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 日本は災害の多い国だ。

 とりわけ近年、豪雨による深刻な水害が相次ぐ。関東や東北を襲った昨年10月の台風19号では、71の河川で堤防が140カ所決壊し、六つのダムで緊急放流が実施された。

 背景には地球温暖化がある。今後、平均気温が2度上昇すれば、雨量が10%増え、洪水の発生頻度は2倍になるとも予想される。政府は新年度予算案に、堤防整備費などとして約6200億円を計上した。こうした手当てももちろん必要だが、予算には限りがある。命と暮らしをどう守るか。水害との向き合い方を考える時だ。

 ■「灰色」と「緑色」と

 注目されているのが「グリーンインフラ」だ。自然環境がもつ多様な機能を活用して、災害リスクを下げる。そんな社会資本の充実を指向する用語で、コンクリートで固めた堤防やダムを意味する「グレーインフラ」と対置して語られる。

 先の台風19号の際は、栃木、群馬など4県にまたがる日本最大の渡良瀬遊水地が受け皿となり、1億6千万トンの水をため、下流の東京方面に流れ出る量を抑えて被害を防いだ。

 近年造られた施設も同様に威力を発揮した。ラグビーW杯の会場の一つとなった横浜国際総合競技場は、国土交通省が管理する多目的遊水地の上に立ち、周囲の池や運動広場、草地などとあわせて広大な公園になっている。近くを流れる鶴見川の水位は19号の大雨で6メートル超まで上昇したが、増えた水の一部をここに引き込んで制御した。

 いっぽう京都市は、雨水を地中に浸透させる「雨庭」を、18年に街なかの交差点に設けた。アスファルトに降った雨をそのまま流さずに貯留し、時間をかけて土中に浸透させる。ゲリラ豪雨時などに排水溝からの氾濫(はんらん)を抑えるだけでなく、ヒートアイランド対策にもなる。

 事業規模や費用は大きく異なるが、地形や自然の摂理を減災に役立てる点でこれらは共通する。日本には昔からそうした知恵があったが、堤防などの整備が進むとともに薄れてしまった。今こそ見直すべきだ。

 ■出遅れを取り戻す

 近年の熱波や甚大なハリケーン被害を受け、欧米ではアスファルト部分を減らし、土や緑を使った公共空間づくりが、土地利用の主軸になりつつある。

 たとえば人口約64万人の米オレゴン州ポートランドは、大雨のたびに浸水被害に悩まされてきた。90年代から道路脇に植栽帯を造り、あわせて透水性舗装や屋上緑化を徹底して被害を減らしている。7年前、ハリケーン「サンディ」による水害で地下鉄が浸水したニューヨークでも、同様の対策が進む。

 欧州では、13年に欧州委員会(EUの政策執行機関)がグリーンインフラ戦略を発表し、力を入れる自治体が広がる。

 これに対し日本は出遅れ、ようやく第一歩を踏み出したところだ。国交省が昨年7月にまとめた「グリーンインフラ推進戦略」は、人口減少や少子高齢化によって利用されない土地が増えるなどの社会情勢の変化を踏まえ、自然の力を国土づくりに生かすことをうたう。

 問題は、理念を具体策にどうつなげるかだ。土地の状況、広さ、住人の数などで、取り得る手段はおのずと違うだろう。

 たとえば地方では、山林を手入れし、里山をいかす。川の流域に遊水機能を持った土地を確保し、湿地を再生させる。住居があれば安全な所へ移す。防風林や防砂林の活用も検討対象になろう。都市部では、京都の雨庭のように舗装を極力減らしていくことを考えたい。

 簡単ではないが、その地域にあったやり方を、国と自治体とで一緒に探ってほしい。

 ■カギ握る住民参加

 気象庁によると、1時間に50ミリ以上の強い雨の年間発生件数は、1976年からの10年間と比べて約4割増えた。激甚化する気象にあわせて、全下水道を整備し直すことなど不可能だ。

 自然と調和した町づくりを長年研究している東京都市大学の涌井史郎特別教授は「いなす、しのぐ」が大事だという。

 「ピークカットの考え方に立ち、住む場所のどこが脆弱(ぜいじゃく)かを把握し、水の力をいなし、危険な状況をしのぐのです」

 個々の受け入れ量は大きくなくても、身近な庭や公園を上手に機能させれば、下流の既存インフラにかかる負荷を軽くできる。それに「早めの避難」というソフト対策を組み合わせ、自然に逆らわずに命を守る方策を実現しようという発想だ。

 注意すべきは、グリーンインフラには不断の手入れが欠かせないことだ。草が伸び放題の堤防や放置された山林では、水を制御することはできない。

 行政に任せきりにせず、樹木の手入れや土手の草刈りに参加する。入居するビルの緑地管理を引き受ける。そんな取り組みは非常時の隣人同士の連携にもつながる。これからの防災のあり方を、それぞれの行動を通して考え、深めていきたい。

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