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 民間企業の事業に盛衰はつきものだ。縮小や撤退もときに避けられない。だが、雇用や地域経済に過大な負荷がかかれば、生活が脅かされ社会がきしむ。十分な目配りが必要だ。

 鉄鋼最大手の日本製鉄が、呉製鉄所(広島県呉市)の高炉2基を休止し、圧延なども含めた製鉄所全体を2023年9月末までに閉鎖する方針を発表した。鉄鋼需要の低迷などで業績不振に陥り、国内拠点の再編を加速する。和歌山の高炉1基も休止するという。

 呉製鉄所は、17年に新日鉄住金(現日本製鉄)の傘下に入った旧日新製鋼の基幹事業所だ。呉海軍工廠(こうしょう)の跡地に戦後建設され、60年代に高炉が稼働した。重厚長大型産業が集まる呉のシンボル的な工場で、協力会社を含め3千人余りが働く。

 突然の閉鎖方針に地元では戸惑いの声が漏れ、知事や市長は製鉄所存続を要望した。影響の大きさを考えれば理解できる反応だが、国内鉄鋼業をとりまく環境は厳しく、大幅な見直しはハードルが高そうだ。

 ただ、現時点で日本製鉄の経営が行き詰まっているわけではない。歴代の経団連会長や、日本商工会議所の現会頭を輩出してきた企業として、自社の都合だけを押しつけるような行動はあってはならない。

 当面する最大の課題は、雇用の安定の確保だ。呉製鉄所の自社社員約千人については、希望退職などは募らず、配置転換で対応する姿勢を示している。しかし広域の配転には応じにくい社員もいるだろう。協力企業の雇用にも影響は及ぶ。どのような日程、条件で閉鎖するのか、丁寧な説明と情報提供に努め、可能な限り激変を緩和できるよう、措置を講じてほしい。

 日本経済は足元では人手不足が続いている。職種や待遇で必ずしも条件があうわけではないにせよ、数字の上では広島地域でも一定の雇用吸収力がある。

 雇用不安を招かぬためには、マクロ経済環境の安定が、まず欠かせない。加えて、雇用のマッチングや社会人が学び直す機会の充実も、重要になる。

 一方で、「企業城下町」的な地域で基幹となる工場が閉鎖されると、商店街や飲食店などを含め、地域への影響が加速度的に広がる場合もある。簡単な解決法は見いだしにくいが、工場跡地を含め、地域の資源をいかに有効に活用するか、官民で知恵をしぼるべきだ。

 グローバル化や技術の進歩は経済全体に恩恵をもたらす一方で、特定の産業や地域、個人に打撃を与え、放置すれば社会の不安定化につながりかねない。個別企業、地域にとどまらない問題として受け止めたい。

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