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 地域政党「大阪維新の会」は19日、設立10年の節目を迎える。自民党から分裂して生まれ、大阪政界を席巻。新しい世代の議員も加わり、地域に根ざした政党として定着しつつある。一方、2025年の実現をめざす大阪都構想以降のビジョンは不透明で、地域政党を母体とする国政政党「日本維新の会」は広がりを欠いている。(笹川翔平、吉川喬、新田哲史、坂本純也)

 「いよいよ2度目だね。もう1回住民投票をやるなんてすごいね」

 東京都心の高層ホテル最上階のレストラン。首相の安倍晋三は昨年12月27日夜、大阪維新の会創設者の橋下徹、大阪市長の松井一郎をこう言って持ち上げた。官房長官の菅義偉を含めた年末恒例の4人の会食は、2時間半に及んだ。

 4人の縁は橋下が大阪府知事選に立候補した2008年にさかのぼる。当時、自民党府議だった松井は府議団政調会長として橋下の当選に奔走。党選挙対策副委員長だった菅が力を貸し、橋下知事誕生を支えた。

 民間活力を重視する成長戦略を好む4人は波長があう。それでも連立に踏み込むわけではない。松井は安倍や菅に繰り返してきた。「僕らが(内閣の)外から協力したほうがいいでしょう」

 ■持ちつ持たれつ

 安倍政権にとっては、ほとんどの野党が反発する法案でも、与党ではない維新が賛成すれば国会運営の「強硬色」を薄めることができる。維新にとっては、大阪では「反自民」の立場で既得権益批判を展開しつつ、各地域で自民が売りにする「政権との太いパイプ」を訴えることができる。

 持ちつ持たれつの両者は協力し合って大阪での主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)開催などを実現してきた。国政ではカジノを含む統合型リゾート(IR)関連法の成立に維新が協力。首相が悲願とする憲法改正をめぐっても、維新は衆参の憲法審査会での議論を行うことに前向きな姿勢を示す。

 維新は元々、自民から派生して始まった。09年4月、府議だった松井が自民会派を割って自民党所属のまま新しい府議会会派「自民党・維新の会」を立ち上げた。知事になった橋下が「大阪ワールドトレードセンタービルディング」(WTC)への府庁移転を打ち上げ、これを実現させるためだった。

 わずか6人の会派だったが、これを核として10年4月19日、橋下を代表に地域政党「大阪維新の会」を設立。元自民議員を中心に府議会では24人が集まり、第2会派となった。大阪市議と堺市議も加わり、計30人の議員での船出だった。翌11年の府議選で維新は過半数、大阪市議会では第1会派に躍り出た。

 「反対なら選挙で僕のクビを取ればいい」「独裁と言われるぐらいの力が今の日本の政治に求められている」「大阪は行政の仕組みが間違っている。大阪丸という船を造り直さなくてはいけない」――。歯切れ良く訴え続ける橋下に注目が集まり、みんなの党とともに「第三極ブーム」に乗って12年には国政にも進出する勢いを得た。

 ■選挙スタイルも

 ところが、大阪都構想の是非を問う15年の住民投票でつまずいた。1万741票差の僅差(きんさ)ながらも否決に終わり、橋下は政界引退を表明した。橋下はコメンテーターとして維新を側面支援し続けるが、政界から去ったことで、維新の「自民回帰」が進んだ。

 その象徴の一つは選挙手法だ。橋下が代表だったころは、代表の演説で「浮動票」を狙ってきたが、今は「どぶ板」が基礎となる。当選5回の府議、岩木均は党内で「選挙の職人」との異名を取る。自民の府議や衆院議員秘書を経て、03年に初当選。人口約19万人の大阪市平野区を5ブロック8支部に分け、勉強会やプロ野球観戦など年間約50日を支部やサークルとの会合に充てる。休日に各種団体や地域の集会を8件掛け持ちすることも。休日は年に1週間もない。

 その成果が如実に表れるのが年末に2回開く「年忘れ会」だ。昨年も地方議員としては破格の計800人を集めた。この規模に維新市議も「年会費をもらうより、1票入れてもらうより、足を運んでもらうことが一番ハードルが高い」と驚く。

 岩木ら維新創設メンバーの多くは自民を飛び出したとき、一つの選挙区で同じ党の候補者が争った中選挙区時代の選挙スタイルを体にたたき込んでいた。それを党内に浸透させ、維新に選挙の強さをもたらしている。

