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 人目を引くキャッチフレーズは避け、実務重視で各論を積み上げていく。それが菅首相の流儀なのだろうが、就任後初めての所信表明演説としては、肩すかしと言うほかない。

 菅政権発足から40日。ようやくきのう臨時国会が召集された。首相は演説の冒頭で新型コロナ対策と経済の両立を訴え、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにするという、安倍前政権までは打ち出せなかった新たな目標も掲げた。

 しかし、大半は前政権からの継承と、デジタル庁の創設や不妊治療への保険適用、携帯電話料金の引き下げなど、首相が自民党総裁選時から訴えてきた諸施策の説明に費やされた。

 内政・外交全般にわたり、ひととおりの言及はあるものの、全体を貫く理念や社会像の提示は十分とはいえない。

 「『自助・共助・公助』そして『絆』」というお定まりの言葉はあったが、その内実は相変わらずよくわからない。首相が考える自助・共助・公助のバランスに照らすと、今後の社会保障や格差是正のあり方はどうなるのか。それこそが国民の知りたいところではないか。

 首相の説明責任が問われているのに、今回の演説では全く触れられなかったのが、日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否問題である。

 法の趣旨を曲げた恣意(しい)的な人事で、学術会議の独立性・中立性を脅かすことは許されないが、首相が真に現状に課題があり、改革が必要だと考えるのであれば、まさに所信表明の中で、堂々とその根拠を示せばよい。聞かれなければ語らないというのでは、その問題意識がどこまで真摯(しんし)なものか、疑わざるを得ない。

 語られなかったもう一つのテーマが、来年1月に発効することになった核兵器禁止条約への評価である。

 確かに、批准国の数が要件を満たしたのは直前のことで、演説の中身がほぼ確定した後だった。しかし、唯一の戦争被爆国の首相が、この歴史的な節目に際し、どのような見解を示すのかは、国際社会にとっても関心事だろう。前例にとらわれずに、が口癖の首相である。新たな事態に即応し、自らの考えを示すべきではなかったか。

 首相は演説の最後で「結果を出して、成果を実感いただきたい」と強調した。確かに政策の迅速な実現は国民にとって利点もある。だからといって、丁寧な説明や合意形成のプロセスをはしょっていいことにはならない。今国会の会期はわずか41日間である。あすから始まる論戦で、首相は逃げずに、正面から疑問に答える責務がある。