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 前例踏襲を見直す――。そういえば何でも通用すると思っているのか。官房長官時代にみせた、説明を嫌い、結論は正当だとただ繰り返す姿勢は、首相になっても変わらないようだ。

 日本学術会議が推薦した会員候補者6人の任命を拒否した問題をめぐり、菅首相は「そのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えた」「総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から判断した」と述べた。総合、俯瞰などもっともらしい言葉が並ぶが、6人の拒否がそれとどう結びつくのか全く分からない。

 法律は会員について、「学術会議の推薦に基づいて首相が任命する」と明記している。この規定が設けられた当時の中曽根康弘首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と国会で説明し、所管大臣も「推薦された者をそのまま会員として任命する」と答弁していた。

 会員人事に政府が介入すれば会議の独立性・自主性が危うくなり、ひいては学問の自由が脅かされる。そんな懸念にこたえて、政府が国民の代表と交わした重い約束である。

 その約束が簡単にほごにされた。前例や慣行にはそれを生みだし、存続させてきた相応の理由がある。変更すべきだと考えるのなら、正面から提起し、広範な議論に付すのが、当然とるべき手続きではないか。

 しかもこの法律の理念を踏みにじる行為は、安倍政権の頃にも事実上行われていたことが分かってきた。沈黙していた学術会議側の対応も問われるが、何より政府はここに至る経緯を明確に説明しなければならない。

 逸脱はいつから、どんな理由で始まったのか。推薦された人を「必ず任命する義務はない」とする文書を内閣府が18年に作成し、内閣法制局に示して了承を得たというが、なぜそうする必要があったのか。その際、過去の国会答弁についていかなる検討がなされたのか。

 6人の任命を拒否した理由もはっきりさせることが求められる。研究・業績に問題があると判断したのなら、専門家でない政府がどうやって評価したのか。それとも、6人が政府に批判的な言動をしたことをやはり問題視したのか。

 首相は「個別の人事へのコメントは控える」というが、今回の対応について人事の秘密に逃げこむことは許されない。説明を裏づけ、判断過程を検証できる文書をあわせて提示する必要があるのは言うまでもない。

 7、8両日には衆参両院の内閣委員会で閉会中審査がある。国会と政府の関係、憲法が保障する学問の自由に関わる重大な問題だ。首相が出席して議員の質問に答えるべきだ。

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