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 春は人事の季節です。「転勤」と聞くと、心がざわつきませんか。会社が「人材育成」などとうたう一方、介護や子育てなどへの影響が大きく、頭を悩ませる人もたくさんいます。共働き家庭が主流となる中、専業主婦家庭や独身者などへの偏りも目立ちます。いまの時代になじみにくそうな転勤について考えます。

 ■転居も別居も地獄/同行で再就職できず/独身にしわ寄せ

 デジタルアンケートに寄せられた声をご紹介します。

 ●夫の言葉に怒り通り越しあきれ

 転勤族です。ついていくも地獄、別れて暮らすも地獄。子どもが幼稚園まではまだなんとかなる。小学校に入ると大変です。転校後、子どもの精神的安定に母親として神経をすり減らして必死に対応しました。夫も新天地で大変だろうとあまり子どもに関して愚痴や心配事をいわなかったのですが、とあるとき、うちの子どもはなじんだよな?と夫から言われた時はがくぜんとしました。怒りを通り越してあきれ、ですね。転校後1年は目立たぬようおとなしく。それが生きる術なんだそう。かわいそう。(愛知県・40代女性)

 ●仕事辞め、園見つからず

 春から夫が転勤となり、帯同のため勤務先を辞めなくてはいけなくなった。保育園児2人は退園、転勤先は保育園激戦区で春からの入園見通しが立っていない。保育園に入っていないと私の再就職もできないし、働いていないと保育園にも入れないし…完全に詰みました。希望する従業員は、せめて小学校卒業までは転勤無しとするなど、規定に定めて欲しいです。家族の負担を会社は何も考えていない。(長野県・30代女性)

 ●動ける人へのしわ寄せ目立つ

 独身子ナシの公務員です。組織全体の質の統一、向上のためには異動も必要だし、ずっと同じメンバーではないから職場内のいじめなどもほとんどないし、不愉快なことがあっても我慢できるというメリットはある。一方育児、介護に配慮する結果、独身者へのしわ寄せが目立ち、異動の不平等感が否めない。感謝されてもいいくらいなのに、動ける人が動くのが当たり前といった風潮が納得できない。引っ越しや新幹線などの長距離通勤での出費、精神的体力的疲労も負担になっている。様々な生き方、働き方を認めるという建前でしわ寄せにあってる人たちがいることを認識してもらいたいし、平等な異動計画をお願いしたい。(宮城県・40代女性)

 ●会社への貢献、間違いなのか

 管理職です。入社条件に転勤可能であるかの項目あり。その条件で入社した以上、転勤は必須。会社は全国展開をしており、地域社員の人材育成を行うためにも必要であると考えている。昨年の8月より東京から北海道へ異動。この春、新事業所立ち上げのため東京に戻る。責任者として。自分の力量を試す場でもある。上を目指すなら当然ではないか。また、会社に属する人間として、会社に貢献することを忘れてはいけない。序列として、(1)お客様(2)会社(3)自分、と考えているが、この考えは間違いなのか?(北海道・40代男性)

 ●よい経験できた

 転勤族の子として各地でいろいろな経験をして育ったことは良かったと思っています。1カ所にいるのではできない経験ができるのは確かなので、それをポジティブに受け入れられる家庭には(可能なら金銭的負担を相殺する程度の待遇のもと)良いのではと思います。雇用側としても広い視野をもつ人材は貴重だと思います。(東京都・40代女性)

 ●マイホーム購入後すぐ単身赴任

 マイホームを購入してすぐに転勤(単身赴任)となった。過去にもこのような仕打ちを受けた社員がたくさんいる。転勤は能力アップや経験値を得るためには必要なことはわかるが、このようなことをされると、ローンで会社を辞められなくなった人間を好きなように利用してるようにしか感じない。単身赴任となれば家族との時間は減り、家族のために働いてるのに、家庭では疎外感が強くなり、何のために働いてるのかわからなくなる。(東京都・30代男性)

