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 (19面から続く)

 ■いつもと違う選択、脳を刺激 中村敏子さん(関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科教授)

 介護や支援が必要になるきっかけには、どんな病気や状態があるのでしょうか。男性は脳血管疾患が一番多く、次に認知症、骨関節疾患と続きます。一方、女性は骨関節疾患、認知症、脳血管疾患の順です。

 これらの健康リスクに負けないためのひけつは、「身体機能を保つ」「脳の若さを保つ」「生活習慣病に備える」の三つです。今回は特に女性に向けてお話しします。

 女性ホルモンの量は年齢とともに劇的に変化します。特に更年期は、エストロゲンという女性ホルモンが少なくなります。これが関係して、動脈硬化症や、狭心症、脳の病気、糖尿病などになったり、骨の強度が弱まったりすることがあると考えられます。

 また、更年期は血圧が上がりやすいです。若い頃は男性の方が多い高血圧の人の割合も、60代以降は女性の方が多くなるというデータがあります。

 身体や脳の機能を保つためには、運動も大切です。体をよく動かしている人は、狭心症や糖尿病、高血圧、肥満、骨の病気やがんなどにかかる割合が低いという報告もあります。

 具体的には、歩行や水泳、ジョギング、サイクリングなどの少し汗ばむ程度の有酸素運動に加え、筋力トレーニングをするとよいです。苦手な方は、深い呼吸だけでも自律神経を整えられるとされます。

 肥満は是正していきましょう。腹八分目をめどに、ゆっくりかんでバランスのとれた食事を心がけ、たんぱく質も適度に取りましょう。骨関節疾患を予防するためには、牛乳や小魚でしっかりカルシウムを取ると良いでしょう。ビタミンDが多い魚や干しシイタケ、ビタミンKも大事です。一方、食塩や、ビールなどに入っているリンは大量の摂取を避けましょう。

 カフェインは少しならよいです。アルコールも過剰摂取はだめですが、皆が禁酒する必要はありません。たばこはぜひやめてもらいたいと思います。

 それから、脳を使ってください。決まった生活だと脳は同じ場所しか使わないので、できるだけいつもと違う選択を心がけましょう。初めての喫茶店に入ったり、新しいことに挑戦したり。パソコンやスマートフォンの操作など趣味を見つけるのもよいでしょう。

 頭で考えるだけでなく、筋肉を動かして表現することもおすすめです。日記や手紙、ダンスや歌などです。それから会話をする。相手の表情を見て、言葉を考えてしゃべるのはとてもよいことです。

 そして積極性を保ちましょう。家族の生活を支えたり、新しい友達をつくったりしてください。

 最後に三つの「動」を提案します。一つ目は「感動」。心を動かし、ワクワクドキドキしてください。そして「運動」、最後に「行動」です。様々なことに興味を持ち、美しい中年期、更年期、老年期を過ごしましょう。

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 なかむら・さとこ 高血圧や腎臓病の臨床医を経て、2017年から現職。病気と栄養の関係を研究する。

 ■動いてよく食べ、社会に参加 神出計さん(大阪大学医学系研究科保健学専攻教授)

 国民の4人に1人以上が高齢者、7人に1人ぐらいは75歳以上の後期高齢者です。今後ますます増えて、2050年ごろには高齢化率が40%、つまり2人に1人が高齢者という時代を迎える可能性があります。

 高齢化が進む中で国が取り組んでいることの一つが、健康寿命を延ばすこと。健康で長生きする人がどんどん増えていけば病院に行かず、介護も受けなくてよくなります。

 日本は介護を受けずに自立して生きる健康寿命も、平均寿命も長い。ただ、この間には約10年のギャップがあります。健康寿命を限りなく平均寿命に近づければ、医療保険も介護保険も保てるのではないかといわれています。

