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 ■未知の事態、危機を実感

 新型コロナウイルス感染症は2020年、瞬く間に世界に広がった。医療取材に携わり15年ほどの私にとっても、まさに未知との遭遇。当惑が続いている。

 国内の新規感染者は、3月末に急増した。東京都だけで4月4日に100人を超し、5日には累計千人を上回った。重症者が治療を受けられないまま命を落とす「医療崩壊」がおきかねない。政府は7日、7都府県に緊急事態宣言を出した。

 患者は治療を受けられているか。医療スタッフは無事か。現場に入って様子を伝えたかったが、このころは病院は患者対応や感染対策に追われ、取材はままならない。

 医師へのインタビューを試みた。「オンラインでなら」と9日夕、国立国際医療研究センター(東京都新宿区)の忽那(くつな)賢志医師が応じてくれた。聞くうちに、背筋が凍りつくような思いをしたことをはっきりと覚えている。

 患者の受け入れはできているか尋ねると、「50施設から断られたという患者がいた。うちもお断りせざるをえない時もある。医療崩壊は始まっている」。

 崩壊を防ぐための宣言だったのでは? 遅かったのか。がくぜんとし、現場に入れないもどかしさが募った。

 その翌朝、SNSへの知人の投稿で、日本救急医学会などが9日付で声明を出したことを知った。救急医療体制の崩壊を「すでに実感している」との内容。「医療崩壊」は、なっては困る象徴的なもので、まさかなるまいと思ってきたが、危機を覚えた。

 コロナかもしれない、と発熱などの症状がある患者を拒む病院が増えていた。症状がなくても周囲に広げる、ウイルスの特徴が制御を困難にしていた。

 未知だったウイルスがゆえに対処法がわからない難しさはあったが、感染拡大を止めるには人と人の接触を減らすしかない。専門家や政府が発する「3密を避けて」のメッセージを私たちも伝え続けた。

 幸い、宣言が出た後、感染者の報告は減った。一方、街から人が消え、失業者は増加。なじみの店も複数、閉店に追い込まれた。

 ■立場の違い、報じ方苦心

 宣言の解除後、政府は感染制御と経済の両立を大目標とした。そして、感染者は再び増えた。何をどこまで許容するか。正解はみえず、手探りの発信を繰り返している。

 新型コロナに感染して死亡する人の割合は、高齢者ほど高い。9月末時点で40代0・1%に対し、80代以上は17・6%。この差もありコロナのとらえ方は「かぜのようなもの」と「感染すれば死ぬかもしれない」に二分されていると感じる。

 経済重視派、感染対策重視派のどちらの立場の人に軸足を置くか、で伝え方は変わる。まだまだ続くコロナ報道において、いかに「正しく恐れるか」。その難しさと向き合っていく。(編集委員・辻外記子)

 ■デジタルで届ける 情報求める人の姿、思い浮かべ

 朝日新聞デジタルでは、アクセス数やツイート数などを分析しながら、ニュースを編成・配信している。通常、最も読まれるのは、朝の通勤ラッシュ時とランチタイムだ。余暇を楽しむ人が多い土日は、アクセス数が減る傾向が強い。

 ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で、状況は一変した。アクセス数は曜日を問わず急増。特に各自治体が感染者数を発表する夜に向けて増えた。分析用のパソコンの向こうに、緊迫した思いで情報を求める人たちの姿を感じた。

 その信頼に応えるべく、在宅ワークも活用し、24時間態勢で、内外の記者から送られてくる最新状況の配信を続けている。蓄積してきたデータジャーナリズムの手法を使った特集も多数展開中だ。

 通常、半年近い期間を費やし企画を作り込む特集「プレミアムA」でも、緊急事態宣言が出た3日後には、「今の読者の関心に応えるものを作りたい」と社会部やクリエイティブチームが動き始めた。東京都のオープンデータを使って、当日と2週間後の感染者数の増減を組み合わせたヒートマップを作成。これに日々、小池百合子知事らを追う都庁担当者の取材メモを重ね合わせ、五輪や自粛要請などの対応に苦慮する東京都の舞台裏を描いたコンテンツを、5月15日に公開した。今月1日には、コロナ第2波を取り上げた続編もアップした。

 コロナ以外のコンテンツも多様に展開している。阪神・淡路大震災から25年を機に作成したビジュアル特集「1・17 再現/阪神・淡路大震災」では、震災を知らない世代にどうすれば実際に起きた直下型地震をリアルに感じてもらえるかを考え、当日の出来事を時間ごとに、当時の写真や映像・音声で追いながら、「あの日」を再現した。(三橋麻子)

 ■紙面で届ける 刷ったばかりの新聞、いち早く

 午前3時前。誰もいない商店街を、朝刊を前に後ろに約300部積み込んだバイクが走っていく。朝日新聞の販売所ASA世田谷に勤める宮本彰一さん(40)は、特に前カゴに積んだ新聞の“山”、業界で言うタケノコの形にこだわる。「紙がぴんと張った、きれいな状態で新聞を届けたい」。それに、と続けた。「お客様が配達の様子を見たときに、美しい姿の方が気持ちが良いでしょう」

 デジタル社会が進み、紙の新聞の発行部数は年々、落ち込んでいる。一方で、紙の新聞の価値が年々、高まっている分野がある。

 学習指導要領の改訂、大学入学共通テストの導入……。これからの教育は、「思考力、判断力、表現力」がより問われる方向にある。入試でも、日常生活を題材にしたり、複数の資料を読み解いたりして正解を導くような設問が増えるとみられている。

 「1日15分でもいいから新聞を読んで」。東京大学理科3類(医学部)に子ども4人全員を合格させた「佐藤ママ」こと佐藤亮子さんは、教育における新聞の有用性を説いている。「短い時間で多様なテーマに触れられる。読解力を鍛えるには新聞です」

 新規の読者開拓は楽ではない。宮本さんは、区域内の子どものいる世帯を丹念に回る。「新聞の価値を伝えに行く。やはりお客様の真剣度が違いますね」

 日本新聞協会が今年8月に発表した調査結果では、コロナ禍の中で最も信頼できるとされたメディアは、紙の新聞だった。「印刷工場からASAに届いたばかりの新聞って、インクの匂いが立ち上っている。お客様に求められている新聞をいち早く届けたいんです」。ASA世田谷所長の間野利幸さん(45)は、それが販売所の使命だと考えている。(深津慶造、写真は関田航)

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