 ●選ぶ権利は社員に

 転勤自体が一概に悪いとは言えないと思う。転勤先での新たな業務や人間関係が刺激に感じられたり、新しい価値観を養ったりする機会となるかもしれないので。ただそれを選ぶかどうかの権利が社員にはあるべきと思う。(東京都・20代女性)

 ■父として後悔せぬため辞退

 首都圏で働く男性(37)は、一度は転勤による単身赴任を受け入れましたが、2度目は断りました。

 男性は「転勤族」で、これまで15回程度引っ越しをしました。5年ほど前に結婚。現在2歳の長男が生まれて数カ月目に中部地方への転勤を命じられました。妻は数時間おきの授乳で常に寝不足の状態。子育てに家事にフォローが必要な時期でした。ただ、転勤は抜擢(ばってき)人事。「サラリーマンとして誇らしい気持ちもありました」

 男性は迷った末、転勤を受け入れました。既に自宅を買っており、単身赴任を選びました。1年超の赴任中、仕事に充実感はありました。週に1度は家族の元に帰りました。それでも、気がつけば、子どもが立っていた。歩いていた。話し始めていた――。「子どもの成長の場面に立ち会えていないと思ったのです」

 首都圏に戻って間もなく、今度は海外赴任を打診されました。キャリア形成のためには、申し分ない人事。それでも、「喪失感」が頭をよぎりました。妻が第2子を妊娠していることも分かりました。辞退を申し出ると、会社側は了承しました。

 断った時には「若干、雰囲気は良くありませんでした」。また、評価への影響も考えたそうです。「ただ、社会の状況を思うに、そういうことが明らかになれば会社もダメージを受けるでしょう」

 男性は、妻の出産にあわせて育休を取得しました。1カ月の希望を告げると上司は「長いな」と難色を示しました。男性から判断を催促しました。男性はいま、転勤で失った時間を取り戻すように、朝は毎日子どもと遊び、保育園に送り届け、週末は家族で過ごしています。

 「転勤は否定しません。それでも、転勤者、特に単身赴任者をもっと優遇すべきだと思います。同時に、家族帯同が選択肢になるよう、子どもの預け先のあっせんや家財の購入費補助など、会社も対策を講じるべきです」(高橋健次郎)

 ■単身赴任の母「待つしか…」

 北海道に住む40代の団体職員の女性は、夫と4歳の長女を道内の自宅に残し、2年前から単身赴任をしています。

 結婚や出産をしても仕事を続けたいと考え、就職活動では「転勤なし」の職場を選びました。ところが就職後、職場の組織改編に伴い「転勤あり」になりました。

 夫も転勤族です。主に道内でですが、夫が東京に出向になった際、職場で出会いました。夫が北海道に戻ることが決まり、結婚を決意。女性は東京に残ったまま「遠距離婚」でしたが、その後転勤を希望して北海道へ。ただし、職場は夫と異なる自治体にあったため、同居はかないませんでした。「転勤制度があったからこそ、東京から北海道に来ることができたと考えるとありがたいのですが……」

 北海道に来て数カ月後、長女の妊娠がわかり、産休・育休に合わせて初めて家族3人の生活が実現しました。ただ、それも3年間。女性の職場復帰と同時に、また家族離ればなれとなりました。

 当初、女性は自分が長女を連れていくものと考えていました。「母親が子どもと一緒にいるのが普通という世間一般の考え方に、無意識に影響を受けていたかもしれません」

 ただ、夫から父子が一緒に残る生活を提案されました。もともと食事は夫が担当するなど家事育児ができたこと。子どもの発熱時などに夫の方が休みを取りやすい環境だったこと。医療機関や保育園の充実具合なども踏まえ、女性が単身赴任する生活を選びました。

 週1回は帰れていますが、「いまの希望は家族3人が一緒に生活できることです」。女性は職場復帰の前から、夫の職場に近い場所へ転勤の希望を出していました。実現しないまま、3度目の春を迎えそうです。

