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 新型コロナウイルスの感染者が世界で1500万人を超えるなか、世界中の人々が「ニューノーマル(新常態)」との向き合い方を模索しています。私たちの学び方、働き方はどう変わっていくのでしょうか。米国と中国をつないで朝日新聞が開いたオンラインイベントでの対話などから考えてみます。

 ■米西海岸 在宅勤務、定着 投資家は日本企業に厳しい評価

 コロナ後の世界はどうなるのか――。6月21日に朝日新聞のオンラインイベント「記者サロン」があり、事前アンケートで寄せられた質問などについて、元米ウォールストリート・ジャーナル紙記者で米ノースウェスタン大学ジャーナリズムスクール講師のケイン岩谷ゆかりさんと、朝日新聞の米中特派員2人を交えて話し合いました。

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 シリコンバレーでは、7月になってもグーグル、フェイスブック(FB)などGAFA(ガーファ)と呼ばれる巨大IT企業で、在宅勤務を続けている社員が大勢います。付近一帯に外出禁止令が出た3月半ばから、既に4カ月以上。レストランの屋外営業などが再開され、街にはやや活気は戻りつつあるものの、オフィス街は依然閑散としており、「ワーク・フロム・ホーム(家から働く)」が、常態化しつつあります。

 米IT大手は制度化に動き始めています。FBのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は5月、「今後5年から10年かけて、社員の約50%を在宅勤務にすることが可能だと思う」と説明。社員は全世界で約4万8千人、影響は大きいです。米ツイッターも在宅勤務を「永久に」できるよう制度を整えると打ち出しています。

 「在宅勤務の制度化」は、企業に勤めるのに、住んでいる場所は関係なくなることを意味します。優秀な人材を米巨大ITが吸い上げる事態がさらに進む可能性があります。

 巣ごもり生活で、ビデオ会議システムからSNSに至るまで、社会のデジタル化は加速し、米IT大手の存在感は一層高まっています。

 英フィナンシャル・タイムズ紙が6月にまとめた「パンデミックでも繁栄する世界の100社」のランキングは興味深い内容です。コロナ下で時価総額を伸ばす世界の企業に着目することで、コロナ後の世界の企業勢力図の変化を見通せるからです。

 100社のうち米国企業が47社、中国企業は24社が入る一方で、日本企業はわずか3社。スイス・ロシュ傘下の中外製薬(本社・東京、21位)、FA(ファクトリーオートメーション)のセンサーを手がけるキーエンス(大阪、48位)、第一三共(東京、68位)だけです。トップ10のうち9社はアマゾン、FBなど米西海岸のIT企業が占めました。世界の投資家たちの目にはいま、日本企業はほとんど入っていないのです。日本の政府や企業は、コロナ後の厳しい現実を見据え、変革やデジタル化の速度を上げる必要があると思います。(サンフランシスコ=尾形聡彦)

 ■中国、個人情報フル活用 プライバシーと技術、日本は均衡点を

 中国では移動履歴などを元に個人の感染リスクを判定する「健康コード」というスマートフォンプログラムがあります。オフィスビルや飲食店の入り口で提示を求められ、「異常なし」の表示で初めて入れます。

 「プライバシーに抵抗はないのか」とよく聞かれますが、抵抗感を持つ人には出会いません。他人や企業から個人情報を守る意識は根付いてきていますが、政府による把握は問題だと思われていません。「屋根のない家で上から常にのぞき込める」と考えるとわかりやすいでしょう。

 北京で6月中旬に発生した新型コロナウイルス第2波ではGPS情報から感染リスクがある人に次々と連絡。ひと月足らずで1100万人超がPCR検査を受けました。7月下旬までにほぼ収束しています。

 一方、感染対策は「両刃の剣」となって中国経済に大損害を与えました。武漢を封鎖するなど強力な感染対策をとり1~3月期の経済成長率は統計開始以来のマイナスに。その後の復興で4~6月の成長率はプラスに転じましたが、失業や減収に見舞われた人が大量に出ました。消費の回復はまだら模様で格差の拡大も懸念されています。

