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 人の命が失われた重みを真摯(しんし)に受け止めているのか。疑念が尽きない報告書だ。

 フジテレビの人気番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんが5月に亡くなったのを受けて、同局が社内調査の結果をまとめた。

 何より驚くのは、木村さんが3月末に自傷行為に及んだと知りながら、そのまま撮影を続けようとしていたことだ。

 スタッフは本人から、番組内での言動をめぐり、ネット上で誹謗(ひぼう)中傷にさらされていると幾度も聞かされていた。SNSと距離を置き、専門家の診断を受けるよう勧めたというが、それ以上の働きかけはせず、木村さんの身近な人とも連携をとらなかった。結果として木村さんは、事態にひとりで対処せざるを得なかったのではないか。

 相手は社会経験が浅く、しかも精神的に不安定な状況にあった22歳の若者である。フジ側の対応には重大な落ち度があったと言わざるを得ない。

 報告書は、カメラの前での言動を木村さんに指示・強要したり、SNSを「炎上」させて盛り上げようとしたりしたことはなかったと結論づけた。

 木村さんの母は本人から聞いた話として、共演者に暴力をふるうようスタッフに持ちかけられたと主張している。だがフジは母親から聞き取りをしていない。これも解せない話だ。

 今回フジは第三者機関を設けず、社内の人間を中心に調査にあたった。積極的で適切な証言を得るにはその方が望ましいと考えたというが、この一事をもって不備は明らかだ。報告書には調査責任者の名も記されていない。そんなことで人々が納得すると思っているのだろうか。

 今回の番組のような出演者の日常や人格までも売り物にするリアリティーショーは、SNS時代において想定以上の中傷にさらされるリスクがある。

 そのことを関係者でどう共有していたのか。実際に番組を制作する会社とフジとで、どう役割を分担していたのか。立場の弱い出演者が、作り手側の意向に沿おうと無理をすることは十分予想されるが、いかなる手立てを講じていたのか――。

 過去の出演者や識者も交え、こうした疑問にこたえ、番組制作のあり方や契約内容に切り込む調査が求められたが、報告書は浮かんだ課題の一部を並べただけで終わっている。番組をネット配信していたネットフリックスの責任をどう考えるのかも棚上げされたままだ。

 木村さんの母は、人権侵害があったとして放送倫理・番組向上機構に審理を申し立てた。フジの一片の報告書で問題を幕引きとすることは許されない。

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