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 (17面から続く)

 ■「唾液力」高め、病気防ごう 槻木恵一さん(神奈川歯科大学大学院口腔科学講座環境病理学教授)

 健康長寿のひけつに口周りの状態が関係している。そんな考え方に注目が集まっています。

 目を開けて片足立ちが40秒以上できるかどうかを調べたところ、歯が20本以上ある人はまったくない人に比べてできる割合が高く、統計学的に意味のある差が出ました。片足立ちができないと転倒のリスクが高まり、健康長寿に影響します。

 歯があって、「かめる」ことはとても大切です。よくかめる人のほうが、よく外出するという調査結果もあります。メカニズムははっきりしていませんが、80歳以上では歯が多くあるほうが視力もよかったという報告もあります。

 こうした報告をみると、歯があることが生活の質を高めていると言えそうです。入れ歯でも効果はあり、歯がない場合には入れ歯を入れていただくことを私はすすめています。

 歯がなくなる大きな原因は歯周病です。歯周病は現在、全身疾患に影響を及ぼすことがわかっています。ですから口の中をきれいにすることは全身の病気を防ぐことにつながります。

 動物実験ですが、歯周病が認知症を進めるという研究結果があります。口の中の細菌が大腸がんの細胞の中に入り込み、がん細胞を活性化させる例があることもわかってきました。心筋梗塞(こうそく)のリスクが高まったり、膠原病(こうげんびょう)を悪化させたりすることも知られています。

 歯を守る基本は、やはり歯磨きです。とくに寝る前は大切です。唾液(だえき)は口の中を洗い流す作用がありますが、睡眠中には唾液が減ります。細菌が増えやすくなり、口の中が汚れます。だから寝る前の歯磨きが大切なのです。

 唾液の量は加齢に伴って減ります。虫歯になりやすくなり、口の汚れから口臭がひどくなります。唾液はかむ力にもかかわるので食べにくくなります。

 脳機能を守る力が弱まるとも言われています。唾液腺でつくられる物質に「BDNF」というものがあります。脳神経の細胞を活性化する、とても重要な物質ですが、加齢に伴って唾液中のBDNFが減ります。

 唾液の量や質を維持することがいかに重要かがわかっていただけると思います。「唾液力を高めることは健康長寿の第一歩」と強調したいです。

 「唾液力」を高めるには、どうすればいいのか。ひとつは、よくかんで食べることです。そのためには歯ごたえのある食材を選ぶとよいでしょう。咀嚼(そしゃく)することで唾液が出ます。野菜や果物などの抗酸化食品は、唾液の量を増やします。梅干しや昆布茶などでも唾液は増えますが、これらの場合、塩分のとりすぎに注意が必要です。

 唾液腺を刺激するマッサージもおすすめです。耳の前のあたりに指を3~4本置き、10回ぐらいゆっくりと回します。唾液力を意識してぜひ、生活してみてください。

    *

 つきのき・けいいち 2014年から神奈川歯科大副学長。専門は口腔(こうくう)病理診断学・唾液腺健康医学・環境病理学。

 ■日々鍛えて、のみ込む力を 植田耕一郎さん(日本大学歯学部摂食機能療法学講座教授)

 口から食べ、のみ込むためのリハビリ「摂食嚥下(えんげ)リハビリテーション」に長い間、取り組んでいます。

 脳卒中のまひが残る高齢の患者さんの口の中に、ベッタリと食べ残したものがはりついているのを見たとき、口のリハビリの必要性を認識しました。

 健康な人は話すときなどに自然と唾液(だえき)が循環し、自浄作用で口の中をきれいに洗い流してくれます。一方、脳卒中の後遺症によるまひは手足だけでなく、口にも残ります。はりついても感じないし、すりつぶせない、のみ込めない。唾液が循環せず、虫歯が一気に広がります。

