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 ウイルスの増殖を抑える効果のある薬「アビガン」を、新型コロナの治療薬として製造販売する申請が出され、厚生労働省が審査を進めている。

 メーカーの発表によると、臨床試験(治験)で症状の改善が数日程度早くなるとの結果が得られ、安全面での新たな懸念は認められなかったという。

 いうまでもなく、治験は限られた人数や条件の下で実施されるものだ。承認にあたっては有効性と安全性両面からの厳格な審査が求められる。スピード感は大切だが、スケジュールありきで進めるべきではない。

 アビガンは6年前に新型インフルエンザ治療薬として承認された。このときは「他の薬が効かず、国が使用すると判断した場合にのみ」という異例の条件が付いた。動物実験で胎児に奇形が出る副作用が確認され、妊婦や妊娠の可能性のある女性には投与できない。

 今回の治験や臨床研究では、新型インフル向けに定められた用量・用法に比べ、1日の服用量は多く、投与の期間も長かった。総量が増えるぶん、安全性には一層の配慮が必要だ。

 国がどのような使い方を想定しているかも気がかりだ。

 現在、季節性インフルとの同時流行に備えて、インフルか新型コロナか疑わしい患者を、共に受け入れる病院や診療所を確保する作業が各地で進む。

 身近な医師に診てもらえるのは患者には朗報だが、広く処方されているインフル治療薬と同じようにアビガンを使ってもよいか。禁忌や使用上の注意をいかに周知するか。明確な方針を示し、それに沿った取り組みを徹底しなければならない。

 危険性が十分に認識されないまま用いられ、深刻な薬害を引き起こした例もある。教訓を踏まえた慎重な対応を求めたい。あわせて、治療を受ける側も薬の特性について理解を深め、医師らとコミュニケーションを密にとることが重要だ。

 折しも、医薬品行政の透明性を高め、副作用による被害の防止を目的とする厚労省の第三者機関「医薬品等行政評価・監視委員会」が先月発足した。薬害被害者の代表も加わっている。

 米企業が開発したレムデシビルは、国内審査を簡略化する特例措置で5月にコロナ治療薬として認可された。だが世界保健機関が暫定的ながら「死亡率を改善する効果はほとんどない」とする見解を出すなど、評価は定まっていない。委員会にはまず、5月のプロセスを独自に検証することを期待したい。

 アビガンについても将来同様のレビューがあるという緊張感をもって、厚労省は今回の承認手続きに臨まねばならない。

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