 昨年の統一地方選で、府議会では橋下時代の11年以来となる単独過半数を得た。市議会では、11年の33議席を大幅に上回る過去最多の40議席を獲得。単独過半数まであと2議席に迫った。維新幹部はこう言い切る。

 「自民から生まれた維新は、選挙スタイルも自民から受け継いだ。本質的には俺たちこそが自民なんだ」

 ■政策に強み、「第2世代」台頭

 自民党にルーツのある議員だけでなく、「第2世代」の台頭も進む。「2時間経過するくらいから頭が真っ白。ほかのメンバーも言うてますが法定協はほんとにくたくたになります」

 こんな書き出しで昨年11月に自身のブログを更新したのは、維新府議の横山英幸だ。大阪都構想の案を作る府と市の法定協議会が開かれるたびに、議論の経過を資料を添えて自身のブログで詳細に解説。この日は府と特別区の事務分担や財源配分などの議論を記し、「書き出したらきりがねえ。もうそろそろ一冊本でも書ける」と結んだ。

 ブログを自身のツイッターで紹介すると、松井は「横山君、ご苦労様、しかし、疲れるのはまだまだ早過ぎです」とリツイートした。前回の住民投票時は橋下とともに論戦の最前線にいたが、今回は多くの部分を若手に委ねている。

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 <ベストミックス> 横山は当選3回の38歳。維新が党として初めて経験した11年の統一地方選以降に当選した「第2世代」の代表格だ。法定協でも都構想に反対する自民や共産などの指摘に反論してきた。若手世代は政策論争の先頭に立つだけでなく、子育て世代への支援を重視。投票率が低くなりがちな世代からの支持は、選挙で大きなプラスとなる。

 大阪市住之江区に住む40代のパート女性は「維新は子育て世代に手厚い」と話す。小学校3年の長女が中学生になったら、『教育バウチャー』制度を利用したいと考えている。

 女性はもともと「無党派層」を自認していたが、今は維新支持を鮮明にする。自民支持だった会社員の夫も、維新支持に転じた。夫婦は口をそろえる。「維新は未来に手厚く投資する。子どもの将来のためにも、これからも支持する」

 維新幹部は「選挙にたけた自民出身の第1世代と、政策に強い第2世代。今の維新はこのベストミックスだから強い」という。支持の広がりは、子育て世代に限らない。

 今年2月、松井や橋下、大阪府知事の吉村洋文らが、こぞってツイッターに引用した画像がある。淀川河川敷から撮影した大阪・梅田の高層ビル群の夜景だ。04年と19年を比較した。グランフロントや林立するタワーマンションで、街の灯はまばゆさを増している。

 橋下は「松井・吉村体制の大阪維新の会がエンジン全開。さらに発展する」と書き込んだ。維新の歩んできた10年は、停滞していた大阪経済が復調してきた時期と重なる。自民党府連関係者は不満を漏らす。

 「経済は8割以上、国がやることの影響。維新が成果とするインバウンドの増加も、関空の2本目の滑走路整備にビザの発給要件の緩和など、要因はすべて国がやったことだ。維新はいかにも自分たちがやったからよくなったという風にみせる」

 ■都構想・万博・IR… 2025年以降、見えぬビジョン

 新年早々、会場の空気は凍り付いた。

 「我々の存在意義をないがしろにする人は、すぐ辞めていただきます」。年が明けてまもない今年1月6日。大阪維新の会所属の地方議員を集めた会合で、松井は突き放した。府議による政治資金収支報告書の未提出が発覚したためだ。

 20年は維新が最重視する大阪都構想の住民投票を控える。松井は昨年末、府議団との会合で「この1年は不祥事に注意しろ。やらかしたら排除だ」と引き締めたばかりだったが、不祥事の多さは目立つ。

 国政では昨年、衆院議員の丸山穂高が北方領土をめぐって「戦争で取り返すしかない」と発言。衆院議員の西村真悟は13年に「韓国人の売春婦はまだうようよいる」と発言し、15年には衆院議員の上西小百合が本会議を欠席して旅行していたと報じられ、激しい批判を浴びた。