 舌にコケが生えている場合も多い。このコケは「細菌の巣」ですが、これを誤って気管にのみこんでしまうと、誤嚥性肺炎につながり、命を落としかねません。

 口の中は見えにくく、リハビリの必要性が認識されてきませんでした。でも手足と同じように、口の機能を保つためのリハビリが必要なのです。

 もちろん、こうしたリハビリによって、まひが残り車椅子を使うようになった方が、立って帰れるようになるわけではありません。でも、私は健康とは「病気がない」ということではないと思います。快適で愉快な時間を積み重ねていくことが大事で、病気や障害があっても、人は健康に暮らすことができると考えています。

 そのためには、「体の声」をしっかり聞く、ということが大切です。頭痛があるから、と頭痛薬をのめば、痛みは和らぐかもしれません。でも根本的な原因を取り除いてくれたわけではありません。「休んで。無理がたたっている」という体からの声だととらえてほしい。医療任せにせず、自分の最大の主治医は自分自身なんだと考えてほしいです。

 ご自身でできることをいくつか紹介します。

 たとえば「うつぶせ寝」は腹筋や背筋のトレーニングにもなり、咀嚼(そしゃく)や嚥下にいい影響があります。1日30秒~1分でいいのでやってみてください。

 仰向けの状態で頭を上げ、つま先のほうを見る。のど仏に力を入れ5~10カウント。これを2~3回繰り返すと、のど仏の周囲の筋力強化につながります。年とともにむせやすくなった方に、おすすめです。

 唇を「ウー」とすぼめ、「イー」と横に広げる。ほおを膨らます、すぼめる、舌を出して動かす――。「口ストレッチ」は口の機能を維持するのに役立ちます。歯磨きのついでに、鏡を見ながらやってみてください。

 「健康とは?」と聞かれたら、私は「感じること」と答えています。気持ちいい、さっぱりした、うれしい。こうした感性を積み重ねていくことが健康であり、幸せにつながっていくのではないでしょうか。

 検査値や薬ではなく、自分自身の感性、体の声を信じて日々を健康に過ごしていただきたいと思います。

    *

 うえだ・こういちろう 新潟大助教授などを経て現職。著書に「長生きは『唾液』で決まる!」など。

 ■パネルディスカッション 大きめ食材、ゆっくりかんで

 ――唾液の質はどうしたら高められるのでしょうか?

 槻木 唾液は、緊張すると交感神経が活性化されてネバネバになり、リラックスするとサラサラになります。サラサラが増えたほうが口の中は快適です。ストレスをできるだけ受けないようにするのは大切です。

 ――朝起きると口の中が渇くという悩みは多いです。

 植田 睡眠中は口やのどが動かず、唾液が出ません。起床時にはネバネバした唾液になり、口臭も強くなります。これは誰にも共通の生理的なものです。口を機能させることがどれだけ重要か、わかってもらえると思います。

 槻木 口の中の細菌はゼロにはできません。朝はとくに多くなります。細菌が増えれば口臭も出ます。朝起きた後に歯磨きなどでケアすれば、改善すると思います。気になる場合は、歯科を受診してください。

 ――入れ歯をしている人が注意することはありますか。

 槻木 よくかむことができれば、唾液が出てくる。歯がない場合、入れ歯はとても大切だと思います。

 植田 入れ歯は使いづらく、かえってかめないという人は無理はせず、なくてもおいしく食べられるならば、食材を工夫するなどしていただくやり方でもいいかと思います。

 ――誤嚥を防ぐにはゆっくりかむことが大切と聞きます。ゆっくりかむコツを教えてください。

 槻木 少し大きめに野菜などの食材を切って料理するとよいでしょう。小さく切ると、どうしても急いでのみ込んでしまいます。

 植田 「食べることに感謝してください」と伝えています。肉も魚も野菜もすべて命です。あっさりと食べたら失礼ですよね。そう考えると、自然とかむ回数も味わい方も変わってくるのではないでしょうか。

 ◆コーディネーター 科学医療部次長・辻外記子

 (19面に続く)

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