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 熊本県の蒲島郁夫知事が、県南部を流れる球磨川支流の川辺川に治水専用のダムを造るよう、国に要請した。

 国が1960年代に発表した川辺川ダム計画に対し、知事が自ら「白紙撤回」を表明し待ったをかけたのが08年。全国有数の清流で知られる球磨川の環境保護を重視し、「ダムによらない治水」を掲げて対策を検討してきたが、まとまらなかった。今年7月の豪雨に伴う球磨川の氾濫(はんらん)で多数の犠牲者を出し、それを受けての方針転換である。

 知事は30回にわたって流域の住民らの声を聞いた。「08年当時に比べ、民意は相当動いた」「命も、清流も守る」。こうした知事の発言からは、苦しい決断だったことがうかがえる。

 とはいえ、12年の歳月がありながら対案を示せなかった責任は免れない。国と関係自治体の協議会では、川の流量を増やす河道掘削や堤防かさ上げなどを検討したものの、工期の長さや事業費の巨額さから行き詰まっていた。数年単位で実施できる事業を重ねるという現実的な思考を欠いていなかったか、行政全体が問われる問題である。

 知事は建設を目指すダムについて、普段は水を流しながら洪水時にだけためる「流水型」にするよう訴え、発電や農業での利用など多目的の貯留型として打ち出された川辺川ダム計画の廃止を求めた。環境への負荷を抑えるのが狙いだ。

 ただ、流水型のダムは国土交通省所管分で全国に5基と全体の1%ほどしかなく、効果は不透明だ。規模や工期、事業費などは白紙の状態で、環境影響評価なども含め完成までに10年以上かかるとの見方もある。

 「ダムありき」に陥っては失敗の繰り返しになりかねない。今夏の豪雨災害の検証で国は、ダムが完成していれば浸水面積を6割減らせた地域があると推計しつつ、被害を完全には防げなかったと認めた。ダムも万能ではないと肝に銘ずべきだ。

 県は国や流域市町村とともに、ダム以外の土木工事を組み合わせた治水対策を今年度中にまとめる方針だが、避難態勢の強化や河川周辺の土地利用の見直しなど、ソフト面の手立てが不可欠なのは言うまでもない。まずは豪雨災害の検証である。避難情報の発信をはじめとする行政の対応や、避難訓練を重ねていた高齢者施設で大勢の犠牲者を防げなかった原因など、解明すべき点は少なくない。

 住民の間では、ダム反対の声は今も根強い。知事は、ダム事業の方向性や進み具合を確認するため、県や流域市町村に住民も加えた仕組みを作る意向だ。丁寧な説明と、多様な声に応じた柔軟な対応が重要だ。

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