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 ■早稲田大×朝日新聞

 コロナ禍によって根本からの社会変革が求められる中、大学はその核となれるのか。早稲田大学は朝日新聞社と「朝日教育会議2020」を共催し、「ポスト・コロナ時代の日本社会の未来」というテーマで議論した。

 【東京都新宿区の早稲田大学国際会議場・井深大記念ホールで昨年11月29日に開催。インターネットでライブ動画配信された】

 ■基調講演 課題発見し解決導く知性、必要 早稲田大学総長・田中愛治さん

 早稲田大学は2020年3月、東京大学と研究や教育、設備の相互利用などで包括的に連携する協定を結びました。

 早稲田大には東京大を相互補完する三つの強みがあります。まず、国際性。海外からの留学生は年間8千人以上、早稲田大からは4500人以上が海外へ留学しています。次に感知力です。様々な国の学生と机を並べて学ぶことで、他者に敬意を持って接し、理解する、しなやかな感性を育んでいます。最後は普及力です。現在65万人の卒業生が経済や政治、文化、スポーツなど、あらゆる分野で活躍しています。

 こうした強みの背景には、日本語と英語の論理的文章力、数学的思考、データ科学、情報科学といった基盤教育があります。これらを人文社会系・理工系を問わずに学び、論理的な発信とエビデンス(根拠)に基づいた議論が出来る力を身に付けていきます。

 ポスト・コロナ時代の社会では、間違いなくデジタル化が加速します。コロナ禍において、オンライン教育の効果が認められていますが、大学教育の真価は討論による熟議です。これからは熟議を促す対面の場と、熟慮を促すオンラインの二つを組み合わせることが重要となります。

 ビジネスの場においては、リアルとオンラインの両方に対応できる人材が求められます。あらゆるところにAIが導入されるようになり、これまでの常識が大きく変わるでしょう。そうした変化に対応でき、デジタル技術を使いこなし、かつ自分の頭で考えられる人間になることが、日本だけでなく、世界を変えることにつながります。

 私たちは今、コロナや地球温暖化など、誰も正解を知らない問題に直面しています。それに立ち向かっていくには、課題を発見するしなやかな感性を持ち、適切な解決策を導くたくましい知性が必要です。東京大との連携を機に、知の発信を実現し、社会変革を加速させていきたいと考えています。

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 たなか・あいじ 早稲田大学政治経済学部卒業。オハイオ州立大大学院修了、政治学博士(Ph.D.)取得。青山学院大教授、早稲田大政治経済学術院教授などを経て現職。世界政治学会(IPSA)会長などを歴任。

 ■プレゼンテーション 企業との「協創」、ビジョンから 東京大学総長・五神真さん

 コロナ禍において、東京大学では教育研究を止めてはならないと、春学期の授業を全てオンラインに切り替えるなど、対応してきました。これを支えたのは、近年急速に進んだデジタル革新です。

 2016年からの国の第5期科学技術基本計画に、狩猟、農耕、工業、情報に続く第5の社会像「Society5・0」が登場しました。デジタル化を進め、様々な社会課題を解決し、誰もが活躍できる社会を目指すのです。デジタル革新は例えば、スマート農業、3Dプリンターによるオンデマンド生産、個人の遺伝子の特徴に合わせて治療方法を決めるテーラーメード医療など、実空間とサイバー空間が融合した多様なサービスを生み出します。同時に経済の仕組みも、モノ中心の資本集約型から、知識やそれが生み出すサービスが価値を担う知識集約型の社会へとシフトします。

 行動変容の輪を広げるには、未来に向けた投資への資金循環が必要です。そのきっかけを作りたいと考え、20年10月に日本初の長期大学債を発行しました。

 産学連携も見直すべきです。これまで、製品開発のために必要な実験などのコストのみを積み上げて、少額で契約するのが普通でした。つまり、大学が生み出す知の価値はゼロ査定だったのです。そこで、企業と組織対組織でビジョンづくりから協働する「産学協創」という新しい仕組みを設け、現在9社と進めています。例えばダイキン工業からは10年間で100億円の研究資金を提供してもらい、学生や職員も含め千人規模で活動しています。

