」と残念がったという。長尾さんは「説明すれば外国人も理解してくれる。ぜひ声をかけてほしい」と呼びかけた。

 一昔前より、外国人への理解は進んでいると思う。それでもまだ、私たちが気づいていないことや遠ざけていることがたくさんあるようだ。国際化していく社会を生きるうえで、示唆に富んだ議論になったと思う。(一色清)

 <拓殖大学> 1900年、台湾開発の人材を育成する「台湾協会学校」として創立。今年で創立120周年。東京都文京区と八王子市にキャンパスがあり、商・政経・外国語・国際・工の5学部と6研究科を持つ。約1千人の留学生が学ぶ。半世紀を超える日本語教育の実績があり、4月には外国語学部国際日本語学科を新設する。

 ■朝日教育会議

 14の大学・法人と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。これまでに開催されたフォーラムの詳しい情報や内容をまとめた記事については、特設サイト(http://manabu.asahi.com/aef2019/別ウインドウで開きます)をご覧下さい。

 共催の大学・法人は次の通りです。

 神田外語大学、京都女子大学、共立女子大学、慶応義塾大学、公立大学法人大阪、成蹊大学、拓殖大学、千葉工業大学、東京工芸大学、東北医科薬科大学、東洋英和女学院大学、法政大学、明治大学、早稲田大学(50音順)

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