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 条文案の修正ではすまない。全面削除するとともに、放置されたままの課題や疑問に決着をつけ、混迷を招いた責任の所在を明らかにする必要がある。

 検察庁法改正案が廃案になった。役職定年になる検察幹部を政府の判断で留任させられるようにする規定を新設しようとして、批判を浴びたものだ。

 ところが政府は今後の方針を明言しない。公務員全般の定年を引き上げる法案を次の国会に提出し直す意向だが、その際、問題の特例規定を一部改めたうえで盛り込もうとする動きもあるという。そんなことをすれば反対の世論に再び火をつけるだけだ。政府は導入の断念をすみやかに表明すべきだ。

 一連の経緯は、法の支配を理解せず、国会を軽んずる安倍政権の体質を浮き彫りにした。

 発端は黒川弘務前東京高検検事長の定年を延長した1月の閣議決定だ。検察官は63歳で退官と定める検察庁法に明らかに反する。さらに「国家公務員法にある延長規定は検察官には適用されない」という従来の政府見解と矛盾すると指摘されると、首相は2月になって、法解釈を変更したと言い出した。

 法治国家とは思えぬ暴挙だ。だが閣議決定は今も取り消されておらず、このままでは第2、第3の定年延長が行われる可能性が残る。恣意(しい)的な幹部人事を通して政治が検察活動に介入する余地をなくすために、閣議決定と解釈の変更をともに撤回することが不可欠だ。それ抜きに今回の混乱は収まらないし、将来にも大きな禍根を残す。

 置き去りにされている問題は他にもいくつもある。

 例えば、定年延長をめぐる法解釈を変えたのなら、なぜそのとき公表しなかったのか。問われた政府は「国民生活への影響がないから」と回答した。政治と検察の間で保たれてきた緊張関係を揺るがす重要な変更なのに、一線を踏み越えたことへの謝罪も、説明をないがしろにしたことへの反省も一切ない。

 迷走答弁で閣僚の資質の欠如がはっきりした森雅子法相の責任も宙に浮いたままだ。

 昨秋時点では検討されていなかった特例規定が、なぜ突然、法案に入ったのか。法相は2月末に「経緯を明らかにする文書を作成する」と国会で約束したが、いまだに果たしていない。国民の代表を愚弄(ぐろう)するのもほどがある。その大臣の下で、定年延長の閣議決定から法案作成、国会対応の実務を担い、検察への信頼を傷つける行いを自ら重ねてきた法務省幹部にも、厳しい目が注がれて当然だ。

 国会閉会でリセット、というわけにはいかない。国の統治のあり方の根幹が問われている。

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