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 ■山城の天守が見下ろす「水の町」

 内房線を乗り継ぎ東京駅から70分の木更津駅。そこから久留里(くるり)線にさらに45分揺られると、城下町として栄えた千葉県君津市の久留里地区に着く。珍しい地名は、平将門の三男の頼胤(よりたね)が「久しくこの里に留まるべし」との託宣を受けたからとも言われる。

 玄関口にあたる久留里駅はちょっと見た目はわかりにくいが、1912(大正元)年の久留里線開業当時の建物をそのまま使っている。レトロな味わいの駅舎だ。

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 駅を出て右手にあるのが、君津市の久留里観光交流センター(0439・27・2875、月曜休み)である。

 農協の倉庫だった建物を2009年にリニューアルしたもので、大谷石造り。内部は観光案内所兼休憩所になっており、地域の名産品や久留里城祭りで使われる手作りの甲冑(かっちゅう)などが展示されている。

 内部の一角を占めるのが久留里線博物館(入館料100円)だ。NPO法人久留里フィールドミュージアムの運営で、久留里線関連の鉄道資料など百数十点を展示する。12年まで使われていた円形の通行票「タブレット」や、今では珍しくなった厚紙の切符「硬券」、駅の看板や木製の料金表などが陳列され、見た目もにぎやかだ。

 「東京・千駄木で鉄道酒場を運営していた瀬戸内健三さんから寄贈されたコレクションが核。久留里の空き店舗で展示するなど、転々としたのですが、6年前からここに落ち着いた」と、同NPO法人代表の坂本好央(よしひさ)さん(58)。

 久留里は江戸時代、黒田家などが治めた久留里藩3万石の城下町として発展。交通の要衝としても栄えた。このため、江戸時代から続く商家も多く、古い町並みがよく残るとも言われるが、「実際に調べたら、現存する建物の大半は古くても昭和初めごろの建造。それも減ってきている」と坂本さんは語る。

 同NPO法人では、そのうちの「旧河内屋店舗及び主屋」(1933年竣工〈しゅんこう〉、国の登録有形文化財)を改装し、「ギャラリー河内屋」として活用してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大などで休業。もう1軒、コーヒー店として営業していた建物も事情があって昨年暮れに閉鎖した。「でも、運営希望者もいるので、早めに再開したい」

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 そんな久留里のシンボルといえば久留里城だ。駅からふもとまで徒歩で約30分。鉄筋コンクリート造りの模擬天守がある本丸までは、さらに20分かけて坂道を上る必要があり、杖を貸し出している。

 途中の二の丸跡にあるのが君津市立久留里城址(じょうし)資料館(0439・27・3478、月曜休み、無料)だ。79年の開館。市域の歴史のガイダンス施設も兼ねており、久留里藩関連の資料のほか、出土遺物なども展示されている。

 同館副館長の平塚憲一さん(50)によると、久留里城は房総の戦国大名として知られる里見氏が16世紀半ばに築いた山城の面影をよく残すという。里見氏が豊臣秀吉によって領地を召し上げられ、徳川家康が関東に入ってくると大須賀氏が、江戸時代には土屋氏、黒田氏などの譜代大名が居城し、明治維新まで続いた。江戸時代の藩主の館は山麓の三の丸にあったという。

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 展望台になっている模擬天守は78年竣工で、隣には黒田氏の時代の天守台跡が残る。戦国時代の山城の遺構としては、敵の侵入を防ぐため、尾根を人工的に切り取った「堀切(ほりきり)」などが随所にみられ、往時をしのぶことができる。

 里見氏中興の祖といわれる義堯(よしたか)は久留里城を本拠とし、越後の上杉謙信らと結んで、関東に強大な勢力を誇った小田原の北条氏康らに対抗。城はたびたび戦乱に見舞われた。模擬天守からかつての城下を眺め、そんな昔に思いをはせるのも味わい深い。

 (編集委員・宮代栄一)

 ■自噴井戸200本、名水湧く

 久留里は「水の町」として知られている。2008年の「平成の名水百選」にも千葉県内では唯一選ばれており、地区には江戸時代からの大井戸=写真=をはじめ、この土地で生まれた掘削技術「上総掘り」などで掘られた「自噴井戸」が約200本存在する。国道沿いの「高澤の水」や、ユニークなデザインの「新町の井戸」など、中には自由にくめる井戸もある。

 その代表格が駅前の「水くみ広場」の井戸だ。お茶やコーヒーのほかに、米を炊いたり、みそ汁を作ったりとあらゆる用途に使われる。地下400~600メートルから噴き上げる水は、水質がよく、おいしいことから「生きた水」と呼ばれている。

 そんな名水を使った酒造りも盛んだ。周辺には藤平酒造など5軒の蔵元が点在し、毎年3月にはおちょこ付きの試飲セットで搾(しぼ)りたての新酒が味わえる「久留里新酒まつり軒先にぎわい市」が開かれて観光客でにぎわう(昨年・今年ともに新型コロナウイルス感染拡大で中止)。このほか豊富な水を生かして、淡水魚のホンモロコの養殖も。

 一方、そんな貴重な水資源を守ろうと、活動を続ける人たちも。市民ら400人以上でつくる「ふるさとの水を守る会」は2019年に結成され、地区から10キロほど離れた場所にある産業廃棄物処分場の拡張をめぐって民事訴訟を起こしている。事務局の竹井宗弘さん(45)は「久留里の水資源は、上総掘りがもたらした文化的景観。それを後世に伝えるため、努力を続けたい」と話す。

 ■新井白石のゆかりの地

 久留里城址資料館前には、江戸幕府の6代将軍・徳川家宣に仕えた儒学者・新井白石(1657~1725)の像がたつ。白石の父・正済(まさなり)が久留里藩主の土屋利直に仕えており、江戸で育った白石も青年期に久留里をしばしば訪れた。その縁で、白石の領地があった埼玉県白岡市(旧比企郡野牛村)と君津市は友好都市協定を結んでいる。

 ◆高速バス「アクシー号」なら、東京駅~久留里駅前間は直通で約100分。各施設や店舗の営業状況はホームページなどで確認するとともに、新型コロナウイルス感染防止に十分ご留意ください。

 <訂正して、おわびします>

 ▼18日付「見つける」面の「まちの記憶 久留里」で、ふるさとの水を守る会の竹井宗弘さんについて、同会の「共同代表」とあるのは「事務局」の誤りでした。取材時の確認が不十分でした。

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