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 検察庁法改正案が抱える問題は「先送り」では解消しない。廃案にして政府部内で一から議論をやり直すべきだ。

 「役職定年」の年齢になっても政府の判断で検察幹部を留任させられるようにする同法案について、安倍首相は今国会での成立を断念した。

 多くの市民が法案の内容を理解し、SNSなどを通じて異議を表明したことが、これまで強権的な手法で政策を推し進めてきた「1強」政権にストップをかけた。その意義は大きい。

 しかし政権はあきらめていない。撤回するのではなく、一般の国家公務員の定年を延長する他の法案とともに継続審議にするという。いまは分が悪いと見て、世論が落ち着くのを待ち、秋以降の次期国会で一括成立させようという意図は明らかだ。

 そもそも武田良太・国家公務員制度担当相は、審議を急ぐ理由として、公務員の定年引き上げには自治体の準備期間が必要だからだと説明していた。ならば検察庁法だけ切り離し、それ以外について成立をめざすのが筋ではないか。国民の代表である議員に対し、いい加減な答弁をしていたと言うほかない。

 法務省がまとめ、昨秋に内閣法制局の審査もほぼ終わっていた当初案には、検察官の定年の段階的引き上げと役職定年制の導入だけがあり、留任の特例は盛り込まれていなかった。

 ベテランの経験や知識を活用するのが法改正の目的であるなら、この案をそのまま提出すれば済むことだ。ところが今年1月末の東京高検検事長の定年延長の閣議決定直前になって、見直し作業が進んだ。

 その経緯はいまも不明なままだ。首相は「国民の理解なくして前に進めていくことはできない」と記者団に述べた。本当にそう思うのなら、客観的な文書や作成日時などがわかる電子記録を示し、昨秋以降の検討の経緯をつまびらかにすることから始めなければならない。

 当然、1月末の閣議決定も撤回する必要がある。検察官の定年は延長できないという、40年近く堅持されてきた政府見解を一方的に変更して強行した人事だ。法の支配を踏みにじる行為を放置するわけにはいかない。

 今回の問題は政権の病を映し出す。政府がとった措置の正当性を裏づけるものだとして人事院が提出した文書には、日付が書かれていない。一宮なほみ総裁はそれでも問題はないと言い張る。森雅子法相は、法の解釈変更に関わる重要な決定を「口頭で決裁した」と答弁して、恬(てん)として恥じない。

 記録を軽んじ、検証を嫌い、説明責任を果たさない政治と、今度こそ決別せねばならない。

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