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 公職選挙法が禁じる買収の罪に問われた前法相の河井克行、妻で参院議員の案里両被告に対する刑事裁判が始まった。夫妻は無罪を主張し、検察側と徹底的に争う姿勢を示した。

 夫妻は、昨年7月の参院広島選挙区に立候補した案里被告への票の取りまとめなどを依頼し、地元の首長や議員らに現金を渡したとして起訴された。受け取ったとされるのは克行被告の後援会員を含む100人で、総額2900万円に及ぶ。

 検察側は冒頭陳述で受領側の氏名を明らかにし、夫妻は領収書を求めることもなく、「なりふり構わず」カネを配り歩いたなどと指摘した。事実であれば民主主義の基本である選挙を冒涜(ぼうとく)する許し難い行為だ。

 これに対し弁護側は、自民党の党勢拡大や地盤づくりのための寄付だったなどと主張。裁判はカネの趣旨をめぐって争われることがはっきりした。

 今後、受け取った政治家ら約120人が出廷して証言する。夫妻とどんなやり取りがあり、いかなる認識を持ったのか。正直に述べ、検察、弁護どちらの言い分が正しいのか真相解明に貢献する必要がある。それは、これまで政治活動を支えてくれた有権者に対し、責任の一端を果たすことにも通じる。

 夫妻は昨年秋の疑惑発覚後、説明を拒んだまま、国会議員の立場にとどまってきた。被告としての権利は保障されなければならないが、政治家のあるべき姿からは程遠い。朝日新聞の社説は夫妻に辞職を求めてきた。その主張に変わりはない。

 一方、摘発した検察側の対応にも大きな疑問がある。

 公選法は買収された側も処罰の対象としているが、今回、100人全員の刑事処分が見送られたままになっている。

 起訴するかどうか検察には幅広い裁量があるとはいえ、公平性を欠くとの批判は免れず、選挙違反事件に臨んできた従来の姿勢・運用とも食い違う。弁護側は、起訴しないことを条件に有利な供述を引きだした違法捜査の疑いがあるとして、起訴を無効とするよう求めた。

 あいまいな状態を続けることは、受領者の法廷での証言にも様々な影響を与える恐れがある。検察はすみやかに処分を決め、立件しないのであればその理由を丁寧に説明すべきだ。

 目的が買収であれ地盤づくりであれ、事件は政治とカネをめぐる問題の根深さを改めて浮き彫りにした。夫妻側には自民党本部から選挙前に1億5千万円もの大金が提供されたことが分かっているが、それがどう使われたのか、党は人々の疑問に答えようとしない。その態度もまた、政治への不信を深める。