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 新型コロナウイルスの影響で、約50ブランドが今年秋冬の新作を発表する3月の東京コレクション(楽天ファッションウィーク東京)が中止になった。人を集めたショーを開けず、各ブランドはネットで動画を流すなど模索。海外でも中止が相次ぎ、服の発表方法が根本的に変わっていく可能性もある。ファッションショーとは何なのか。新型コロナ禍が、改めて問いかけた形だ。(神宮桃子)

 東コレに参加する予定だったブランドには、無観客で行ったショーを配信するだけでなく、物語仕立ての映像を作るなど新たな試みが見られた。

 リアルクローズとして定評のある若手ブランド、マラミュートは、インスタグラムで24時間限定の動画を公開した。モデルが目の前を歩く様子を撮影した機材は、スマートフォンだ。建物や木々など街の風景も差し込まれ、その服を着た生活をイメージさせるものになっていた。デザイナーの小高真理さんは「ショーの時に招待客がスマホで撮影している姿から思いついた。デジタルでマスに発信できる時代、色々なツールがある。消費者へのアプローチ方法の選択肢が増えた」と話す。

 東コレの常連ブランド、ミントデザインズは、モデルを乗せたバスが街を走る場面などを入れた映画風の動画を公開。今回が東コレ初参加予定だった新進ブランド、フォーサムワンは、無観客ショーの映像速度を変えるなど、編集で動画にメリハリをつけた。デザイナーの小川哲史さんは「(速度が速い、新たな通信方式の)5Gになると動画配信の時代になる。前向きにとらえれば、良いきっかけになった」と話した。

 一方、新型コロナの感染拡大以前にショーをやめ、映像を駆使して世界観を伝えているブランドも。日本の美意識に着目した服づくりを続けるまとふは、一昨年秋から、手仕事の現場を訪ねた映像を見せる。デザイナーの一人、堀畑裕之さんは「洋服が山ほどある中で、本当に価値のあるものを着たいという人は多い。モデルがきらびやかに歩く一瞬のイメージを消費するのではなく、背景にある価値観を消費者と共有することが大事」と言う。

 ■そもそも必要?自問 「じかに消費者へ配信」加速

 多くのブランドが年2回、新作を発表する。新型コロナの影響で6月のパリ・メンズや7月のオートクチュール(高級注文服)コレクションの中止が決まり、海外ブランドの発表方法が注目される。

 1990年代以降、ネット社会の進展で、ショーのあり方は長らく議論されてきた。そもそも、生でショーを見られるのはバイヤーや報道陣、顧客らに限られる。ファッションジャーナリストで跡見学園女子大学准教授の横井由利さんによると、約20年前、ショーの写真がネットで即配信され消費者に直接届くように。ブランドはSNSでの広がりを重視しインフルエンサーを多く呼ぶようになった。

 2008年のリーマン・ショックで景気が落ち込むと、1回15分ほどのショーに数千万円、億単位のお金をかけることに疑問も出た。パリ・コレの主催者が「パリ・コレのプレタポルテ(既製服)のショーは必要ない。消費者向けにネットで案内を流し、直接購買につなげればいいので、展示会で十分」と発言したこともあった。

 横井さんはこの数年、「大がかりなショーが縮小していくだろうと感じていた」と言う。一因は、ファッション界で大きなうねりになっている「サステイナビリティー(持続可能性)」への取り組みだ。

 各ブランドは再生素材を使ったり、ショーの演出で使った木を再利用したり、環境への配慮を打ち出す。飛行機で世界中からパリなどに人が集まることで、CO2を排出するという批判もある。「移動しなくても発表できる方法などを新しく考え始める時期に、新型コロナで拍車がかかったと思う」

 服を買い付ける立場にとってはどうか。長年買い付けをしてきたビームス創造研究所所長の南馬越(みなみまごえ)一義さんは「展示会でないと服の細かいところまではわからない」。ただ「服は単純に『もの』ではなく、今は文脈やストーリーが大事。新作の世界観を、デザイナーは臨場感あるショーで演出含め最大限説明していると思うので、リアルなショーが見たい」と言う。

 いまは「見せ方」以前に、ビジネスの先行きが見えない状況だ。「ブランド側は、百貨店やセレクトショップを通すのではなく、じかに消費者と結びつく方向に加速するかもしれない。ショーが有効なところもあれば、SNSなどで消費者とコミュニケーションをとるブランドもあるだろう」

 ショーやコレクションについて「既に揺らいでいたのが、新型コロナでもっと危うくなる」と説くのは、ファッション・ビューティーの専門サイト「WWDジャパン・ドットコム」編集長の村上要さんだ。WWDジャパンは17日、デジタル番組を配信し、発表の機会を失ったデザイナーの新作や思いなどを紹介する。

 生で見せないと服の細部や熱量は伝わらない、との声は根強い。ただ、村上さんは「電子機器は進化する一方。数年以内に、スマホの画面上に像が立体的に浮かび上がり、モデルが歩くように見えるのではと思っている。それにデジタルネイティブは、ユーチューバーなどデジタル上のことにも熱量を感じると思う」。

 以前からショーをライブ配信しているブランドも多いが、「デジタル=即時性と言われるけれど、今は編集されたものの価値が増している」と指摘。デジタルの発信も、そのまま流せばいいという局面からは変わってきているようだ。

 村上さんは「今回の中止を機に、コレクションに参加しショーを開くことに意味があるのか、と離れていくブランドもあるだろう。表現の幅が広がり、よりクリエーティブになっていくのでは」と話す。