 中国は感染対策にテクノロジーを駆使しました。日本は、個人情報の考え方も政治体制も違うので、同じことはできません。集められた個人情報が目的外に利用される恐れは常について回ります。ですが、流行がやまなければ絶え間なく人命が失われ、経済損失も底が見えなくなります。

 感染対策のテクノロジーと個人情報の折り合いをどうつけるべきか。イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリさんは朝日新聞の取材に「重要なのは、監視の権限を警察や軍、治安機関に与えないこと。独立した保健機関を設立して監視を担わせ、感染症対策のためだけにデータを保管することが望ましい」と独自の提案をしています。

 日本でもプライバシーに配慮した「接触確認アプリ」が導入されました。各地の新規感染者が高い水準で推移するなか、我が国なりのテクノロジーと個人情報の均衡を見いだし、積極的な対策をとることが必要となるのではないでしょうか。(北京=福田直之)

 ■米国の大学に試練 米ノースウェスタン大学講師・ケイン岩谷ゆかりさん

 大国としての米国の重要性や価値がますます後退し、影響力が徐々に弱まるのではないかと感じています。それは大学をめぐる状況にも表れています。

 西海岸の知人の子どもは2人ともカナダ、別の知人の娘はドイツ、知り合いの記者の娘は英国と、国外の大学に進む例が周りですでに増えていました。学費の高騰が著しい中、米国外にもいい選択肢がある、と目を向け始めているのです。

 そこへコロナ禍で米国の大学が、授業の半分以上をオンライン化。これまで米国の大学が第一希望だった留学予定者も、他の国や地域を選ぶ例が増えてくるかもしれません。

 妹がカリフォルニア州オレンジ郡の教育委員会で子どもの問題に取り組んでいますが、格差が大きい中、公立学校は経済的に恵まれない生徒も多く、「高い学費を払ってまで大学に行く必要があるのか」と考える例が増えていたそうです。そこへオンライン授業で勉強についていけない生徒が出ています。私立だと学校が手厚くケアできますが、公立学校は教師も低賃金で仕事に追われ、研修も特になく、なかなか難しい。

 大学進学を先延ばしにしたり、短大に行きながらアルバイトをしたりする例がますます増えるでしょう。

 ただ、悪い面ばかりではない。大学進学前の経験は「ギャップイヤー」として貴重な時期になるし、学び方が多様になるかもしれません。

 とはいえ、経営破綻(はたん)や閉鎖に至ったり財政的に苦しくなったりする大学は増えるのではないか。私が教えるノースウェスタン大学はフットボールが強くテレビ放映権料やチケット収入が大きいのですが、それがなくなり痛手です。構内にホテルやレストラン、コンベンションセンターなどを構え、その収入が大きくなっていた大学も困窮するでしょう。

 大学で学ぶこと、また大学の価値とは何かが見直されることで、大学のあり方も変わっていくのではないでしょうか。(聞き手・藤えりか)

 ■製造業縮小/揺らぐ義務教育

 皆さんは「コロナ後の世界」をどう考えているのでしょうか。イベント参加者から寄せられた声の一部を紹介します。

 ●製造業の縮小を危惧

 国内及び海外の産業構造がどう変化していくか。このままでは、自動車産業も厳しそうですし、製造業自体が縮小していくのではと危惧しています。小売りや飲食もどうなっていくのか。株価が2万円台を維持していることも気持ち悪いです。(福岡県・50代男性)

 ●買い物に行くのも窮屈

 いまだに検査を絞り軽症者の隔離もせず、老人や既往症を抱えているなどリスクの高い弱者を見捨てているようにしか思えません。かと言って経済が回っているようにも感じません。わたし自身は困窮しているワケではないですが、スーパーに買い物に行くのも窮屈です。自粛警察の目が怖いのです……。(山形県・50代女性)

