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 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界各地で携帯電話のアプリなどを使って政府が感染者の動きを把握したり、感染者と接触した人に通知を送ったりするしくみが広がっています。安心・安全のためとはいえ、情報がどう使われるのか、不安に感じる人もいるかもしれません。みなさんにとって「監視」と「見守り」の境目はどこにありますか?

 ■個人情報、転用に不安/丸裸でも困らない/田舎では敏感

 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 ●正しく活用すれば便利に

 インターネットの閲覧履歴やチャット履歴、IPアドレスといった、個人の生活や思想を探る上で関係してくる情報は、適切に管理された状態で明示された目的のみで使用されない限り、大いに不安を感じます。一方で、マイナンバー制度のように正しく活用されれば生活がより便利になるものもあるので、医療や安全といった個人でどうしようもない分野での活用は非常に重要だと思います。安心して個人情報を預けられる国に日本が早く変貌(へんぼう)することを願っています。(東京都・20代男性)

 ●公開するか選択の自由がカギ

 かつて、セキュリティー部門で仕事をしていました。情報は100%漏洩(ろうえい)しない、はあり得ません。個人の自由で個人情報の受け渡しの取捨選択ができることに、鍵があると考えます。(香川県・40代女性)

 ●個人情報は取られる前提で

 この情報化社会において、すでに多くの個人情報は知らないうちに取られています。スマホを使って、個人情報うんぬんを言うことからして、おかしいです。google、amazonに個人情報の90%はすでににぎられています。もういまさら知られて困るようなことは、なにもないし、裸で対峙(たいじ)したほうがいい。(神奈川県・70代男性)

 ●プライバシー出たら村八分

 田舎住みなので少しでもプライバシーが出るだけで村八分以上なことになり住めなくなる。年齢、性別ぐらいだとわからないから良いとは思う。昔よりネットが普及しており使い方を誤ると大変なことになりかねない。(山口県・30代女性)

 ●政府には納税・戸籍情報で十分

 マーケティングの一環で様々な企業から宛名に自分の名前が入ったメールが届くだけで、あまり良い気分がしないので、政府にも企業にも基本的に個人情報を渡したいとは思っていません。特に国には納税や戸籍などの必要最低限で十分なはずだと思います。(東京都・30代女性)

 ●感染通知アプリは安易

 氏名、住所などの個人の属性よりも、ネット検索、移動、購買履歴などの行動履歴が収集されることが不安です。新型コロナウイルス陽性判定者と接触した可能性があると、通知が届くスマホアプリに、感染を防ぐ効果があるとは思えません。このようなアプリは、費用が医療政策に比べてはるかに安く、開発も容易であるので、本来とるべき対策の安易な代替手段として導入されるという問題があります。(兵庫県・40代男性)

 ■監視と見守りは裏表 ジャーナリスト・小笠原みどりさん

 新型コロナウイルス対策で多くの政府が異次元の状況把握に着手しました。韓国では個人の携帯電話の位置情報を政府が入手し、匿名とはいえ感染者の年代や性別、いつ、どこに、誰といたかといったデータを公開しています。中国では位置情報からアプリが個人の感染を予測し、外出が禁止される場合があります。

 政府が個人の位置情報を追跡するには通常、刑事司法手続きによって裁判所の令状が必要ですが、コロナ対策では法的手続きなしに繊細な個人情報を政府と関連企業が入手する傾向にあります。日本が導入した接触確認アプリは技術として確立されておらず、感染防止効果も未知数なうえ、情報が将来どう使われるかは分かりません。

 監視は両義的なものです。「見守り」のコインの反対側には「監視」の側面があることを認識する必要があります。例えば「見守り」のため、子どもの居場所を把握するのと同じ技術が、政府が感染者を、会社が従業員を、警察があなたを監視するのにも使えます。まずは問題の原因を見極め、技術が目的にかなっているか、必要か、悪影響はないかを考えるべきでしょう。(聞き手・鈴木暁子)

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 おがさわら・みどり ジャーナリスト、社会学者。オタワ大学特別研究員。GLOBE+で「データと監視と私」連載中。

 ■正義あるか、問い続けて デイヴィッド・ライアン、クイーンズ大学教授

 私はよく水泳に行きますが、監視員が高い場所に座り、水中での私の様子を見張ってくれていることをありがたく思っています。子どもが車道に飛び出さないよう見張る親御さんは、時には「行くな」と止めることもある。それは問題でしょうか?

 友人はアルツハイマーで亡くなる前、居場所を家族が検知できる装置を腕につけていました。家族の愛情にもとづく監視でした。私はすべての監視が悪いとは思いません。

 英語の監視(surveillance)の語源は仏語で、watch over(日本語の見張りや見守り)と同じ意味です。でも、常に問い続ける必要があります。この監視は状況に適しているか。他のやり方はないか。やり過ぎていないかと。私は人の正義に反する不均衡な監視には反対です。

 新型コロナウイルスが広がる中、「技術はどんな答えも持っている」と信じ込む風潮は危険です。どんな感染症対策が必要か検討し、私たちに伝えるのは、まず公衆衛生を担う機関や疫学の専門家であるべきです。技術者が言う「世界を救うアプリ」は、その次の話です。ウイルスの脅威が消えてもシステムはなくならず、違う目的で情報が集められることもあり得ます。システムがどんなアルゴリズムで動き、問題が起きた時に私たちにどんな防衛手段があるのか。家族と話し合う必要があると思います。