 より良い社会を勝ち取るために、大学を変革の原動力として活用すべきです。東京大は早稲田大と力を合わせ、社会の変革とそれを担う人材の育成に尽力していきます。

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 ごのかみ・まこと 東京大学理学部卒業。専門は光量子物理学。同大大学院理学系研究科教授、理学部長などを経て、2015年から現職。政府の未来投資会議議員などを務める。

 ■プレゼンテーション 国内外の教育コンテンツ、人気 YouTube日本代表・仲條亮子さん

 YouTubeは、多様なコンテンツを提供する「現代の動画ライブラリー」です。最近では「学び」の動画が注目を集めており、学習に役立つ動画から、資格取得やスキルアップのための動画まで、分からないことを学ぶ場として利用されています。

 コロナ禍で多くの学校が休校になった時期には、人気のある教育系チャンネルから数学や英語、科学などの動画を集めて紹介し、家庭学習をサポートしました。文部科学省もYouTube内に公式チャンネルを立ち上げ、全国の先生たちによる授業動画を配信しています。

 学習に役立つコンテンツを配信している教育系クリエーターを紹介します。「とある男が授業をしてみた」というチャンネルを2012年から運営する葉一(はいち)さんは、主に中高生向けの授業動画を配信し、日本の教育系クリエーターとしては初めてチャンネル登録者数100万人を突破しました。「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」というチャンネルを運営するたくみさんは、17年から理系大学生向けの動画を中心に配信しています。分かりやすい板書スタイルで人気を呼び、60万人近くのチャンネル登録者がいます。

 海外の例をあげると、オーストラリアの人気数学教師、エディー・ウーさんのチャンネルでは、英語を使って数学を学ぶことが出来ます。米国の教育NPO「カーンアカデミー」が運営するチャンネルでは、プログラミングや経済学など、幅広い知識を身に付けることが出来ます。YouTube上で授業の動画や資料を公開する海外の有名大学も少なくありません。

 このように多くの「学び」の動画が提供されているのは、学びの場を求める人が増えているからかもしれません。

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 なかじょう・あきこ 千葉県出身。在京テレビ局で制作に携わった後、1997年にブルームバーグ・テレビジョン・アジア環太平洋統括。2013年にグーグル日本法人で執行役員。17年から現職。

 ■パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは3人が登壇し、ポスト・コロナ時代の社会変革について意見交換した。

 (進行は藤えりか・朝日新聞経済部兼GLOBE編集部記者)

     ◇

 ――社会や経済が大きく変化する中、大学はどうあるべきでしょうか。

 五神 デジタル革新によって、知識や情報、あるいはそれらを活用したサービスが経済的価値をもつ時代に変わりつつあります。しかし、日本社会はその転換に立ち遅れ、大学で育った優秀な人材が適材適所で活躍できない例も目立ってきています。

 これを打破するためには、産業界だけでなく、行政や法制度の立て付けなど、あらゆるものを一気に改革する必要があります。大学も、18歳から22歳まで教育して社会に送り出すという従来モデルから脱却するべきです。しかし、大学から社会を変革するには東京大だけでは難しい。そこで、早稲田大と連携を結ぶことにしました。

 田中 東京大には自らベンチャー企業を立ち上げる学生も多く、時代の最先端で牽引(けんいん)するという意識が強いように感じます。それを社会に普及させていくには、ボリュームが必要です。東京大の学生と、体系的な教育によって力をつけた早稲田大生とが組むことで広がりが生まれ、他大学や企業にも波及していくのではないかと期待します。

 ――今後、大学の授業はどのようになっていきますか。

 五神 東京大では昨年4月から、5千コマを超えるすべての授業をオンラインで実施しています。多くの先生が授業のやり方を大幅に変えました。例えば、30分程度の予習用オンライン教材を用意したところ、それまで難解とされていた講義がわかりやすくなったと、学生から評価されています。

 田中 今後の大学教育は、熟慮の場としてのオンライン授業、熟議の場としての対面授業、その両方を丁寧にやっていかなくてはなりません。すると、キャンパスの設計が変わります。大教室での授業はオンラインに移行し、代わりに少人数でのディスカッションに適した教室が数多く必要になります。