 ●子どもの帰国後が心配

 渡米して2年が経とうとした矢先にコロナ。英語ゼロで来た子どもたちも今までのような学校生活が送れず、日本語も英語もどんどん中途半端な状態に。3年後の帰国予定、子どもたちはどう過ごせば日本に帰国しても自分たちの力を発揮できるのか。(米国・40代女性)

 ●私も夫もテレワーク不可

 テレワークが進むと言われていますが、実際テレワークができているのは3割くらいとも聞きます。私の仕事は飲食業なので、緊急事態宣言中も以前と同じく電車通勤してお店に勤務していました。夫は医師でやはりテレワークできない仕事です。(東京都・50代女性)

 ●家庭の教育力で格差広がる

 公教育のオンライン化も進み、教育における家庭の役割はこれまで以上に増しています。これにより、親の教養レベルが児童たちに与える格差を際だたせる結果になっています。(広島県・50代男性)

 ●人を支える仕事どうなるの

 対人援助の仕事をしている立場からすると、日常的なマスク世界になって表情や発声の微妙なニュアンスがつかみにくくなり、業務の専門性を奪われていくような危機感を感じています。人を支える仕事はコロナ後にどうなっていくのか。(山口県・60代男性)

 ●グローバル化の未来どうなる

 スペインの現地企業で仕事をしておりましたが、コロナの影響で仕事も打ち切り、現地労働ビザ申請もできず職を失いました。現在日本で就職活動中ですが、かなり厳しいです。またスペインへ戻りたいですが、今後グローバル化の未来はどうなるのでしょうか。(東京都・30代女性)

 ◇主に暮らしや働き方をテーマにした記者サロン。参加者からは教育関係への不安や意見が目立ちました。

 「女性も外にいでよ」と奨励された昭和から平成にかけて育った私にとって、日本の外で働き学ぶのはあこがれの一つでした。初めて本格的に足を踏み入れた海外は米カリフォルニアでのホームステイ。多様な人種や民族が行き交う大国・米国に、目を見開かされる思いでした。

 そんな米国がコロナであがき、街を閉じ、内向きさをも増している様は隔世の感です。懇意の南カリフォルニア大学のトーマス・ホリハン教授は「多くの教員が職を失う」と懸念。博士号を持ちUCLAで職を得た友人男性も、いつ追われるかと心配しています。

 今のもがきが、ケインさんの言う前向きな変化につながるよう、切に願います。(藤えりか)

 ◇「テレワークできない仕事は今後どうなるのか」「コロナ後に求められるスキルとは」――。イベントでは、「コロナ後」の仕事や働き方に関する質問も多く寄せられました。

 コロナ以前から、人工知能(AI)などのテクノロジーの進化で、仕事が奪われることへの懸念はありました。コロナ禍でリモートワークなどが広がり、変化は急激に前倒しされました。デジタル化が遅れていた日本企業には、生産性を上げる機会にもなり得ます。

 一方で、リモートワークができない飲食業などの人たちが最もコロナ禍の打撃を受けました。2年前までいた米国では、職を失った工場労働者が、ITなど新しいスキルを身につける状況を取材しました。変化に適応するスキルを身につけるしくみづくりが、ますます重要になると感じました。(五十嵐大介)

 ◇朝日新聞経済部の記者が、飲食店経営者の方々を交えて今後の「外食」の行方を考えるオンラインイベント「記者サロン コロナと外食」を、本日午後3時から開きます。参加は無料。お申し込みは本日正午まで。「記者サロン 外食」で検索頂くか、QRコードからご応募ください。

 ◇来週8月2日は「東京五輪・パラリンピックどう思う?」を掲載します。https://www.asahi.com/opinion/forum/でアンケートを実施中です。

 ◇ご意見やご提案はasahi_forum@asahi.comメールするへ。

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