 2001年に米国で起きた同時多発テロも同じでした。飛行機に乗る際、以前はなかった監視が今は当然のことになった。テロとは無関係の、特定の人種の人らが搭乗を拒否され、余計な尋問を受けることになった。「解決策」は機能せず、過剰な監視が別の長期的な影響を及ぼす。民主主義社会の市民が、この問題にもっと強く声を上げるべきだと思います。(聞き手・鈴木暁子)

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 社会学者。カナダ・クイーンズ大学社会学部教授。著書に「監視社会」など。

 ■接触確認アプリ、日本は本人判断重視

 厚生労働省は新型コロナウイルスの感染者との接触を通知するスマートフォンのアプリ(愛称「COCOA」)の提供を6月に始めました。日本版の特徴は「中央集中型」ではなく「分散型」であることです。

 海外で先行したアプリの中には、誰が誰と、いつ、どこで接触したかといった個人データを政府が収集するタイプがあります。この「中央集中型」だと、政府が感染の経路や広がり具合を「追跡」するには有用ですが、個人のプライバシー侵害につながる危険性があります。

 一方、日本などの「分散型」は、スマホ同士の近接通信機能(ブルートゥース)を利用し、誰と接触したかという情報は、個々のスマホ内に保存されます。利用者が感染した場合、保健所から発行された処理番号を自分でスマホに入力することで通知が生成され、「感染者と1メートル以内の距離で15分以上過ごした」他の利用者に届きます。そうやって初めて接触を「確認」できる仕組みです。

 通知を受け、症状があっても検査や診療を受けるかどうかなどの判断は本人に任されています。政府は、誰が感染者と接触したかという情報を持たないので、個別に働きかけることはできません。

 このような「プライバシー重視」の仕組みになったのは、アプリをスムーズに動作させるため、スマホのOS(基本ソフト)をほぼ独占するアップルとグーグルが共同開発した技術を使うために必要だったから、という事情もあります。

 自分が感染したときに、接触歴のある人に通知し注意を促す。その役割は「もし自分が感染していた場合に備え、他人にうつさないためマスクをする」ことに似ているという人もいます。利用者が増えるほど実効性は上がりますが、運用する政府に「個人データを集めて監視するようなことはしない」という信頼感があるかどうかも影響しそうです。登録は9日午後5時現在で約632万件です。(編集委員・浜田陽太郎)

 ■欧米にない「世間の目」の圧 佐藤直樹・九州工業大学名誉教授

 欧米のコロナ危機対応は、外出禁止命令や罰則付きの外出制限、ロックダウン(都市封鎖)などでした。一方、日本では「自粛」「要請」の言葉が飛び交いました。コロナ対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言での外出自粛と休業要請というゆるいものでしたが、一定の効果があったのはなぜでしょうか。欧米にない「世間」があるからです。

 「世間の目」があるので、自粛や要請に応じないものに対し、周囲から「世間のルールを守れ」という同調圧力がかかります。ルールを順守しないと世間から排除されるため日本人は生真面目にこれを守っています。

 日本人は、隣の人がちょっとでも違う行動をとることに過敏です。屋外でマスクをしなかったり、自粛の要請を守らず外出したりすることは、「世間のルール」に反する行為とみなされます。これが相互監視を生み出します。

 緊急事態宣言のもと登場した、いわゆる「自粛警察」も、世間の同調圧力と相互監視の一つのかたちです。日本では世間のルールに反したものに対し、法的根拠もなく権利や人権も無視されて、世間が事実上の処罰をおこなっているのです。「万葉集」において、山上憶良が「世間(よのなか)」をうたったように、日本では世間が千年も前から連綿と続いている。日本人はいまも世間に縛られているのです。(聞き手・畑中徹)

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 さとう・なおき 1951年生まれ。専門は世間学、刑事法学。日本世間学会幹事。「同調圧力」(鴻上尚史氏との共著)を近く刊行。

 ■通話記録や水道の利用状況からも

 監視の転換点となったのは、2001年に米ニューヨークなどで起きた「同時多発テロ」でした。生体認証の技術開発が加速し、米国などの空港では最新の顔認証技術が導入されました。ICチップ内蔵型のパスポートや、指紋などで本人を照合する出入国管理システムの導入も進みました。テロへの恐怖と安全志向が、監視を新たなステージに引きあげたのです。

 その後、技術の発展で、ドローンの活用による追跡や、AIを駆使した個人の識別や行動予測も可能に。さらに、インターネットやスマートフォンが普及し、特に高度な技術を駆使しなくても個人を監視・追跡するしくみは進んでいます。スマホの位置情報や通話記録、高速道路の利用状況や走行監視システム、交通系ICカードの利用履歴、水道や光熱などの利用状況、相乗りタクシーやカーシェアリングの利用履歴など、人物像などが推測できる情報は、私たちの生活を支えるしくみに組み込まれています。(畑中徹)

 ◇来週19日は「赤ちゃんに困ったときは?」を掲載します。アンケートをhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。

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