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 米国社会の融和と国際秩序の再建が喫緊の課題である。この大国の軌道を正す歴史的な重責を自覚してもらいたい。

 大統領選で、民主党のジョー・バイデン前副大統領の当選が確実になった。開票はなお続いているが、史上最多の得票数で次の政権を託された。

 共和党のドナルド・トランプ大統領は、再選を果たせなかった。選挙については裁判闘争を始めたが、不正を疑わせる情報は伝えられていない。

 異議を申し立てる証拠がないのならば、選挙プロセスを無理に滞らせず、次期政権への移行に全面的に協力すべきだろう。

 ■多元主義どう回復

 世界での米国の威信は長期的に退潮傾向にあったとはいえ、トランプ政権の4年間で内政も外交も混迷が深まった。

 バイデン次期政権はその修復にとどまらず、国際環境を安定させるための新たなリーダーシップを築かねばならない。

 大きく分ければ、「コロナ」と「経済」に争点が割れた選挙だった。23万人を超す死者を出したコロナ禍の失政を突いたバイデン氏が、経済の実績を訴えたトランプ氏を破った。

 型破りの大統領は来年1月に去る。だが、彼を支えた米社会の深層は変わらない。人種などの多様化に伴う摩擦に加え、広がる経済格差への労働層の怒りがくすぶり続けるだろう。

 地域、性別、世代など様々な分断をどう乗り越え、米国本来の多元主義を回復するか。

 勝利演説でバイデン氏は「団結をめざす大統領になる」と強調した。女性初の副大統領となるカマラ・ハリス氏とともに、国民統合の道を探ってほしい。

 グローバル化の恩恵から取り残された地方や中間所得層の不満をどう解消するかも難題だ。今回の選挙でも、国内製造業の立て直しや最低賃金の水準などの論議が熱く繰り返された。

 競争か平等かを対立軸とした資本主義社会の新たな設計は、他の国々も悩むテーマだ。グローバル経済下では、国内政策だけで答えを出すのは難しい。

 ■理念の尊重へ回帰か

 その点、バイデン氏が「中間層のための外交政策」を掲げているのは注目される。技術革新やインフラなどへの重点投資で国内雇用を生むとともに、貿易などの国際ルールづくりに積極的にかかわるとしている。

 その取り組みは、国際社会が望む多国間協調への米国の回帰につながるのか。「米国第一主義」が本当に転換するのか、世界が目を凝らすことになる。

 国際社会では、米欧や日本などの民主主義国と、中国、ロシアなどの権威主義国との価値観の対立が鮮明になっている。

 その中でトランプ氏は同盟関係を軽んじた。目先の打算で北朝鮮の首脳をたたえ、西欧は突き放すような無原則な姿勢が国際政治のモラルを侵食した。

 中国と覇権を争うさなかに、米国の強みである同盟のネットワークを損ねる。そんな矛盾した対外政策は、根底で自らの力の源泉を見誤っていないか。いまや世界は、大国間競争の時代が再来したとも言われる。

 だが、コロナ問題が示したように、地球規模の課題は大国も単独では解決できない。多極的な協調しか対処の道はない。

 バイデン氏は、トランプ政権による過ちの是正が最初の仕事となろう。気候変動をめぐるパリ協定とイラン核合意への復帰を果たし、核軍縮体制や中東政策の立て直しが必要だ。

 そのうえで、米国自身が築いてきた戦後秩序を礎に、新たな現実に対応していく結束の枠組みづくりをめざすべきだ。

 バイデン氏は就任1年目に、民主国家を一堂に集めた首脳会合を開くと宣言している。広がるポピュリズムのなかで、民主主義の復権に向けて米国が決意を示すならば意義深い。

 国連やNGOなどの組織もまじえ、国際社会の持続可能な安定と成長をめざす普遍的な理念を確認し、一国主義の蔓延(まんえん)に歯止めをかけねばならない。

 ■日本の役割を描け

 日本にとっては、対米関係が今後も重要なのは言うまでもない。だが、この4年で国際社会が学んだ教訓は、もはや特定の大国に多くを頼れる時代ではない、ということだ。

 次期米政権の中国に対する政策は見通せないが、これからも米中関係は波乱含みだろう。

 はざまに立つ日本は、欧州や豪州、アジアとの連携にさらに注力する必要がある。バイデン政権には、太平洋国家としての自覚と一貫性のあるアジア関与政策を求める必要がある。

 菅政権が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」構想は、軍事機構ではなく、法の支配や人権などの原則を広げる枠組みであるべきだ。その意味で、理念の再生をうたうバイデン氏との協働を探りたい。

 「トランプ後」の世界を描く使命は、米国だけでなく国際社会全体で背負うほかない。その出発点となる来年、日本もより多角的で自律した平和主義外交へと歩を進めるべきだ。

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