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 モスクワで5月9日、対ドイツ戦勝75周年記念式典が開かれる。安倍首相がこれに出席しようと意欲を示している。

 安易な形での出席は国内外に誤ったメッセージを送る結果になるだろう。軽々な判断で結論を出すべきではない。

 2005年の60周年には当時の小泉首相のほか、ブッシュ米大統領、シラク仏大統領、アナン国連事務総長らが顔をそろえた。第2次大戦でのナチスドイツへのソ連の勝利の歴史的意義に敬意を表するためだった。

 しかし15年の70周年の際は、日本を含むG7の首脳は欠席した。ロシアがその前年、ウクライナのクリミア半島を一方的に併合したからだ。

 大戦後の国際秩序は、隣国との国境を尊び、紛争は話し合いで解決することを原則としてきた。それを踏みにじったロシアのクリミア併合はその後、何も是正されていない。

 まして、記念日に赤の広場で行われる軍事パレードは近年、核ミサイルをはじめとするロシアの軍事力を内外に誇示する国威発揚の機会となっている。

 そうした行事への出席は、ロシアの振るまいを容認していると受け取られかねない。

 メルケル独首相は5年前、式典の翌日にモスクワを訪ね、プーチン大統領と無名戦士の墓に献花した。軍事パレードへの参席は避けつつ、大戦を引き起こした国の指導者としての責任を果たす苦渋の判断だった。

 だが安倍氏からは、自国の歴史に真摯(しんし)に向き合う姿勢は感じられない。

 第2次大戦をめぐる日本とソ連との関係は、ドイツよりも複雑だ。日本は当時ドイツの同盟国であり、近隣国にも大きな損害をもたらした。一方でソ連は終戦間際に中立条約を破って対日参戦し、北方領土を含む日本の領土を占領した。

 日本は一貫してソ連の行為を国際法違反だと非難してきた。だがロシアは近年、第2次大戦の結果を受け入れるよう日本に強く求めている。戦勝記念日への出席は、ロシアの歴史観を受け入れたかのように受け取られる懸念もある。

 安倍氏は国会で「十分な時間をとって首脳会談ができるか否かという観点も含め、出席を検討していく」と述べた。首脳会談の意義は否定しないが、この日が持つ意味合いを考えると、慎重さに欠ける姿勢だ。

 プーチン氏は戦勝記念日に多くの外国首脳を招いており、安倍氏が出席すれば歓迎されるだろう。だがプーチン氏の歓心を買おうとする安倍氏の対ロ平和条約交渉は行き詰まっている。

 目先の損得だけで出席すれば、失うものも少なくない。

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