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 新型コロナの治療薬としていくつかの薬が候補に挙がり、試験や研究が進められている。

 その一つで米国が重症者向けに緊急使用を許可したレムデシビルを、厚生労働省はスピード承認した。国内の審査を簡略化できる制度を使った異例の措置だ。当然ながら副作用の懸念もあり、投与した患者全員の追跡調査をして、慎重に効能を検証することが求められる。

 治療薬の早期開発に期待を寄せる声は多い。関係者は最善の努力を尽くして、これに応えてもらいたい。しかし、だからといって有効性や安全性を確かめる手続きをないがしろにするわけにはいかない。

 いま現場の医師が注目しているのは、国内のメーカーが開発し、新型インフルエンザ用に承認されているアビガンだ。新型コロナの治療薬としての承認をめざした治験が進んでいるが、それと並行して、多くの医療機関が参加する医学研究(臨床研究)も行われ、実際に患者に服薬してもらっている。

 安倍首相は4日の会見で「3千例近い投与が行われ、効果があるという報告も受けている」と述べ、月内の承認をめざす考えを示した。6日放映のネット番組では対談した京大の山中伸弥教授から、さらなる前倒しに向けて「首相の鶴のひと声」を求められる場面もあった。

 だが前のめりになりすぎるのは禁物だ。多くの患者はアビガンを使わずに回復している。アビガンを使って良くなった症例をいくら集めても、薬の効果を見極めるのは難しい。期待先行で評価するようなことがあってはならず、また、動物実験で重い副作用が報告されていることにも留意する必要がある。

 思い起こすのは、02年に世界に先駆けて日本で承認された抗がん剤のイレッサだ。「副作用の少ない夢の新薬」ともてはやされたが、販売直後からその副作用が原因とみられる死亡例が相次いだ。どんなタイプの患者に効果があるかなどの情報が不十分なまま、広く使われたことが深刻な被害を生んだ。

 首相が、病院の倫理委員会の承認が条件としつつ「希望すれば誰でも服用できる」と繰り返しているのも、混乱を招く恐れがある。全ての病院で処方できるわけではないし、対象から外れた患者が発言を頼りに投与を希望したら、その対応で現場の負担はさらに増えかねない。

 政府は40カ国以上にアビガンを無償提供すると表明した。国内患者の健康に関わるだけでなく国際協力にもつながる薬だからこそ、手順を踏んで遺漏のないようにしたい。薬害の歴史を忘れることなく、コロナ禍に適切に対処しなければならない。

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