 なぜ、不祥事を繰り返すのか。自民党だと派閥が新しい候補者選びや人材育成を担うが、維新内には、そうした機能は整備されていない。むしろ、選挙のたびに多くの候補者をそろえることを重視してきた。候補者選定に関わる維新関係者は言う。「数は力。候補者の質だけを重視していたら、いつまでも小さい政党のままだ」

 松井の次を担うリーダー育成も重要課題だ。松井は、周囲に「早く引退したい」と繰り返している。この10年、維新を率い続けた疲れだという。後継として念頭に置くのは大阪維新の会代表代行の吉村だ。新型コロナウイルスへの対応をめぐっては、事前に2人ですりあわせたうえで、メディアに露出して連日のように情報を発信するのは吉村だ。松井はあえてそう役割分担して「次」を見据えているが、順調にバトンタッチできるか見通せているわけではない。

 維新が推進する都構想や大阪・関西万博、カジノを含む統合型リゾート(IR)といった看板政策は、いずれも2025年の実現が目標だ。コロナの影響でIRは遅れそうだが、その後に掲げる看板は見えてこない。維新は「都構想という目標、大義があるから、まとまれる」(府議の一人)体質を持つなか、住民投票が終われば、その結果に関係なく党の推進力を失うとみる関係者は多い。

 全国的な広がりを欠くのも大きな課題だ。衆院の小選挙区で議席を獲得しているのは大阪のみ。昨年の参院選も地元以外では茨城、埼玉、東京、愛知の各選挙区で新顔候補を立てたが、当選は東京の1人にとどまった。次の10年の行く末は見通せない。(いずれも敬称略)

 ■「お上を嫌う」市民の気質と合致 内田樹さん

 ――なぜ大阪で維新の支持が続くのでしょうか。

 大阪人は「リバタリアン」(自由至上主義者)気質が濃厚のように見えます。武士の街ではなく町人の街で、船場の経済力で大都市になった。「自分のことは自分で始末するから、お上は口を出さないで」という考え方が伝統的に根付いている。

 だから当然「小さい政府」主義になります。「公務員削減」には賛成する。大学や病院や図書館や美術館も「税金の無駄遣いだ」と言われると、つい賛成してしまう。

 維新が熱心にやってきたのは、この「公共財の取り崩し」「公共財の民間への付け替え」だったと思います。資本主義的には「公共財は私有化する方が生産性が上がり、利益が出る」というのは永遠の真理です。

 大阪の有権者たちもおそらく資本主義を信じているんでしょう。実際には10人でやっていた仕事を1人でやったら、生産性は上がるし人件費も削減できるけれど、9人は失業するわけです。それが「生産性が上がる」ということです。でも、「お上が嫌い」ということが、「公共なんか要らない」という新自由主義イデオロギーと妙に相性がよく、維新的なものが好感されている……。そういうことじゃないかと思います。

 ――大阪の有権者が東京の政権党と異なる「大阪の政党」を求めたのではありませんか。

 大阪的リバタリアニズムには「反公共」「反東京」「反権力」「反良識」、いろんな「反」がくっつきやすいんです。

 ――維新の次の10年は。

 このパンデミックで世界的な経済の停滞が予測される時期に、万博やIRのような「祝祭的イベント」で経済浮揚効果を狙うのはまったく不適切です。お祭り騒ぎの余力があるなら、コロナ禍で痛めつけられた住民のための医療、福祉、教育など公共的なセクターに優先的に予算を配分すべきだと思います。方向を百八十度転換しなければならない。頭の中身を入れ替えることができるかどうか。僕は難しいだろうと思います。(メールでインタビューしました)

    ◇

 うちだ・たつる 思想家(フランス現代思想)、武道家、神戸女学院大学名誉教授。2010年から平松邦夫・大阪市長の市長特別顧問を務め、11年市長選でも橋下徹氏に敗れた平松氏を支援した。著書に「日本の反知性主義」「街場の共同体論」など。69歳。

 <訂正して、おわびします>

 ▼19日付5面「維新10年」の記事で、40代のパート女性の「小学校2年の長女は、維新が全国で初めてつくった塾代を助成する『教育バウチャー』制度を利用して英語の通信教育を受けている。市が毎月1万円分を負担する」とあるのは「小学校3年の長女が中学生になったら、『教育バウチャー』制度を利用したいと考えている」の誤りでした。「教育バウチャー」制度は中学生が対象です。思い込みと確認不足でした。

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