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 心に感情が芽生え、言葉が出てくる。そうではなく言葉を得たから、感情が育まれることもある。植物の果実の愛らしさを強く感じるようになったのは、室生犀星の一句に出会ってからだ。〈青梅の臀(しり)うつくしくそろひけり〉▼青い梅の実のつるんとしたところが、まるで赤ん坊のおしりのよう。作家に教わったそんな感覚を、梅の木に通りかかったとき、スーパーで見かけたときに思い起こす。そろそろ梅酒づくりを、と考える季節になった▼家庭菜園というのもはばかられる小さな一角に、トマトが青くかわいい実をつけた。赤く熟す日が待ち遠しい。あの鮮やかな色は、トマトにとっては紫外線対策なのだと、田中修著『植物はすごい 七不思議篇』で学んだ▼紫外線は活性酸素を生み、植物の体にも悪さをする。活性酸素を消すため、皮や果肉にリコピンとカロテンという色素を作ることが彩りをもたらすのだという。あの健康的な赤は、強い太陽の日差しとたたかっている証しなのか。そう思うと、いじらしくなる▼トマトはその栄養価の高さから、欧州ではリンゴに例えられる。英仏では「愛のリンゴ」と呼ばれ、国によっては「黄金のリンゴ」「天国のリンゴ」といった名もあるらしい。愛、黄金、天国、そんな名前をつけたくなる果実は他にもありそうだ▼もちろんそれは食卓に並ぶものに限らない。歩いていて、樹木や野草がつけた赤い実、青い実に目が留まることがある。そして長いこと、立ち止まることがある。

 <訂正して、おわびします>

 ▼7日付1面の天声人語で、「活性酵素」「そんな酵素」とあるのは、いずれも「活性酸素」の誤りでした。著書「植物はすごい 七不思議篇」を引用する際に、写し間違えました。

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