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 大臣が所管する業界の関係者から依頼を受け、多額の現金を受け取ったという疑惑である。政策決定の公正さに疑念を抱かせる深刻な事態だ。本人が説明責任を果たすのは当然だが、政府が率先して解明に取り組まねば、信頼回復はおぼつかない。

 安倍前政権下で農林水産相を務めた吉川貴盛氏が、東京地検特捜部から任意の事情聴取を受けた。在任中に鶏卵生産・販売大手の「アキタフーズ」前代表から計500万円をもらった疑いがもたれている。地検は収賄容疑での立件も視野に入れているという。

 吉川氏は今月初め、疑惑が報じられると、心臓の治療に専念するためとして、自民党や所属する二階派の役職を辞任したが、現金授受についての説明は一切なかった。今週に入り、ペースメーカーの埋め込み手術と術後の管理のため、国会議員としての職責を果たせなくなるとして衆院議員を辞職したが、その際のコメントでも、疑惑には全く触れなかった。説明責任に背を向け続ける姿勢は厳しく批判されねばならない。議員を辞めればすむ問題ではない。

 朝日新聞の取材によると、アキタ社の前代表は18年11月から19年8月にかけて3回にわたり計500万円を吉川氏に渡した疑いがある。うち2回は、大臣室での授受だったとされる。

 その頃は、家畜のストレスを減らす「アニマルウェルフェア(動物福祉)」に基づいた飼育基準づくりが国際機関の手で進められており、前代表はこれに反対する意見を出してほしいと依頼したという。実際、日本政府は当時の基準案に反対し、修正されている。

 野上浩太郎農水相は先の国会の閉会中審査で、その時の判断は「妥当であった」と繰り返したが、野党が求める事実関係の調査には応じなかった。これでは政策判断がカネでゆがめられたのではないかという疑いを払拭(ふっしょく)することはできまい。検察の捜査とは別に、当時の経緯をつまびらかにせねばならない。

 前政権で官房長官だった菅首相にとっても人ごとではすまされない。吉川氏は菅氏と初当選同期で、先の自民党総裁選では菅氏の選挙対策本部の事務局長を務めた間柄でもある。

 菅氏が前政権に引き続いて内閣官房参与に任命した西川公也元農水相が、疑惑発覚後に「一身上の都合」を理由に辞任してもいる。西川氏は問題のアキタ社からクルーズ船で接待を受けたとされるが、同社との関係については口をつぐんだままだ。

 行政への信頼を取り戻すうえで、トップである菅氏の責任は重い。疑惑の解明に指導力を発揮すべき時だ。

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