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 国民生活に幅広い影響を及ぼす大きな政策転換である。人々の理解と協力を得て、新型コロナウイルスの感染拡大防止の実をあげることができるか、安倍首相はより重い説明責任と政治責任を負った。

 政府は東京、大阪など7都府県に限っていた緊急事態宣言の対象区域を一気に全国に拡大した。併せて、国民への現金給付を、所得が著しく減少した世帯に絞った30万円から、所得制限を設けず1人当たり一律10万円に見直した。

 ■自治体の判断支えよ

 いずれの決定も唐突であり、いったん閣議決定した予算案を国会提出前に修正するのも極めて異例だ。感染力の強いこの新しいウイルスへの対応に、世界各国が試行錯誤を重ねている。日本においても、状況に応じた大胆な方針変更はあっていい。ただし、その判断の理由は科学的根拠とともに、明確に示されねばならない。

 政府は宣言の対象区域に7都府県を選んだ際、感染者数が2倍になるまでにかかる時間など、三つの指標を示した。これに従えば、感染者があまりいない地域まで一律に加えるのは無理がある。生活や経済への影響を最小に抑えるという原則からみても疑問なしとはしない。

 片や、流行地域の都市部から地方に人が流れ、そこで感染が広まっている現実をみれば、大型連休を前に全国的に人の移動を極力抑えたいという狙い自体は理解できる。

 ただ、効果が得られるかは、自治体や地域住民の協力にかかっている。新たに対象となった地域の知事からは、好意的な受け止めの一方で、疑問や戸惑いの声も漏れる。

 休業要請をめぐって国と東京都の間で調整不足が露呈したが、今回も事前に丁寧な意思疎通が図られたとは言い難い。政府は地域の実情に応じた自治体の主体的な判断を後押しすべきで、一方的な押しつけはあってはならない。

 宣言の期間は全国一律で連休が終わる5月6日までとなっている。感染の状況が異なる地域を一括して指定したことで、その解除の判断はより難しくなったのではないか。専門家の知見を踏まえ、出口戦略を描くこともまた政治の責任である。

 ■現金給付は迅速に

 医療崩壊を防ぐ取り組みとともに急務なのが、日々の暮らしが立ちゆかなくなった人々に一刻も早く現金を届けることだ。

 厳しい条件を設けた1世帯30万円の給付案は、制度が複雑でわかりにくいうえ、全世帯の2割強しか対象とならない。一律1人10万円というシンプルな方式にすることで、素早く行き渡るのであれば、助けとなることは間違いない。

 ただ、予算案を作り直すため、国会への提出は1週間程度遅れる見通しだ。政府は支給手続きの簡素化に知恵を絞るとともに、高齢者や障害者ら、自分の力だけで申請が難しい人への配慮を欠かしてはならない。また、厳しい生活が長期化した場合、追加の支援に後ろ向きであってはならない。

 一律給付となると、高所得者やコロナ禍の影響を免れている人たちも10万円を手にすることができる。不公平感を解消するうえでも、今回の給付を所得税の課税対象とし、年末調整や確定申告で一部を取り戻すことも検討してほしい。

 宣言の全国拡大で、財政力の弱い地方の自治体も、独自の休業支援を検討することになろう。その財源として見込まれる自治体への臨時交付金は、1兆円が補正予算案に計上されたが、前提が大きく変わった。足りなくなるのは目に見えており、積み増しが不可欠だ。

 ■政治的な思惑抜きで

 安倍政権のこれまでの対応には、野党などから「後手後手」「対策が小出し」などの批判がある。国民の自由や権利を制約する措置を伴うだけに、政府が慎重に判断するのは当然だが、中国の習近平(シーチンピン)国家主席の訪日や東京五輪・パラリンピックなどへの政治的配慮が影響したのではないかという見方も根強い。

 首相はきのうの記者会見で、宣言の全国への拡大に伴い、すべての国民に協力をお願いすることになったので、1人10万円の支給に転換したと説明した。しかし、政界では、公明党などの突き上げで1人10万円をのまざるを得なくなったので、その根拠として、後づけで宣言を全国に拡大したのではないかとささやかれてもいる。

 政治指導者が、とりわけ国民のいのちや生活がかかった場面で、自らの政治的な思惑にとらわれた判断を下すようなことはあってはなるまい。

 首相はきのうの会見で、現金給付をめぐる混乱について「私自身の責任だ。国民に心からおわびする」と語った。真に反省し、今回の危機を乗り越える政治の重い責任を自覚するのであれば、首相はここでたがを締め直し、国民のいのちと生活を守るために、政府をあげて全力を傾注しなければならない。

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