 今年度はオンライン授業が大半でしたので、来年度から対面授業を全体の7割まで増やしていく計画です。キャンパス内でもオンライン授業を視聴できるよう、スペースやWiFiを整える必要があります。早稲田大ではこうした環境を徐々に整備していく予定です。

 仲條 YouTubeでは、海外の多くの有名大学が授業動画を配信しています。その内容から様々な工夫が見て取れます。

 例えば、米スタンフォード大のチャンネルは、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏ら著名人によるスピーチから、科学・技術・工学・数学を統合して学ぶSTEM教育関連の動画まであって、非常に幅広い。一般教養や専門知識を学ぶ教育も必要ですが、いろいろなジャンルをそろえ、間口を広げておくことも大切です。

 五神 授業やシンポジウムの動画を配信する際、日本では著作権の問題があります。アメリカには、公正な利用なら著作権者の許可なく使用できるフェアユースの考えが広がっていますが、日本では法律の規制が厳しく、著作権処理が必要です。

 ――コロナの影響で、大学入試はどのように変わっていくのでしょうか。

 田中 大学は答えのない問題に対し、自ら考える力を養う場です。そのために必要な基礎学力を問うのが大学入試ですから、難解な問題を解くだけの入試ではなくなりつつあります。そうした変化はコロナに関係なく、これからも進んでいくことでしょう。

 五神 東京大の入試では、知識量を問うのではなく、知識を運用する力を問うことを重視してきました。それは今後も変わることはありません。

 ――デジタル革新を担う企業としての立場から、大学や教育に期待することとは。

 仲條 企業や組織にとって、ユーザー目線に立ってデザインすることは重要ですが、大学にとっても同じではないでしょうか。若い人たちがどのように情報を集め、吸収しているのか、それをしっかりと捉え、大学自体をデザインしていってほしいと思います。デジタルの世界はトライアルに寛容です。失敗しても、そこから学び、前に進むことが出来ます。デジタル人材の育成という意味では、まずは大学内にデジタルにたけた人材を組み込んでいってもらいたいと期待しています。

 ■再起、後押しする学びを 会議を終えて

 会議を終えて控室に戻るそばで五神真・東京大学総長がつぶやいた。「ぼうっとしていたら、大学の機能の大部分はYouTubeに取って代わられる」

 「まさか大学は」と驚いたが、考えてみればまさにこの会議で仲條亮子YouTube日本代表が、いじめや不登校を経てYouTubeで受験勉強に励み大阪大学理学部に合格した男子学生を紹介していた。すでに塾や予備校で進む変化がコロナ禍の大学でさらに進む可能性はある。それほどまでの危機感をもってデジタル変革と共存もしてゆかねば、社会変革を駆動するどころか取り残されるということだろう。

 秋以降、米欧の報道を見て驚くのは、コロナ禍が日本以上に深刻な中、入学者数を記録的に増やした大学や大学院も目立つ点だ。その多くがオンライン教育の充実を誇り、コロナ禍で失職したり行き詰まったりした社会人も集めているという。「デジタル化が進めば、仕事をしながら学び直したいということも出てくる」との田中愛治・早稲田大学総長の言葉と重なる。

 社会が変われば必要なスキルは進化し、産業構造も変わりうる。コロナ禍でそうした変化が加速的に進む中、「誰一人取り残さない」(五神総長)ためにも再出発をも後押しできる学びの循環ができればと願う。(藤えりか)

 <早稲田大学> 1882年に大隈重信が創設した東京専門学校を前身とする。その歴史は三大教旨「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」や「進取の精神」といった理念によって支えられている。2020年3月、東京大学と研究や教育、設備の相互利用などで包括的に連携する協定を結んだ。

 ■朝日教育会議2020

 10の大学と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。これまでに開催したフォーラムの情報や、内容をまとめた記事については、特設サイト(https://aef.asahi.com/2020/別ウインドウで開きます)をご覧ください。すべてのフォーラムで、インターネットによるライブ動画配信を行います。

 共催大学は次の通りです。共立女子大学、成蹊大学、拓殖大学、千葉工業大学、東海大学、東京理科大学、二松学舎大学、法政大学、立正大学、早稲田大学(50音順)

 ※本紙面は、ライブ動画配信をもとに再構成しました。

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