誰もが月をめざせる時代へ 朝日教育会議

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 ■東京理科大×朝日新聞

 朝日新聞社が10の大学と共催して展開する大型教育フォーラム「朝日教育会議2020」がスタートした。第1回は東京理科大学。「世界に誇る日本の宇宙研究~宇宙の探求からビジネスまで~」をテーマに、開発、探査、ベンチャー育成など様々な視点から宇宙分野の未来を語り合った。【千葉県野田市の東京理科大学野田キャンパス7号館NRC教育研究センターで10月17日に開催。インターネットでライブ動画配信された】

 ■基調講演 多様な人材で研究、成果は人類の財産 東京理科大学特任副学長・宇宙飛行士向井千秋さん

 アポロ11号が月に着陸して今年で51年。私たちはいま、宇宙飛行士だけでなく、あらゆる人が月や火星へ向かおうという時代に生きています。

 私は、日本の宇宙飛行士1期生として2度スペースシャトルに乗り、宇宙飛行をしました。現在では宇宙に関する仕事をめざす若い人も大勢いることでしょう。宇宙飛行士の仕事は、能力やバックグラウンドによって多岐にわたります。

 心臓外科医だった私は、主に無重力空間での体の変化や老化について考察しました。若田光一さんのようにロボットの専門家として、アーム操作で活躍する飛行士もいます。法律や教育など文系の知識が必要とされる職場もたくさんあります。科学や技術の分野だけで宇宙に行くことは、絶対にできません。様々な人が一緒になって宇宙開発を進めていることを、ぜひ知ってください。

 2000年代以降、宇宙開発は国際協力が当たり前の時代になりました。NASA(米航空宇宙局)が主体となって再び有人月探査をめざす「アルテミス計画」に参加、協力する日米英などの8カ国は今年10月、月の資源や科学データを人類の財産として共有したり、緊急時に助け合ったりするための合意を結んでいます。

 民間の参加もいまや不可欠です。野口聡一さんがこの度搭乗する新型宇宙船「クルードラゴン」は、米国の企業「スペースX」の開発によるものです。

 では、大学には何ができるのか。東京理科大学のスペース・コロニー研究センターがめざすのは、宇宙での滞在技術の高度化と、社会実装です。宇宙空間での衣食住が達成できれば、その技術は地球上でも役立ちます。我々はこれを「デュアル開発」と呼び、月をめざして高い目標をもっていたからこそ良いものができた、といえるような研究を進めています。

 例えば、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や民間企業と共同開発中なのは、軽量で小さく収納して輸送ができ、月面で大きく広げて居住空間にすることのできる構造物「インフレータブル・モジュール」です。地球上でも被災地などでの活用が期待されています。

 エネルギーや水、空気、食料は、月面でも地球上でも同じく重要な課題です。センターでは、温度差発電や太陽光発電のパネル開発、ゴミを有価物にして永続的に使っていけるシステムづくり、月面で自給自足するための水耕栽培法などの研究に取り組んでいます。

 大学の役割は研究ばかりではありません。学びたいと望む人に、しっかりと教育の場をつくっていくことが我々の責任と考えます。宇宙を題材にすることで、世界を大きく見ることができる人材の育成に力を注いでいます。

 新型コロナウイルス地球温暖化といった人類共通の敵がたくさんあるなか、人同士が対立している時間はありません。そして、大切なのは「ダイバーシティー インクルージョン(多様性の包含)」です。多様性を受け入れるだけでなく、どんな人とも一緒にやっていける。そういう人材を送り出していきたいと願っています。

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 むかい・ちあき 1952年生まれ、群馬県出身。医学博士。日本人女性初の宇宙飛行士となり、94年と98年の2度、スペースシャトルに搭乗した。2015年に東京理科大学副学長。現在は同大学特任副学長兼スペース・コロニー研究センター長。

 ■パネルディスカッション

 向井さんの講演に続いて、東京理科大学教授の米本浩一さん、木村真一さんが同大学の宇宙研究活動を紹介。その後、3人に加えてデザイナー、アーティストとして活躍する篠原ともえさんが登壇し、人類が宇宙で暮らす未来について意見を交わした。(進行は東山正宜・朝日新聞社科学医療部デスク)

     ◇

 ――今日は、ラジオ番組などで宇宙の魅力を発信している篠原さんに参加してもらいました。篠原さん、宇宙との出会いは?

 篠原 子どもの頃、両親にもらった双眼鏡がきっかけで、星や宇宙が大好きになりました。いまは衣装デザインも手がけていて、宇宙の深さや美しさを表現したいと思いながら活動しています。

 ――宇宙開発が大きな転換期を迎えています。

 向井 今年一番の目玉は、やはり米宇宙企業「スペースX」が初の運用飛行を行い、野口聡一さんも搭乗するということです。

 米本 機体の再利用を進めている点でも注目されています。打ち上げに多額の費用が掛かるロケットの使い捨ては、長年の問題でした。スペースX最高経営責任者のイーロン・マスク氏は「コストを100分の1にする」と話しており、宇宙船が飛行機のように繰り返し使える時代になろうとしています。

 ロケット分野では、かつてのようにボーイングやロッキードなどの大手に限らず、多数の民間企業が手を挙げ、NASAもそれを受け入れて新たなプレーヤーを集めています。1969年の月への第一歩とは大きく異なる点です。

 木村 いま取り組むべき問題として、人工衛星やロケットの破片などの宇宙ゴミについて指摘します。弾丸をはるかに上回るスピードで飛ぶ宇宙ゴミをこのままにすると、宇宙船にぶつかる危険性はもちろん、ゴミ同士が互いに接触することで爆発し、ますます数が増える。将来は宇宙に出て行けなくなってしまいます。

