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 記録的な豪雨により、九州をはじめ、各地で甚大な被害が出てから4日で1カ月を迎える。熊本県南部では7月4日未明、短時間に球磨(くま)川の水位が急上昇し、川からあふれた濁流が寝静まった人らを襲った。

 4日に記録した24時間降水量は、球磨川上流の多良木町が412ミリ(午後0時10分)、中流の人吉市が410・5ミリ(午前9時50分)でいずれも観測史上最大。これらの水が球磨川に流れ込み、水位は、4日午前1時からピーク時までに人吉市で5・7メートル、球磨村では8・9メートル上昇した。

 球磨村では午前5時55分、人吉市でも午前7時50分に国土交通省が氾濫(はんらん)発生情報を出した。ただ、人吉市中心部の支流は、午前6時前後、すでに氾濫していたと住民らは証言する。

 過去の水害経験から「ここまで水位が上がると思わず、自宅にとどまった」と語る人もいた。国土地理院の推定では最大浸水は9メートルに及び、ある住民は濁流を「津波のようだった」と振り返った。

 未明の増水により、多くの人が逃げ遅れたこともうかがえる。人吉市で20人、球磨村で25人が犠牲になった。平均年齢は77・8歳。ほとんどが溺死(できし)で、自宅2階で見つかった人もいた。球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」では、2階への避難が間に合わなかった入所者14人が亡くなった。

 今回の浸水推定区域は、国交省が3年前に公表した洪水浸水想定区域図(ハザードマップ)とほぼ重なる。過去の経験にとらわれず、最新の知見をもとにした備えが求められている。

 ■居座る前線、そこに大量の水蒸気、積乱雲次々

 熊本県など各地に豪雨をもたらしたのは、梅雨前線に吹き込んだ大量の水蒸気だった。積乱雲が次々に発生し、川を氾濫(はんらん)させた。

 熊本県の球磨川流域には7月3日夜から4日朝、激しい雨雲が上空を覆うようにかかり続け、400ミリを超える雨が降った。被害が目立った人吉市の市街地は、上流の山地に降った雨水が集まる盆地に位置する。気象庁が熊本県と鹿児島県に大雨特別警報を出したのは4日午前4時50分。身動きの取りづらい未明だったことも被害を大きくした。流域ではその後も断続的に雨が降り、7月上旬の降水量が1千ミリを超えた観測点もあった。

 気圧配置の関係で、東シナ海からの暖かく湿った空気が九州付近に集まるように強く吹き込む状況が続いたのが大きな要因。衛星データを解析した京都大防災研究所の竹見哲也准教授は「大量の水蒸気が入ってくるたびに、その場所で大雨が降った」と言う。6日には福岡と佐賀、長崎、8日には岐阜、長野の各県に大雨特別警報が出て、浸水や土砂崩れが相次いだ。

 気象庁によると、全国964観測点の7月上旬の降水量は合計20万8308ミリで1地点あたり216ミリ。2018年の西日本豪雨を上回り、1982年以降で最多になった。1時間あたり50ミリ以上の非常に激しい雨の回数も82回と、台風19号があった昨年10月中旬の記録を超えた。

 今年は太平洋高気圧が梅雨前線を北に押し上げる勢いが弱く、梅雨が長引き、29日にも山形県の最上川が氾濫する水害が起きた。

 地球温暖化が進めば水蒸気の量が増え、豪雨が発生しやすくなるとみられる。竹見さんは「気候は着実に変化している。『これまで起きなかった』という先入観を持たず、備えていく必要がある」と話す。

 ■全国で死者82人、家屋が農地が

 7月4日からの梅雨前線に伴う豪雨は、熊本県を中心に東北地方まで被害が広がり、31日までに全国で死者82人、行方不明者4人、負傷者28人に上った。

 消防庁のまとめでは熊本県で南部を中心に65人が死亡、2人が行方不明に。大分県で5人が死亡、1人が行方不明になった。長崎、福岡、鹿児島を合わせて、九州で76人が死亡した。

 長野、静岡、広島、愛媛でも計6人が死亡し、富山県で1人が行方不明に。浸水など住宅の被害は全国で1万7551棟に及んだ。

 河川の氾濫(はんらん)も相次ぎ、国土交通省によると31日までに熊本県の球磨川、山形県の最上川など七つの1級河川を含む192河川で堤防の決壊や氾濫が発生。土砂災害も827件起きた。

 31日までの農林水産省のまとめでは、農作物や農業施設の被害額も全国で1167億円に上っている。

 ◇この特集は、取材を神野勇人、松岡大将、渡辺七海、高木智子、千種辰弥、佐々木英輔、竹野内崇宏、枝松佑樹、グラフィックを米沢章憲が担当しました。

 <訂正して、おわびします>

 ▼3日付特集面「九州豪雨1カ月」の「7月3日から1週間の各地の降水量」の地図で、長野県「大滝村」とあるのは「王滝村」の誤りでした。入力を誤り、確認も不十分でした。