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 無職で独身の子が、同居する高齢の親に生活費を頼るうち、社会から孤立してしまう。80代の親が50代の子を養う様子をたとえて「8050(ハチマルゴーマル)問題」と呼ばれる状況に陥る恐れがある家庭は、朝日新聞などの試算で約57万世帯(2013年)と推計されている。30年近くひきこもり状態の息子がいる母親も、その一人。生活困窮の中で、息子への接し方を考える余裕がなかったことを悔い、先行きを案じている。

 家賃4万円のアパート。高知市の山本美香さん(75)は1990年代、保険会社の外交員と、料亭の仲居の仕事を掛け持ちして家族を養った。離婚したのは長男(46)が3歳の時。3歳上の姉もいた。朝から深夜まで働き、「明日も食べていかないと」という思いで頭がいっぱいだった。

 長男は小、中学校でいじめにあった。友達に駄菓子を万引きするように命じられたことも。中学卒業後に進んだ専修学校になじめず中退。板金塗装の学校に入って「事件」が起きた。

 祖父に買ってもらったバイクで初めて通学した日。バイクが傷だらけにされ、動かなくなっていた。「もう行かない」。翌日から自室にひきこもるようになった。

 ふすまを閉めて昼夜逆転の生活を送り、風呂にも入らなかった。外に出そうと何度もつかみ合いになったが、変わらない。「小さい時に、あんたが抱きしめてやらんかったからだ」。相談した友人の言葉が、胸に刺さった。

 長男が40歳のころ、山本さんは、子がひきこもっている親たちによる家族会に参加。当事者が集う「居場所」に連れて行ったが、続かなかった。その後、精神科の病院につながった長男は、診察室から出てきて安心した様子で言った。「僕のことを『よう頑張ったね』と先生は言ってくれた」。それ以来、月に2回の通院を続けている。

 山本さんは病院に通うようになった長男に謝った。「これまで学校に行けとか仕事をしろとかたくさん言ってすまんかったね」。接し方が変わったことで、少しずつ親子関係が改善していったと感じている。「いま思うと、もっと早く精神科や行政の窓口に相談するべきだった。仕事ばかりで息子のことを考える余裕がなかった」

 山本さんはいま、96歳の母親の介護をしながらアパートに住み、長男は同じアパートの別の部屋で暮らす。生活は楽ではないが、長男には「ひきこもり経験者の居場所に行けるようになり、1人でも友人を作って楽しく人生を送ってほしい」と願っている。

 取材の際、山本さんの呼びかけに応じた長男が、ふすまの奥から出てきてくれた。

 パジャマ姿。奥からテレビの音が漏れている。山本さんが席を外してから少しずつ話した。「これまで世話をしてくれて感謝の気持ちはあります。母親も年をとって、いなくなったら食事面が心配。自分が病気になっても、どうしたらいいのかわからない」

 ■困窮・介護・障害など混在

 8050問題を抱える家庭について、愛知教育大の川北稔准教授は「ひきこもりのほか、生活困窮や介護、障害など、複数の問題が時間の経過とともに積み上がっている家庭が多い。ひきこもり支援という視点だけで解決をめざすのは難しい」と指摘する。

 多くの自治体には、暮らしに困った人の自立支援のために「生活困窮者自立支援制度」の窓口がある。生活全般の困窮についての相談を受けるうちに、「実は息子がひきこもっている」と親が吐露することもあるという。

 川北准教授らは2017年度、全国約900の自治体に置かれた窓口から、215カ所を抽出して調査。回答があった151の窓口の約9割でひきこもりの問題に対応した経験があった。当事者の年代別では40代が最多だった。

 複数の問題を持つ家族の支援につなげようと、厚生労働省の有識者会議は昨年末、「介護」「障害」「子ども」「困窮」の4分野を一体的に運用する新たな相談支援制度の必要性を提言。これを受けて社会福祉法などの改正案が今国会に提出されている。(北上田剛)

 ◆キーワード

 <「8050問題」リスク家庭の試算> 国民生活基礎調査の匿名データを、朝日新聞と佛教大(3月末まで立命館大)の山本耕平教授が分析。無職で独身の40~50代の子と60代以上の親が同居し、生活費を親が負担している家庭が、2013年時点で推計約57万世帯あると試算した。1995年の約3倍で、子が40代の家庭は50代の家庭の約2倍だった。長期不況や労働環境の悪化、未婚率の上昇、格差の広がりなど、複合的な要因が指摘されている。

 ◇「8050問題」に向き合う家族を、8回にわたって紹介します。デジタル版に詳報も(http://t.asahi.com/wg2i別ウインドウで開きます)。

 ご意見、情報をお寄せ下さい。メールは(tokuhoubu@asahi.comメールする)。

 <訂正して、おわびします>

 ▼13日付生活面「#ひきこもりのリアル『8050』リスク(1)」の記事で、「川北准教授らは2017年度、全国約900の自治体に置かれた窓口から、215カ所を抽出して調査」としましたが、調査はKHJ全国ひきこもり家族会連合会が実施し、川北准教授が委嘱を受けて分析などを担当したものでした。表現が不正確でした。

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