 要介護の原因は、大体3分の1は脳卒中、心疾患、糖尿病、呼吸器疾患、がんといった病気です。でももっと多い原因が認知症、高齢による衰弱、骨関節疾患といった老年症候群です。加齢によって起こってくる体の変化で、半分以上の割合を占めています。

 「フレイル」という、要介護状態と健康状態のちょうど間に入る概念があります。客観的な指標として、体重の減少や歩行速度、握力の低下があります。主観的な指標には「疲れやすい」や「最近あまり動かなくなった」があり、三つ以上あてはまればフレイルです。

 フレイルには健康な状態に戻れる可能性も、悪循環に陥る可能性もあります。だんだん動かなくなりエネルギーの消費が少なくなると、食べる量が減っていきます。そして低栄養になり、筋肉が弱るわけです。そこに骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や関節痛などの症状が出るとますます動かなくなって、要介護に近づいてしまいます。

 できるだけ動いて、あまりおなかはすいていなくても、しっかり食べることが大事です。さらに周りの方々とつながって、仕事をしたり、勉強会に出たりして、社会参加をする。運動、栄養、社会参加が健康長寿の3本柱です。

 私たちが調べている兵庫県の但馬地方では、100歳の方も肉を食べていて、日本海が近いのでお魚もいっぱい食べているんです。入れ歯をされている方がほとんどですが、かむ力も保たれています。好き嫌いがなく、野菜も好んで食べます。

 運動は歩くのがよく、フレイルを予防するためには筋力トレーニングもよいといわれています。但馬地方では、田畑で働いて体を動かしたり、自分の仕事をしたりすることで、社会参加や運動をしっかりされていました。

 あくまでも皆さんが主役です。しっかりと取り組むことで、日本人の健康寿命はますます延びていくと思います。2050年ごろに若い方と高齢者がほぼ1対1になり、不安だと思うかもしれませんが、高齢者の中に若者と変わらないぐらい元気な方がどんどん増えてくる。健康で自立した高齢者が支える側に回る。これで日本は安泰だと思っています。

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 かみで・けい 内科臨床医を経て、2013年から現職。健康寿命を延ばすため、高血圧や老化を研究する。

 ■パネルディスカッション 肥満は「ちょっと」気をつける

 ――健康寿命を延ばすポイントの運動、栄養、社会参加。一つに絞ることは難しいでしょうが、一番重要なものはどれでしょうか。

 神出 あえて言えば栄養だと思います。やっぱり最後、人間は食べられなくなったら亡くなります。だから、食べることが一番大事です。男性の方が外に出なくなるといわれますが、飲み会に行くのもよいでしょう。社会参加になります。

 ――サプリメントの効果や害はあるのでしょうか。

 中村 体に必要なものを集中的に含んだものなので、不足している場合には取ったらよいですが、取りすぎてはいけません。薬との兼ね合いで害になる場合もあります。心配であれば薬剤師さんに相談してください。

 ――肥満に関して、減量で適切な体重を保とうと言われる一方、ちょっと小太りなほうがよいというような話も耳にします。

 神出 私たちの研究では、70歳ぐらいの方は高血圧や糖尿病が認知機能の低下と関係しましたが、80歳になるとその関係はあまり出なくなりました。肥満にちょっと気をつけつつ、80歳を超えたら痩せないように注意をしてください。90歳ぐらいの患者さんに「先生、太っちゃいました。困りますね」と言われ、「いやいや、太っていいんですよ」とアドバイスすることもあります。

 ――体重は減っても、内臓脂肪は上がることがあります。どうしてでしょうか。

 中村 体重が落ちた理由によります。脂肪が減ったのであれば脂肪の割合は減るでしょう。しかし、筋肉が落ちたら、脂肪の割合が増えます。つまり、筋肉を動かしながらカロリー制限をすると、筋肉は増えて体重は落ち、一石二鳥です。特に歩くために使う足の筋肉は大事ですよ。

 ◆コーディネーター 編集委員・瀬川茂子

 

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