 「タイミングを待つしかないのかな。家族が離ればなれになる転勤はいやです」(武田耕太)

 ■戦前はキャリア官僚のもの 武石恵美子・法政大学教授

 転勤は戦前、キャリア官僚など一部の層で実施されていたのが、戦後、民間企業に広がりました。一つの会社で安定的に雇用が守られる代わりに「どこにでも行く可能性がある」という契約です。

 戦後、欧米から導入した産業技術を熟達して高い質の製品をつくるというビジネスモデルの下、中卒、高卒の若者を一括採用し、自社内で育成しました。育成投資が無駄にならないよう、長期継続雇用が重視され、年功序列型賃金がそれを支えました。転勤は、日本の経済成長に重要な安定的な雇用とセットでした。専業主婦が主流だったために成り立った制度とも言えます。

 ただ、時代は大きく変わっています。高度経済成長期ならば、転勤先で新しい店や工場を立ち上げ、そこで働く人を募集するなど、新しく挑戦的な経験をする機会が豊富だったといえます。でも安定的な社会になると、こうした良質な経験をする機会は減ります。転勤による育成効果はそもそもエビデンスで示されていませんが、仮にあったとしてもかなり限定的であると思います。

 転勤をゼロにできなくても減らすことはできるはずです。「長い間、転勤をしていない」など、他の社員との公平性を担保するために転勤させるケースもあるようです。不公平感の是正には、給与面で対応することもできます。社員の「本拠地」を明確にし、「3年で本拠地に戻る」といった原則を決めるなど、赴任期間をクリアにしておくことも重要です。

 夫婦2人が働き続けることを前提にすると、「うちの会社だけ」では済まされません。社会全体で考えるべき問題です。(聞き手・武田耕太)

 ■必要なら若いうちに前倒しを 菅原佑香・大和総研研究員

 従業員は転勤を含むいかなる辞令も引き受ける代わりに、長期雇用を保障される。こうした日本的雇用慣行は時代に合わなくなっています。

 転勤は育児や介護など人生に大きな影響を及ぼします。それにより離職したり、学生から就職を敬遠されたり。企業も転勤制度を見直さないと、立ちゆかなくなる時代が来ます。

 転勤は絶対的な悪ではないと思います。同じ地域で顧客と接していると、癒着や不正が生まれやすいため、一定期間で転勤をさせる目的もあると聞きます。キャリア形成や人材育成に必要との声もあります。

 ただ、それは場所の移動を伴う転勤でないといけないのか、配置換えではだめなのか。転勤がその従業員の意欲低下を招くのなら、コストをかけて転勤をするメリットがあるのかどうか。まずは本当に必要な転勤は何なのか、企業内で厳密に問い直す必要があると考えます。

 そのうえで、もし本当に転勤にメリットがあるのならば、ライフスタイルの制約が比較的少ない、若手の段階に前倒ししてやっていくべきでは。

 勤務地域を限定する「限定正社員」を積極的に増やすことも必要です。それは女性や高齢者など多様な人材が長く働き続けられることにつながります。ライフスタイルの変化に応じ、正社員と限定正社員を行き来できるなど、キャリアの柔軟な転換も、これから求められます。(聞き手・武田耕太)

 ◇記者(39)は入社15年。4回、転勤をしました。記者として大切な経験でした。ただ、いずれも独身時代。いまは共働きの妻と娘(3)の子育てに追われる日々です。自分たちにとって転勤はどんな選択をしても影響が大きく、考えあぐねています。アンケートのご回答には「家庭崩壊」「絶縁」「後悔」「退職」の文字も。思いを致しながら拝見しました。何が最善の選択なのか、まだ答えは出せません。(高橋健次郎)

 ◇来週3月1日は「転勤 ざわつきますか:2」を掲載します。

 ◇丹治翔も担当しました。フォーラムアンケートをhttps://www.asahi.com/opinion/forumで実施中。ご意見やご提案はasahi_forum@asahi.comメールするへ。

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