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 被害者が守られ、加害者が適切に処罰されるためにどうすべきか。議論を加速させる時だ。

 性犯罪の根絶にむけて、政府は関係する府省庁の会議を設けて対策に乗り出す。法務省では刑法改正の要否や内容についての検討が始まることになった。

 折しも今年に入って、性犯罪事件で一審の判断を覆して有罪とする高裁判決が相次ぐ。いずれも昨年春、地裁が被害者の意に反する性交だったと認めながら、結論において無罪としたものだ。衝撃を受けた人々が性暴力に抗議する「フラワーデモ」を始める契機になった。

 中でも注目されたのは、当時19歳の実の娘に対する準強制性交罪に問われた父親の事件だ。

 名古屋地裁岡崎支部は、過去にこの被害者が抵抗して性交を拒否できた例もあったことなどから、同罪の成立に必要な「著しく抵抗が困難な状態」ではなかったとした。これに対し名古屋高裁は、被害者の精神状態を鑑定した精神科医の尋問を経て、逆の結論を導いた。

 女性は判決後、自分のことを「まるで人形のようでした」とふり返っている。長期の性的虐待が何を生むか、改めて社会に知らしめる裁判となった。

 性暴力に直面すると、心身が硬直して抵抗できなくなる。それまでの日常や自分らしさを失いたくない気持ちが働き、とりわけ加害者が親しい人だと迎合的に見える振る舞いをしてしまう。そんな被害者の心理が近年広く知られるようになった。

 同意を裏づけるものとされてきた無抵抗などが、実は逆の事実を示す場合があることは、司法部内の研修などでも紹介されてはいる。だが十分に浸透していないことが、今回の裁判を通じて浮き彫りになった形だ。

 捜査や裁判に携わる者には、こうした知見のうえに立って個々の事案に向き合うことが、今まで以上に求められる。

 法制度自体が抱える問題も見過ごせない。性交を強いる犯罪は「暴行・脅迫」を用いたり、「心神喪失・抗拒不能」に乗じたりした場合に成立する。この要件をなくし、同意のない性交は全て処罰すべきだとの声は根強い。性犯罪を厳罰化した17年の改正の際も議論になったが、採り入れられなかった。

 撤廃すると、同意の有無をめぐって水掛け論になり、冤罪(えんざい)も生まれるとの指摘に、一定の理がないわけではない。だが世界の流れは見直しにある。意に反する性行為は「性的自由の侵害」であり許されないと、刑法で明確に示す意義は大きい。

 フラワーデモは、多くの被害者が長く沈黙を強いられてきたことをあらわにした。その声に社会が応えなければならない。

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