(社説)ジャパンライフ なぜ被害は拡大したか
なぜここまで被害が広がってしまったのか。刑事責任の追及とあわせて、背景を解き明かすことが大きな課題だ。
磁気ネックレスなどを買って預けてくれれば、別の客にレンタルしてその料金を配当として支払います――。そんな販売預託商法を続けたジャパンライフ(破産手続き中)の元会長らが詐欺の疑いで逮捕された。
直接の容疑は、3年前に12人から商品の代金約8千万円をだまし取ったというものだが、同社は高齢者を中心に延べ1万人から2100億円を集めたとされる。戦後最大級の消費者被害事件と言っていい。
まず問われるべきは消費者行政の対応の遅れだ。同社が販売預託商法を始めたのは03年ごろで、09年に発足した消費者庁も相次ぐ苦情を把握していた。
14年夏には立ち入り検査が検討されたが見送りになった。その際、担当の課長補佐が「本件の特異性」「政治的背景による余波懸念」と書いた文書を作って上司に説明したことが後に判明。しかも補佐は翌夏に同社に再就職していた。16年末以降、一部業務停止命令などの処分が出るようになったが、同社は網をかいくぐって営業を続けた。
この問題は国会でも取り上げられた。しかし消費者庁は文書の真偽について回答を拒み、政治的圧力はなかったと繰り返して、真相はうやむやになっている。逮捕という事態を受けても、伊藤明子長官は再調査の考えはないと表明した。そんな姿勢で被害者の納得を得られると思っているのだろうか。
消費者庁は先月、「販売預託商法は本質的に反社会的性質を有する」という有識者委員会の見解を踏まえ、同商法を原則禁止とする方針を固めた。次の通常国会での法改正をめざすというが、不透明な経緯を残したままでは消費者行政に市民が信頼を寄せることはできない。
ジャパンライフは勧誘のチラシなどに政治家や省庁OB、著名なマスコミ関係者らを登場させていた。朝日新聞の元政治部長もその一人で、多額の顧問料を受け取っていたという。
5年前、当時の安倍首相から届いたという「桜を見る会」の招待状も勧誘に使われた。首相が支援者らを多数招き、税金を使った供応ではないかと指摘された「桜を見る会」だが、ジャパンライフとの関係も含めて、解明しなければならない疑惑が数多く残されている。
菅首相は会の開催見送りを表明することで、問題に幕を引く考えだ。前政権の負の遺産である政治不信も継承しようというのか。国会の行政監視機能が働くか、悪徳商法の被害者とともに多くの国民が注視している。
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