(社説)核兵器禁止条約の発効 廃絶元年、新たな歩みを前へ

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 核の脅威を国家が振りかざす愚かな時代を終わらせる。世界のそんな願いに立ち、核兵器をなくそうという「廃絶元年」の時計が動き始めた。

 きょう22日、核兵器禁止条約が発効した。保有、使用、威嚇から援助まで、あらゆる関与が全面的に禁じられる。国連での採択から3年半、50を超す非核国が批准しての出発だ。

 被爆者や国際世論の訴えが形になり踏み出す歴史的な一歩は、なお賛同せぬ被爆国・日本の針路を厳しく問うている。

人類の到達点に立つ

 この国際条約は、核兵器の存在理由を根源から問い直す。その価値を「必要悪」から「絶対悪」へと転換し、安全保障の考え方も国家ではなく人道の立場から追求するものである。

 核兵器は無益で有害という観点から国際法で関与を縛り、「核は不要」の道義を国際世論に浸透させ、究極的に廃絶を導くねらいだ。

 背を向ける核保有国と同盟諸国に法的拘束力は及ばず、ただちに核はなくせない。まずは核の役割を低減させる。保有国に使用をためらわせ、核軍縮へと動かす。そして「恐怖の均衡」に終止符を打つ。包囲網としての効果が期待される。

 ただ、条約をより有効にするために、中身を詰めるのはこれからである。

 条約は、核の保有や使用などをめぐる国同士の「援助」も禁じており、「核の傘」の下では何を違法とするか。将来、保有国が加われば核廃棄の過程をどう検証し、どの機関が担うのか――などだ。

 先の大戦後の国連憲章により、国家間の武力行使は原則的に違法化され、安保理が歯止めをかける仕組みもできた。生物・化学兵器や対人地雷なども一歩ずつ条約で禁じてきた。

 「最後の大量破壊兵器」を対象にした核禁条約は、人類がたどり着いた到達点であり、新たな起点でもある。

環境を変える外交を

 条約の始動とともに、核大国・米国に新大統領が誕生した。バイデン政権はトランプ前政権の核軍拡を転換し、「核なき世界」をめざしたオバマ路線に立ち戻る方針を掲げる。

 この機に、日本政府はかたくなな姿勢を考え直すべきだ。

 オバマ政権に対し「核の先制不使用」政策をとらないように働きかけ、核の現状を墨守しようとしたのは記憶に新しい。

 「核の傘」の下に日本が置かれているとしても、その現実をどうすれば変えられるか能動的に計画し、行動すべきだ。

 北東アジアから核の脅威を減らすために、朝鮮半島の非核化に本腰を入れる。中国の核戦力については、米国とロシアの軍縮枠組みに巻き込む環境づくりをめざす必要がある。

 容易ではないが、大国の戦略に受け身である限り、核抑止への依存は変えられない。戦争被爆国である日本は主体的な外交努力を強め、核禁条約への参画を果たさなければならない。

 核保有国と非核国の橋渡し役を掲げる以上、条約の締約国会議の場に座らずして双方をつなぐ対話も始めようがない。

 年末にも開かれる会議では先述の課題のほか、核実験などの「被害者支援」や「環境回復」の規定の運用も議論になる。そこでは、被爆者援護や福島原発事故の経験が役立つはずだ。

 日本政府が昨年の国連総会に出した核兵器廃絶決議は、棄権国が過去最多となった。対米追従と条約への反対姿勢が失望をかった側面も大きい。国際社会での信頼回復と貢献の模索は急務の課題である。

若い力で政治動かす

 この元日、長崎市平和公園被爆者や若者ら約60人が、マスク越しに核廃絶を訴えて座り込んだ。条約が動き出す今年を「核廃絶元年」に据えた。

 条約を推進する国際NGOは、まだ批准していない署名国への働きかけを強め、3年以内に批准100カ国到達をめざす。機運を高めようと、国内でも若い世代が動き始めた。

 広島・長崎だけでなく東京の学生や社会人がコロナ下にオンラインでつながり、新年から「すすめ!核兵器禁止条約プロジェクト」に乗り出した。条約の意義や賛同者の声をSNSで発信し、輪を広げる。

 広島出身で中心メンバーの慶応大2年、高橋悠太さん(20)は言う。「条約の価値と世界の変化を伝え、誰一人ヒバクシャにしない社会をつくりたい」

 政府の態度を変えるには、国会での論議をもっと活発にしなければならない。

 高橋さんらは、政治家に条約への賛否を尋ねて公開するサイト「議員ウォッチ」も運営するが、国会議員の賛同は2割にとどまる。衆院選に向けて条約参加を争点に押し上げ、有権者の判断材料にしたいと考える。

 原爆を体験した世代が去る時が、近づく。核禁条約は、75年の願いをへて次世代に託された大きな遺産だ。歩みを進めるのはほかでもなく、これからを生きる世代なのだ。