 米本 そのためにもロケットの低価格化は重要ですね。再利用できるロケットの開発で、これ以上ゴミを増やさないことが求められます。

 ――視聴者から「私も宇宙に行けますか?」という質問が多く寄せられています。

 向井 例えば健康面で言えば、病気があっても、血圧が高くても、コントロールの仕方で宇宙に行けるというところまで来ています。

 ――ハンディキャップのある人はどうですか。

 向井 地上でもそうですが、何をハンディと呼ぶのか。自分の体重を支えられないということであれば、無重力空間ではハンディではなくなりますよね。

 木村 宇宙にもユニバーサルデザインの視点が出てくると思います。宇宙旅行を一般化するには、生活に関わることも含め、色々な人が利用できる仕組みが必要になります。

 篠原 宇宙開発の技術が地上の社会に活用されるというのは素敵ですよね。NASAに採用された水の循環システムを自宅で利用している、という友人がいます。新しい素材作りにも興味があります。衣装の世界では、布の耐久性や臭いがつかないというのは重要な要素なので。

 木村 宇宙では服を洗えないので、臭いがつかない服は必要です。無重力空間でのシミのつきかたを学生たちが実験したこともあります。

 実はアミューズメントも大切です。宇宙船の狭い空間でどうコミュニケーションをとり、どう過ごすのか。みなさんも、コロナ禍でそれに近い経験をしたのではないでしょうか。

 ――宇宙旅行の費用はどのくらいかかりますか。

 向井 行き先や滞在時間によっても異なるでしょうが、いずれは豪華客船でクルーズに出掛けるような感覚のツアーも打ち出されるかもしれませんね。

 米本 現在の試算では、まだ数千万円といったスケールです。しかし飛行機が一般に広がったように、宇宙へ行きたいと思う人が増えれば費用も下がるでしょう。東京理科大学発の宇宙ベンチャー「SPACE WALKER」では、2029年に宇宙旅行のチケットを発売したいと考えています。

 木村 2030年代には月面で相当数の活動が行われると予測されています。宇宙の新しい活用法を思いつく人が現れたら、ニーズも爆発的に高まる。臨界点は近いです。

 篠原 宇宙は怖いんじゃないかと思っていましたが、話を聞いてとても宇宙に行きたくなりました。

 向井 私は次の仕事で、月を周遊する遊覧船の添乗員をやりたい。きっと実現すると思っています。

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 しのはら・ともえ 文化女子大学短期大学部デザイン専攻卒。1995年に歌手デビューし、近年は衣装デザイナーとしても活躍する。ラジオ番組「東京プラネタリーカフェ」でパーソナリティーを務める。

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 よねもと・こういち 1953年生まれ、工学博士。川崎重工業、九州工業大学教授を経て2019年から現職。有人宇宙飛行をめざす宇宙ベンチャー「SPACE WALKER」を17年に設立した。

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 きむら・しんいち 1965年生まれ、薬学博士。情報通信研究機構(旧郵政省通信総合研究所)を経て、2007年に東京理科大学理工学部准教授に。12年から教授。スペース・コロニー研究センター副センター長を併任する。

 <東京理科大学 スペース・コロニー研究センター>

 宇宙環境で人が長期間滞在するために必要な技術の研究開発拠点として、2017年に発足。人工衛星の部品開発や機能性材料、創エネルギー、建築、IoT・センサーなどの、同大学の研究技術を横断的に集約した。災害対策や食糧問題といった、地上社会の課題解決への貢献もめざしている。

 ■好奇心あふれる目で 会議を終えて

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、朝日教育会議は今年、初めてのオンライン開催となった。初回となった東京理科大学のテーマは宇宙開発。日本人女性初の宇宙飛行士で特任副学長の向井千秋さんらが、人類が宇宙空間で生活していくための研究を紹介。宇宙を行き来できるスペースプレーンを研究している米本浩一教授や、小惑星探査機「はやぶさ2」のカメラを開発した木村真一教授も加わって意見を交換した。

 コロナ禍にもかかわらず、世界では有人月探査をにらんだ動きが加速している。米国では民間企業が有人宇宙船を開発し、国際宇宙ステーション(ISS)との往復に使われ始めた。日本も計画への参加を正式決定し、新型ロケットや無人補給船の開発を急いでいる。10月下旬には、13年ぶりとなる新しい飛行士の募集も発表された。

 会議の後、理科大で研究されている小型ロボやスペースコロニーの模型を見学させてもらっていたら、大学1年生と2年生だという女子学生が後ろで熱心に話を聞いていた。聞くと、宇宙に興味を持っていて、木村教授のゼミにも参加しているという。好奇心にあふれる目が、とてもまぶしかった。東山正宜

 <東京理科大学> 1881年に若い理学士らにより創立された「東京物理学講習所」が起源。「理学の普及を以(もっ)て国運発展の基礎とする」を建学の精神に掲げ、「実力主義」の伝統を貫く、私学有数の理工系総合大学。東京、千葉、北海道にある4キャンパスに、7学部31学科を擁する。2021年、創立140周年を迎える。

 ■朝日教育会議

 10の大学と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。概要紹介と申し込みは特設サイト(https://aef.asahi.com/2020/別ウインドウで開きます)から。すべてのフォーラムで、インターネットによるライブ動画配信を行います(来場者募集の有無はフォーラムによって異なります)。

 共催大学は次の通りです。共立女子大学、成蹊大学拓殖大学、千葉工業大学、東海大学、東京理科大学、二松学舎大学、法政大学立正大学早稲田大学(50音順)

 ※本紙面は、ライブ動画配信をもとに再構成しました。