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 いま世界で30万人以上の船員が、長期にわたり船を下りられず「漂流」している。

 肉体的、精神的に追い詰められ、安全な航行を続けられるかどうかも心配されている。この危うさを各国は認識し、対応を急がねばならない。

 国際海事機関(IMO)など国連の八つの機関は今月、共同声明を出した。「洋上で人道上の危機が起きている」とし、長引けば世界経済に深刻な影響を及ぼすと警鐘を鳴らす。

 日本など主要国が批准する海上労働条約は、船員の乗務期間を連続11カ月まで、と定める。だが現在乗船中の30万人以上が超過しており、17カ月以上乗り続けた船員もいるという。

 原因は、新型コロナウイルスの感染拡大である。

 船員の多くを占めるフィリピン、インド、さらに国際的なハブ港を抱えるシンガポールやアラブ首長国連邦で、国内移動や出入国が厳しく制限された。ハブ港と結ぶ航空便が大幅に減ったことも重なり、船員の交代は極めて難しくなっている。

 「数カ月も船上生活が続き、インターネットに接続して家族と話したかった」。先日モーリシャス沖で日本企業の貨物船が座礁した事故で、船員は島に近づいた理由を地元捜査機関にこう供述しているという。

 国際運輸労連は、遠洋航路の現状を「海に浮かぶ刑務所だ」と嘆く。上陸して散歩するのを禁じられたり、救急医療を拒まれたりした例があり、自殺した船員もいる、と訴える。

 感染対策との両立は簡単ではないが、新たな試みもある。

 シンガポールは今月、医療・検査施設を持つ「船員交代円滑化センター」を開いた。乗組員の交代を支えるため、政府と労使が出資して約7800万円の基金もつくる。こうした事例は参考になろう。

 海運は世界の貿易の8割以上を担う。コロナ対策に欠かせない医療物資や食料品などを運ぶのも多くは船である。グテーレス国連事務総長は、船員を医療従事者などと同様に「欠かせない労働者」だと指摘する。海運の重要性を再認識したい。

 日本にとって海運は命綱といえるほど重要だ。資源の輸入、加工製品の輸出のほぼすべてを洋上輸送に頼る。日本の船会社が運航する船の輸送能力は世界の約1割を占める。一方で、それらの船に乗る約5万5千人のうち、日本人はわずか4%だ。

 外国人船員らの厳しい労働に日本の経済と暮らしが依存している現実をふまえれば、日本は官民あげて対策に乗り出すべきではないか。他の主要国にも呼びかけ、船員らを助ける国際的な方策を主導してほしい。

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