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 北海道の小さな自治体が揺れている。高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場の建設に関し、泊原発に近い寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で、国の選定プロセス第1段階の「文献調査」が始まったのだ。福島で活動する私も強い関心を持っている。原発で作られた電気を使う以上、ごみの行方にも関心を持っていたいからだ。

 現場を取材した北海道報道センターの伊沢健司記者に聞くと、「全国の人たちに自分ごととして考えてもらいたい」と語るように、現場の記者たちの思いは強い。取材を重ね、北海道版では「核のごみを問う」というシリーズ記事も掲載している。全国版にも、節目を捉えて経緯を整理する記事をいくつも載せてきた。

 しかし、読者の反応が薄いのが気になった。私たちパブリックエディターは日々、読者から朝日新聞に寄せられる声を読む。よりよい紙面づくりに生かすためだ。ところが、「核のごみ」に関する読者の声がほとんど寄せられていない。これでは編集部に突きつけるものが見いだせない。どうしたものだろう。もっと読者の関心を引きつけるような記事は書けないのか。

 北海道報道センターの橋本幸雄デスクは「道内の読者すらも反応が薄く手応えが感じられない」と、危機感をあらわにした。なぜだろう。橋本デスクは、現段階では文献調査を受け入れただけであること、泊原発がそばにあり「すでにある核のごみはなんとかすべきだ」という意識があることなどを挙げた。

 記者はどうか。伊沢記者は約2900人が暮らす寿都町の「賛成・反対」だけでは割り切れない思いを口にした。「紙面になると、突き進む町長VS.反対する町民という構図に見えてしまうが、反対する人たちも町長の政策すべてを否定しているわけではない」という。

 現地に近い小樽支局の佐久間泰雄記者は、反対運動のある寿都町とは異なる、神恵内村の「静けさ」に言及した。「村議会議員8人のうち文献調査に反対したのは2人。議員の多くは交付金が目当てで、村の将来を考えての判断だったのか。それを言葉にする力も感じられない」という。目に見えて衰退の進む人口約800人の村の議員が国の原子力政策を左右する決定を下せるのか。佐久間記者は地方議会の空洞化という問題を考えるべく取材を続けている。

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 2人の記者の言葉から異なる課題が見えてきた。一つはわかりやすい構図が複雑さを見えにくくさせるという報道の問題。もう一つが地方議会のあり方の問題だ。両者をつなぐのが「参加」というキーワードだと私は考える。メディアが単純な構図を描くほど、割り切れない地元の声は見えなくなる。対立化した議論がネットを中心に感情的、党派的になれば、賛成・反対を明確に表明できる人しか議論できなくなる。大多数は議論を遠ざけ、参加の意識は失われる。私が福島でも経験したことだ。伊沢記者も「わかりやすく描こうとするほど、あたかも一部地域だけの問題のように単純化され、全国の読者にとって『自分ごと』でなくなってしまったのかもしれない」と反省を口にした。

 地方議会もまた、住民に参加の意識が生まれなければ、監視の目も届かず空洞化を止められないだろう。民主主義の危機だ。

 読者の反応の薄さを埋める鍵も「参加」にあるのではないか。私は冒頭で読者の反応の薄さを嘆いたが、私も同じだった。賛成か反対かで即応できる話題に気を取られ、やじ馬的に共感するだけで、問題の背景や本質を理解しようと努めることも、記者たちに、ここを深掘りして欲しいと提案することもなかった。

 地方が痩せ細り、議会が劣化すれば、権力は中央集権的なものを志向するだろう。大きな負担が僻地(へきち)に流れれば、多くの国民に参加の意識は生まれず、負担や分断は地域に残る。全国紙はそうした問題を全国の人たちと考えるために欠かせないメディアだ。新聞を取り巻く「観客」である私たちにも役割はないだろうか。難しさを受け止め、記者に対して具体的に働きかければ、共に考える回路を開けるかもしれない。

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 2人の記者に、読者にできることは何か聞いた。佐久間記者は「手紙でもなんでもいい。お叱りも含めて反応があれば記者にとって励みになる」と、伊沢記者は「記事を読んだからこそ生まれた疑問をぶつけて欲しい」と語った。

 新聞は記者だけが作るものではない。暮らしや課題に密着した読者からも記事の切り口を提案できたら、新聞は私たちの強い味方になる。だから私は読者である自分にも問いたい。複雑さを受け止め、具体的な反応を記者たちに投げかけられているかと。記者たちも、わかりやすさにあらがい、難しさに直面する葛藤をさらに発信して欲しい。その往復の先に、「読者とともにつくる新聞」は生まれる。

 ◆こまつ・りけん 地域活動家。福島県のテレビ局記者などを経て、地元のいわき市を中心に活動。著書「新復興論」で大佛次郎論壇賞受賞。1979年生まれ。

 ◆パブリックエディター:読者から寄せられる声をもとに、本社編集部門に意見や要望を伝える

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